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ゆゆゆゆ
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#doublefedora
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朝。
カーテンの隙間から、白い光。
「……」
目が覚めても、しばらく動けなかった。
隣には、知らない男。
もう、名前も覚えてない。
「……」
ゆっくり起き上がる。
身体が重いわけじゃない。
ただ――
中身が、空っぽみたいに軽い。
(……何もない)
昨日の夜。
触れられて、重なって。
でも。
残ってるものは、何もない。
「……最悪」
小さく呟く。
ベッドから降りて、床に落ちていたパーカーを拾う。
袖を通す。
ポケットに手を入れる。
指先に、触れる。
硬い感触。
「……」
引き出す。
コイン。
あいつが置いてったやつ。
「……」
ぎゅ、と握る。
少しだけ、冷たい。
それだけ。
それ以上でも、それ以下でもない。
(……帰るか)
立ち上がる。
振り返らない。
男も、部屋も。
全部、どうでもいい。
***
朝の街。
人が少ない時間。
少しだけ冷たい空気。
「……」
歩く。
特に急ぐわけでもなく。
ただ、帰る方向へ。
ポケットの中で、コインを握ったまま。
(……なんで持ってんだろ)
自分でも分からない。
捨てればいいのに。
「……」
でも、手は離さない。
そのまま。
スマホを取り出す。
少しだけ迷って。
発信。
「……あ、俺」
いつもの店の番号。
「今日、休みます」
短く、それだけ。
理由も言わない。
言う必要もない。
「……すいません」
通話を切る。
画面が暗くなる。
そのまま、しばらく見つめて。
「……」
ポケットに戻す。
コインと一緒に。
***
――数日後。
カジノ。
光と音と、ざわめき。
その中に、エリオットはいた。
「……」
スーツ。
きちんと整えた髪。
指先には、整髪料の軽い感触。
チップを持つ手も、迷いがない。
「ブラックジャック」
自然に言う。
ディーラーが頷く。
カードが配られる。
視線が集まる。
でも。
気にならない。
「……」
淡々と、判断する。
引く。止める。
勝つ。
小さくチップを引き寄せる。
「いいね」
隣の男が声をかけてくる。
初対面。
でも、もう慣れてる。
「一人?」
「まあね」
軽く返す。
「よかったらさ」
グラスを持ち上げる。
「一緒にどう?」
「……」
一瞬だけ、間。
でも。
すぐに、笑う。
「いいよ」
自然に。
「遊ぼうか」
立ち上がる。
男と並ぶ。
距離も、ちょうどいい。
触れられても、気にならない。
――その時。
「……へぇ」
低い声。
「雰囲気変わったな」
足が、止まる。
ゆっくり振り返る。
「……」
チャンス。
同じスーツ。
少し疲れてるようにみえる。
「……まあね」
エリオットは、肩をすくめた。
「慣れた」
軽く言う。
何でもないみたいに。
チャンスの目が、細くなる。
「この前もさ」
エリオットは続ける。
わざとじゃない。
ただ、流れで。
「ちょっといい人に色々教えてもらってさ」
「……へぇ」
短い返事。
「優しかったよ」
「そうか」
その声。
一見、何も変わらない。
でも――
チャンスの手が、わずかに握られる。
口からこぼれた言葉。
「……誰とでも寝るやつだったんだな」
吐き捨てるみたいに。
低く。
冷たく。
「…………は?」
エリオットの顔が、初めて変わる。