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涼さんがバスルームに向かったあと、添い寝する覚悟でベッドルームに向かったけれど、先にベッドに入っているなんて図々しいので、バルコニーの近くにある一人掛けのリクライニングソファに座った。
窓の外はすっかり夜で、東京タワーの見える高級マンションにいるなんて嘘みたいだ。
(本当にこの家に住んでいいんだろうか)
怒濤の展開で連絡を忘れていたけれど、朱里にメッセージを送ってみる事にした。
(夜だし、篠宮さんとイチャイチャしてるかな)
とは言っても、まだ遅い時間じゃないから大丈夫とは思うけど。
【私、恵ちゃん。いま涼さんの家にいるの】
メリーさんジョークを飛ばすと、すぐに既読がつき、キャラクターがゲラゲラ笑っているスタンプが送られてくる。
【どんな感じ?】
【外商がきて沢山買い物されて、いいお肉食べさせてもらった】
すると朱里は【!!】とキャラクターが目をまん丸にして驚いているスタンプを送る。
【凄いね! 囲い込みに入ってるね! 尊さんは『本気出したか』って言ってるよ】
やっぱり本気なのか……。
【篠宮さんに、涼さんって他の女性にもこういう事をした事があるか、聞いてくれる?】
すると少し間が空いてから返事がくる。
【家に上げてそこまでやった人はいないって。付き合った女性にブランドバッグとかコスメとか買ってあげた事はあるけど、お店に行っての出来事だって。尊さんが知ってる限り、女性を家に上げた事はないみたいだよ】
「……ふーん……」
私は呟き、ギュッと膝を抱える。
【同棲したいって言ってる。ご家族にも会わせたいって。……信じていいのかな?】
いつになく弱気なメッセージを送ると、朱里はキャラクターがゴリマッチョになったスタンプを送ってきた。
この子はちょいちょい、スタンプのチョイスが変だ。
【親友の尊さんの太鼓判だよ。絶対大丈夫。慣れてないから怖いと思うけど、飛び込んでみようよ。私も尊さんは二人目の彼氏で、最初は本当に愛してくれるか分からなくて不安だったけど、とてもいい人だし好きになってもらえてラッキーだった】
朱里は一生懸命自分の気持ちを伝えてくれる。
【恵はとってもいい子だよ。性格が良くて友達想いで、裏表がなくて信じられる。涼さん、ランドでも恵を気に入ってたでしょ? 尊さんも『珍しい』って言ってたし、大丈夫だよ。涼さんは嫌なセレブじゃないし、絶対に裏切らない。もしもの事があっても、酷く傷つける事はしないって思ってる】
朱里の見解は、私とほぼ同じだ。
分かっていたけれど、背中を押してもらいたかったのかもしれない。
【……うん。ありがとう。信じてみようと思う】
そう送ると、朱里は立て続けにキャラクターがハートマークを飛ばしているスタンプや、【ファイト!】と力こぶを作るスタンプを送ってきた。
私も【がんばります】というスタンプを送り、一旦会話を終わりにする。
(……あ。Eカップになったって報告するの忘れてた。……あとでいっか)
私はスマホを置き、涼さんが戻ってくるまでソファの上で膝を抱え、ぼんやりと夜景を見ていた。
「お待たせ」
ボーッとしていると涼さんの声が聞こえ、私はピクッと肩を跳ねさせて振り向く。
ドライヤーの音も聞こえていたはずなのに、どうやら思考に没頭していたようだ。
「……お、お帰りなさい」
おずおずと言うと、涼さんはクシャッと笑って「こういうの、いいね」と言った。
そのあと、彼は小首を傾げて微笑み尋ねてきた。
「一緒に寝ても大丈夫そう?」
「……はい」
その問いに、私は顔を真っ赤にして頷いた。
「けーいちゃん」
涼さんは嬉しそうに私の名前を呼び、ゆっくり近づいてくる。
けれど足を止め、ポケットからスマホを出すと私に向けた。
「その、ちんまりと体育座りしている姿が可愛いね。写真撮ってもいい?」
「え。……ど、どうぞ……」
まさか体育座りを褒められるとは思わなかった。
「ピースとかしたほうがいいですか?」
「あっ、ピースいいね。可愛いね」
なんだか、どんどん涼さんが運動会に来たお父さんに見えてきた。
私は運動帽を被った気持ちになり、少し照れながらピースをする。
カシャッと音がしたあと、私はハッとして尋ねた。
「あの、涼さん、SNSアカウントとかあるんですか?」
「いや? ほぼしてない」
「ほぼとは」
「家族と限られた友達だけがフォロワーの、写真を見せる用鍵アカウント。自慢とかじゃなくて、俺、海外に行ったら連絡しなくなって心配させるから、SNSに写真ぐらい載せろって言われて、専用のアカウントを作ったんだ」
「はぁー……」
そう言われると涼さんらしい。
「見てみる?」
「はい」
返事をすると、涼さんはスタスタ近づいてきて、私が座っているリクライニングソファの肘掛けに腰かけた。
(わっ)
急に距離が近くなってドキッとするも、彼はスマホを操作してSNSの画面を出し、「どうぞ」と手渡してきた。
(わ……、いい匂いする……)
涼さんからは私が使ったのと違うボディソープの香りがし、ついクンクンしてしまいそうになり、内心で「犬じゃないんだから!」と突っ込みを入れる。