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###番犬くんと優等生###
<第八章> 歪んだ謝罪
“更なる恐怖と自由”
春夜の怒号が空き教室に響き渡り、やがて彼の呼吸だけが荒く耳に届くようになった。胸倉を掴まれたまま、龍崎は微動だにしなかった。頬に春夜の拳の熱が残る。春夜の瞳には涙が滲み、その表情は怒り、屈辱、そして痛みが混ざり合った、人間らしい感情の揺らぎに満ちていた。龍崎は、そのすべてを静かに、しかし熱のこもった視線で見つめていた。春夜の感情が剥き出しになるほどに、龍崎の心は静かに、しかし深く満たされていく。
(ああ、春夜君……なんて美しいのでしょう)
龍崎の唇の端が、微かに、そして満足げに歪んだ。春夜の怒りが頂点に達したその時、龍崎は、まるで舞台の幕が下りるかのように、スッと表情を消した。彼の顔から、隠されたドSの表情が消え去り、そこにはいつもの冷静で、完璧な優等生の仮面が戻っていた。
龍崎は、掴まれた胸倉から春夜の手をゆっくりと外すと、静かに、しかしはっきりと口を開いた。
「春夜君。あなたが僕に対して、それほどの感情を抱いていたとは。本当に……申し訳ありませんでした」
その言葉に、春夜の身体が硬直した。怒りで熱くなっていた思考が、一瞬にして冷水でもかけられたかのように冷え込んだ。謝罪?この男が?予想だにしなかった言葉に、春夜は混乱した。
龍崎は、春夜の驚きを愉しむかのように、さらに言葉を重ねる。
「僕の行為は、あなたを深く傷つけ、精神的に追い詰めるものでした。あなたのプライドを傷つけ、自由を奪い、家族にも不必要な心配をかけさせてしまった。これらの行為は、僕の一方的なものであり、決して許されるものではありません」
龍崎の声は穏やかで、まるで反省を述べる模範的な生徒のようだった。その声には、一切の感情の揺れがなく、まるで感情がないかのように聞こえた。
「あなたの秘密についても、ご心配なく。僕の口から、誰かに漏れることは一切ありません。あの日のことは、僕の心の中に深く封じ込めます。約束しましょう」
龍崎は、まるで春夜の心を見透かすかのように、彼の最も恐れることを口にした。秘密の保持。それは、春夜がこの男に最も望んでいたことだった。
「そして、これからはもう、あなたに一切の干渉はしません。学校でも、校外でも、あなたに近づくことは二度とありません。あなたの日常を、僕が乱すことはもうないでしょう」
そう言って、龍崎は一歩、また一歩と春夜から距離を取った。彼の顔は、完璧な無表情に戻っていた。それは、春夜を支配する時の愉悦に満ちた顔でもなく、怒りを受け止める時の満足げな顔でもない。ただ、無色透明で、感情の読めない顔だった。
春夜は、急に謝罪してきた龍崎の言葉に、理解が追いつかなかった。怒りの沸点にあった感情が、急ブレーキをかけられたかのように宙吊りになる。謝罪?秘密を忘れる?干渉しない?なぜ、今になってこんな言葉を口にするのか。数週間もの間、自分を完璧に支配し、弄び、奴隷同然に扱ってきたこの男が。
春夜の胸に、拭いきれない恐怖がこみ上げてきた。それは、龍崎のドSな行為に対する恐怖とは異なるものだった。彼が謝罪し、すべてを「なかったこと」にしようとしているように見えることが、春夜には逆に底知れない不気味さに感じられたのだ。
(何なんだ、こいつ……?)
龍崎は、春夜の動揺を見て取ったかのように、静かに教室のドアに手をかけた。
「それでは、春夜君。これまでの非礼、重ねてお詫び申し上げます。あなたにとって、今日からが真の自由の始まりとなることを、心より願っています」
そう言い残し、龍崎は静かに教室を出て行った。ドアが閉まり、空き教室には再び重い沈黙が訪れた。
春夜は、その場に立ち尽くしていた。彼の心には、怒りも、安堵も、何もなかった。ただ、龍崎の謝罪が残した、得体の知れない不安と恐怖だけが、春夜の心を支配していた。あの男の言葉が、真実だと信じるにはあまりにも不自然だった。まるで、新たなゲームの始まりを告げるかのように、春夜の背筋には冷たいものが走った。
どうでしたか?(°▽°)
他の話も書きたいんだけどいろいろあって
手がつかない(´-`).。oO
ではまた次回!
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