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「私はこの本丸の審神者。貴方の時代で言うところの大将、ってやつかな?」

そう言って微笑む彼女を絶対に守り抜くと決めたのは刀の本能だろうか。

否、本能だなんて言葉で片付けてはいけない。


彼女の白くて柔らかそうな肌と絹のように麗らかでサラサラとした黒髪。僕の名を呼ぶ、そのきれいな声。

全て、彼女の全てを僕のものにしたかった。

誰にも奪わせたくなかった。

これは執着だ。護るという形をした傲慢だ。

普通じゃない、僕にだけ芽生えてしまった異物。そう頭の冷静な部分が警鐘を鳴らす。

これは彼女の刀として不釣り合いな感情だと、無理やり折り合いを付け近侍としての職務を全うするほか無かった。


『いただきます』


彼女の方針で夕飯は大広間に集まり、皆で摂るようにしている。夜の出陣も夕飯後にわざわざずらしているのだ。

前に理由を聞いてみたとき、

「ほら、同じ釜のご飯をたべたら家族だよね、みたいな言葉あるでしょ?」

と、当たり前のように言い放った。実に彼女らしいと思う。


「卵焼き、甘い」

「え、そうかい?僕のはしょっぱいけれど。」

「今日は別の子が作ったんだね、だって光忠が作るのはしょっぱいもん。」

「覚えていてもらえるなんて嬉しいな。今日はしょっぱい派と甘い派で揉めちゃったのかな。」

「あは、私が仲裁することにならないといいけど、」


大きな大きな月が窓から覗く、きれいな夜だった。



――深夜三時、鳴り響くサイレンと、合戦場でしか聞かない、「何か」のがちゃがちゃとした不格好な動きの音。


時間遡行軍。それしか無かった。

どこから侵入した、数は、陣形は。室内のみか、濁流のように思考があふれるが、それに意味など無いのはわかりきっている。

まずは彼女だ。彼女の無事以上に大切なものは無い。本丸にとっても、僕にとっても。


居ても立っても居られずに鞘ごと刀を掴み、部屋を飛び出した。

開け放たれた大広間の襖の奥には、必死に戦う仲間と

――無惨にもパキリと折れた刀が、畳にいくつも転がっていた。音もなく、ただそこに在るだけだ。


考えてはいけない。思考は行動を鈍らせる。一瞬の迷いが全てを崩す。なんども経験しただろう?

ぐっと奥歯を噛み締め、もっと速く、速く。なんとしても間に合わせる。それだけだ。


彼女は絶対に無事である。僕が格好良く居られる方法はそう思い込むこと、唯一つだった。


彼女を護るはずだったからくりに足止めされるとは実に皮肉な話だ。

階段につながる囲い部屋が破られていた。


それは彼女の居住区が時間遡行軍の巣窟となることと等しい。

あの穢らわしい存在が彼女に触れる。あの汚らしい刃が彼女を傷つける。

嗚呼、虫唾が走る。これが美しい彼女を汚そうとしている。その冒涜性たるや。

その怒りと執着だけが僕を突き動かす。


中途半端に壊された戸を右足で蹴り飛ばし、鯉口を切った。

室内戦で太刀は不利だ。だからこそ、一回の攻撃で仕留める。

音と、空気が肌に触れる感覚と、敵の位置。全てを読み、的確に潰す。


気づけば一帯の時間遡行軍はぐちゃぐちゃとした骸へと成り下がっていて、

可愛らしい淡緑に花柄がプリントされた壁紙は傷つき、剥がれ。

その青緑にあれらの血が妙に映えていて、視界からそれを追いやるように歩みを進める他なかった。


年端もいかない少女が、彼女が選んだ可愛らしい淡緑がよりによって殺戮の色を引き立てる。

まるで少女が愛した美しい家族、本丸、全てが戦場に引きずり出された証のようだ。


そうじゃない。歴史という不可逆の存在。僕達を形造った歴史。僕達の存在を縛る鎖である歴史。

それが温かな時間の延長線上に正解として居座っていた。

それを受け入れるしかできない。

それが刀剣男士という兵器の運命だから。

後悔と返り血にまみれた僕の影法師があの壁紙にぬらりと伸びていた。

格好良く結ばれたいよね!

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