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「只今こちらのギルドに専属としてご登録いただくと、なんと三階の宿泊施設が一ヵ月間無料でご利用できますよ!? さらに、ギルド所有の温泉施設も無料でお使いいただけます! そして一日三食の食事付きでワンドリンク無料! アルコールは別料金なので気をつけてくださいね! その上なんと、武器や防具などのメンテナンス費が通常の半額でご利用いただけてお得! そして最後の目玉! 現在こちらのギルドでは冒険者の方が担当を選ぶことが可能となっておりますっ!」


 話だけ聞くと言ったらこれだ。深夜の通販番組のような怒涛の売り込みに、正直ちょっと引いてしまう。

 しかし、メリットだけ聞けば悪くない話だ。カネのない俺にとって、住み込み食事付きは大変ありがたい。

 担当を選ぶ――というのがよくわからないが、それより問題は仕事内容の方である。いきなり魔物退治などを任されて、失敗した挙句に死亡――なんてのは、まっぴら御免だ。


「確かにそれだけ聞くといい話だとは思いますが……」


「じゃあ!」


 ソフィアは嬉しそうに目を輝かせる。


「いや、待ってください。仮にギルドに登録したとして、仕事内容はどういった感じなんでしょうか?」


 ゲームや物語の中での冒険者ギルドと言えば、大きな掲示板に依頼書が貼り付けられていて、そこから自分に見合った仕事を探す――という流れだと認識している。


 その質問に二人は顔を見合わせると、何かを決意したかのように頷いた。


「特に何もしていただく必要はございません。登録するだけで結構でございます」


「いやいや、登録しただけで宿泊施設が無料で使えたり、飯が食えたりするのはおかしいでしょ……。それなら村人の誰かが、ギルドに登録すればいいじゃないですか」


「もちろんそれは可能なのですが、この村には適性持ちがいないので……」


「適性持ち?」


「はい。人は生まれながらに適性を持っています。成長によって会得することもあれば、自然と身につくこともあります」


「ちなみに俺は、狩猟適性と弓適性を持ってるぜ」


 カイルが胸を張る姿は、どこか誇らしげだ。


「つまり、ここの村人はギルド所属に必要な適性がない……と?」


「そういうことになります……」


「じゃあ俺も適性がなければ、ギルドに登録することはできないんじゃないですか?」


「いえ、|魔力欠乏症《オーバーメモリー》になる人は、何かしらの魔法適性があるはずなので、恐らくは大丈夫かと……」


 転生前にガブリエルが教えてくれた『経験が強く反映される』というのは、適性のことなのだろう。


「そこはわかりました。けど、何もしなくていいってのはどういうことです?」


「それは……」


 口ごもるソフィアは、何から話せばいいか悩んでいるようにも見えた。

 悩むほどのものなのかとも思ったのだが、俺はその話を聞いて納得したのだ。

 ギルドは畑や家畜を襲う獣や魔物、盗賊の襲撃などから村を守る抑止力となっている。隣の国とは外交上あまり仲がよくないようで、小さな戦争が頻発しているため、より報酬の高い依頼を求めてそちらに冒険者が流れてしまっている――ということのようだ。

 冒険者が村から出ていってしまうと依頼が達成されず、ギルドにお金が入らない。ギルドの赤字経営が続けば支店の撤退。結果、村人が困るということのようだ。


「もちろん依頼を受けてくださった方が助かりますが、所属登録してくださるだけでも、首の皮一枚繋がるんです!」


 必死に訴えかけるソフィア。

 ギルドの存続に必要な条件は主に二つ。一つはギルドの売り上げだ。場所によって異なるが、ギルドへの依頼料の六十%が冒険者に支払われ、残りの四十%がギルドの取り分になる。

 もう一つは、ギルドに所属している冒険者の人数や強さだ。拠点を持たずに渡り歩く、一般的な”流れ”の冒険者。それとは別に”村付き”、”街付き”、”専属”などと呼ばれる冒険者がいる。

 その名の通りその拠点でのみ活動する冒険者のことで、最低でも数か月間は縛られるが、依頼報酬とは別にギルドから毎月一時金が支給されるのだ。

 ソフィアいわく、高ランクの冒険者は報酬額の低い依頼は受けないので、必然的に低ランクの依頼が溜まってしまうらしい。高ランク冒険者がやりたがらない依頼の処理や、村の警備などが主な仕事内容になるそうだ。

 二千年前に魔王が倒されてからというもの、冒険者に憧れを抱く者や、夢を見る若者も減少傾向にある。故に地方のギルド支部は、人手不足が深刻なのである。


「ど……どうでしょうか?」


 全て話した。あとはこちらの返事待ち――といったところか。


「わかりました。俺でよければ協力します」


「「やったー!」」


 真剣な面持ちで俺を見つめていた二人は、返事を聞くと嬉しそうに歓声を上げ、手を取り合った。

 実は話の途中から受けようとは決めていたのだ。助けてもらった恩というのもあるが、ソフィアとカイルの村を守りたいという熱意が痛いほど伝わったからだ。

 しかし、自分に適性というものがあるのかどうか――。それだけが気がかりではあった。


「ただし、俺に適性がなかったら諦めてください」


 二人は、きょとんとして「そんなわけないだろう?」とでも言いたげな様子だったが、ソフィアは俺が冗談で言っているわけではないと悟り、その場合は諦めることを約束してくれた。


「おっと、そうだった。自己紹介がまだだったな。俺の名はカイル。この村で”村付き”の冒険者をやっている。ちなみに、この村は俺の故郷なんだ」


 なるほど。それならこの村に肩入れするのも頷ける。


「では、登録作業をしますのでお二階へどうぞ」


 綺麗に平らげたたまごかけごはんのトレイをカウンターに下げると、厨房から顔を出したレベッカ。


「ご馳走様。美味かったよ」


「お粗末様。あんた、ギルドに入るのかい?」


「あ、ああ」


「へえ。ソフィアも中々やるじゃねえか」


「すごいでしょ?」


 階段下で俺を待っていたソフィアは、先ほどの真剣な表情とはうってかわってフランクに答え、レベッカに向かってガッツポーズをして見せた。


「おい、おっさん。登録終わったら夕飯はウチに来なよ。うめえ飯用意して待ってるからさ」


 おっさんと呼ばれたことに少し引っかかりを感じるも、嬉しそうなレベッカの笑顔に「登録できたらそうさせてもらうよ」とだけ言い残し、俺達はその場を後にした。

死霊術師の生臭坊主は異世界でもスローライフを送りたい。

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