翔太は口に手を当てて何かを逡巡し始める
「え、早速始めようとしてる感じ?」
「…悪いかよ、長年の片思い舐めんな。目の前にチャンスが転がって来たんだ、飛びつくに決まってる」
「へぇ…」
ふいに翔太が俺の左手を取る
右手で手首を掴んで、左手で手を持ち上げる
得意の上目遣いで、俺の目をじっと見つめ続けたまま、そっと掌にキスをする
「あべちゃん、俺のこと好きになってよ」
「っ!……可愛らしいことするじゃん」
「この意味、あべちゃんなら分かるでしょ?」
「ん、今のはなかなかクるね」
「ふふん、………撫でて?」
得意気に笑ったと思うと、そのまま瞼を閉じて、持ったままの俺の手に頬を擦り寄せてねだってくる
(……やっば、ちょっと意外な方向からきたな)
「……かわいいね」
「おれ、がんばるから」
それから翔太がよく家に来るようになった
ぐいぐいとアピールをしてくるかと思いきや、意外にも普通の会話をしてゆったりと過ごしているだけだ
でも、ちょっとだけ、帰り際に甘えてくる
自分の可愛さをわかってるのを隠そうともしない仕草の数々
それがなんとも可愛らしいのに煽情的で、翔太の沼にずるずると引き摺り込まれていってるのがわかる
デートプランを披露する番組で、女性陣からは散々ひどい言われようだった翔太だが、自分が甘える側でのアプローチは随分と上手いようだ
あの日以降、初めて9人が集まる日
翔太はどう振る舞うんだろうと思いながら楽屋の扉を開けると、ちょうどその話題をしていた
「なべ、この前のは一体なんだったの?」
「んー、ちょっとね」
「説明する気ねぇな…」
「みんな、おはよう」
「あ、阿部ちゃん!おっはー!」
佐久間がいつもの調子で抱きついてくる
それを見た翔太がふいに立ち上がる
「佐久間、離して」
「へ?」
佐久間の手を取り、俺から引き剥がす
そしてそのままぎゅうと抱きついてくる
「あべちゃんは、俺のだから。だめ」
「はぁ?…お前また寝ぼけてんの…?」
驚く佐久間を横目に、抱きついたまま下から俺を見上げて首を傾げる
可愛らしく瞳をうるうるさせながらも、その奥には、違うと言わせないような強い圧があって、独占欲をここまで可憐に伝えられるのかと思う
「そうでしょ?あべちゃん」
「………そうだね」
頭を撫でると、何回かぐりぐりと頭を押し付けてくる
「わかってるならいいんだ、おれはうまく言えないから、あべちゃん説明よろしく」
そう呟いて翔太は楽屋の奥にいためめとラウールのところへ行ってしまった
「は?阿部ちゃん?どーゆこと?」
「え、ちょっとあべ〜。あの日に何があったんだよ〜笑」
「んー、晴れ渡ってると思ってた空にいきなり雷が落ちきてさ」
「阿部ちゃん、なに言ってんの…?」
「阿部、大丈夫か…」
「知らない?青天の霹靂って」
「………その言葉はわかりますけどもぉ〜」
「ははは、とにかく衝撃的な可愛さだったんだよね」
「いや、だから、わからんて!」
「かわいいって翔太が?やっぱりそういうことなの?」
「そのうち、そのうち」
「ちょっと〜!」
適当に受け流して参考書を開く
「はぁ〜、もう……ちゃんとそのうち説明しろよ」
照の一言でその話題は収束した
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