『安楽死計画』
その手紙をマカロンは《聖域》と呼ばれる
調理室の食器棚から見つけた。
その手紙は少し濡れた山羊の毛皮で包まれていた。
マカロンはまず誰がこんなものを送ったのか
検討した。
《聖域》は不可侵の領域、ここに入れるものはマカロンと、ビショップを冠する料理人と、王族、あるいは王族直属の任を賜った ハチの琥珀のネックレスをつけたものしか入れないはずだった。
《聖域》に入るには例え王族直属の任を賜ったものでも一度衣服を脱ぎ、全身をあますこと なく清め、正装に着替える必要があった。
間者など入る余地などないはずだった。
(進言せねば…..ただちに…..王に……。)
そして、《聖域》を出てすぐにこの手紙を
知らせようとした。…….そして、立ち止まって しまった。
(私は……私は…….!!!)
天涯孤独の身であり、子供の産めない体の
マカロンにとって、幼き頃より成長を見守ってきたバルザード十二世は息子同然か、それ以上の存在であった。
この頃バルザード十二世はひどく病んでいた。
戦争に、政争に、飢饉に、災害に、謀略に、
臣下達からの裏切りに外国からの間者に、
バルザード十二世を病ませる原因は星の数ほどあった。
マカロンは食と医のスペシャリストとして
最善を尽くした。
しかし、病みきったバルザードの体と心を癒すには余りにも時間が 足らなかった。
時間、それはこの王宮内にてどのような金属
よりも宝石よりも貴重なものであった。
常に間者が来るか気を張り、政治政策に
頭を悩ませる日々に睡眠などとれるはずも
なかった。
常に他国に侵略される危険のある状態で
王が気を休めれるはずもなかった。
バルザード十二世はすでに経口摂取で
食事がとれなくなるほど衰弱していた。
それでもマカロンは食と医のスペシャリスト
として王に尽くした。
最良の薬を作った。最良の点滴を作った。
最良の睡眠薬を作ったが責任感の強い
バルザード十二世はそれをうけつけなかった。
最良の最良の最良の最良の……….。
(……バルザード十二世様を救ってあげたい。)
聖母マカロンはそう思い涙した。この時、
マカロンの体液に毒性はなかった。
(あの子を、私が救ってあげなくちゃ。)
そうしてマカロンは『安楽死計画』の封を
開けた。
手紙の内容はわずか二行だった。
「最良の毒を持って苦しませずに王を楽にしてやれ。」
「女王ロカ、お前はすでに詰んでいる。」
【自白終了】