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たか晴。
枕返したかはし& 花屋の晴明。
明視点。
暗い路地裏。
人なんて通るはずもなく、鳴るのは俺の足音だけだった。
『いつも以上に汚れちゃったな』
赤色に染まった服と、手と顔にまで残る血痕が、先程までの行為を思い出させる。
さっきの奴は期待外れだ。
好奇心で近づいたがもう既に知り尽くした妖怪。
最近はこんな事ばかり。
目新しいものは居ないものか。
うろうろ這い回るがそんなに上手くいかないものだ。
汚れた顔を、必死にまだ染まりきっていない服の端を使い拭おうとする。そんなことをしているうちに、随分と表通りに近付いてきた。この時間なら人も少ない。家にとっとと帰ろう。見られたらまた殺せばいいし。
『なにあれ』
まだ表通りにも入っていないのに、電気のついた建物が1軒。
見るにはとある店のようだ。
こんな深夜に開いてるなんて、どんな店だろう?どんな妖怪だろう?
『気になるなぁ……』
こんな格好で店に入ったら一発でアウトなんだろうけど、1度気になったら調べ尽くさないと気に食わない性分なもので。
如何せん妖怪なもので。
カランカラン
「いらっしゃいませ」
花を持った青年が目に映った。
笑顔が、手に持ったラナンキュラスにぴったりの青年。
青年は花を店の奥に置き、再びこちらへ向かってきた。
「なにかお探しでしたら手伝いますよ」
『…え』
俺、一応血塗れなんだけど…
何で驚かない?何で怖がらない?何で笑顔で居られるの?何で俺に近付けるの?
『………』
「あ、すみません。失礼でした…?」
青年は俺の顔を覗き込みながら言う。
『……いいや、失礼じゃないよ。ぜひ手伝って欲しいな』
『例えば、俺に合う花とか』
青年は悩む素振りも見せずにまっすぐに花を取っては持ってきた
「こちらなんて如何ですか?」
『へぇ、これは…』
青年が持ってきたのは黒百合。
………どういう意図だろう
『……これ、俺に似合ってると思う?』
「はい、とっても。」
青年は疑う余地なく俺の目を真っ直ぐ見つめている。
『……そう。じゃあ、買おっかな』
そう言いながら黒百合を受け取ると、
青年は一歩、俺の方に近付いてきた。
「……お顔、拭いましょうか?」
『え?』
今更?
そう思った瞬間、
青年はポケットからハンカチを取り、
水で濡らした。
「ちょっと、失礼しますね」
断る間もなく、 頬に触れられる。
冷たい布が、
ぬるいものを拭い取っていく。
『……っ』
普通、ここで叫ぶ。
逃げる。
警戒する。
なのにこの人は、
花の世話をするみたいな手つきで
俺の顔を拭いた。
「取れました」
そう言って、
にこっと笑う。
『……怖くないの?』
「何がです?」
『俺』
青年は少し考えてから言った。
「赤薔薇やダリアも、綺麗ですから」
『…はは、そっか』
この青年は、全て分かってる。
分かってて、俺の頬の赤を拭った。
目新しいもの、やっと見つけた。
ここにあったんだ。
俺の求めてるものは。
『ねぇ、1つ気になってたんだけどさ』
黒百合を手に持ったまま、俺は聞いた。
『どうして、こんな深夜にまでやってるの?』
こんな時間に、
こんな路地裏で、
こんな明るい店。
普通じゃない。
青年は少しだけ目を瞬かせてから、
あっさり答えた。
「必要な人が居ますから」
『……花がってこと?』
「はい」
『こんな時間に?』
「ええ」
当たり前みたいな顔で言う。
「昼と夜で、求められてる花が違うんです」
そう言って、
棚の奥を指さした。
「夜は、こういう花が綺麗に映える。」
黒い花。
暗い赤。
白すぎる白。
大体想像できる。
冠婚葬祭。
でも、だとしてもこんな遅くまで?
『……変な店だね』
「よく言われます」
青年は笑った。
「でも、今実際に必要にしている人が
居ますから」
俺を見る。
「だから、いつでも開いてるんです」
ああ、
この青年は、
俺みたいなのを待ってる。
そう思った瞬間、
背中が少し、
ぞくっとした。
『でもさ、』
『危なくない?』
青年は、
少しだけ首を傾げた。
「お花が僕を守ってくれますから」
この人はつくづく
意味が分からない。
でも、
花に囲まれたこの空間だけ、
外と切り離されてる気がした。
そんな匂いがした。
『……俺、危ない客だと思わない?』
黒百合を指で弄びながら、
わざと、軽く言った。
普通なら、
ここで態度が変わる。
距離を取る。
目を逸らす。
通報を考える。
でも青年は、
花瓶の水を替えながら言った。
「危ない、ですか」
『うん』
「……そういう人も、来ますよ」
『それだけ?』
青年は花瓶を置いて、
俺の方を見る。
「お店ですから」
『危ない人は入れないほうが良いんじゃない?』
「どうしてです?」
『……何するか分かんない』
「………みんな花を見るだけですよ」
『………もしさ』
俺は、一歩近付く。
『俺が、本当に危ない奴だったら?』
青年は、逃げない。
「その時は」
一瞬、
考える素振りをしてから。
「お花を、更にあげます」
『……何で』
「花は人の心を変える力を持ってますから」
俺にはさっぱり分からない。
でも、
分かりたくもない。
『……やっぱ、変だね』
「そんな格好で入ってくる
あなたもでしょう?」
その返しに驚いた
やっぱり、全部分かってるけど何も言わない
『……ふふ』
俺の口角が上がった。
この人は面白い。
気になる。
そそられる。
魅了される。
『俺、明って言うんだ』
『覚えてよ、お兄さん』
「知ってるよ。明。」
「たかはし明でしょ?」
『え、何で知ってるの?』
「君は今有名人だよ」
ああ、そうか。俺は今────
指名手配犯なんだった