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管野アリオ
875
#オリジナル
重田💋(omoda)
886
そんなある日の仕事終わり、駅へ向かって歩いていた優來はふと道路の向かい側に見覚えのある姿を見つけて足を止めた。
「……蘇枋、さん?」
そこにいたのは紛れもなく至で、仕事モードでは無く髪は下ろされ着ているスーツも気崩されている。
更にその周囲には数人の男たちが立っていて、彼らもまた至と同じような格好をしていた。
その中心で至は男たちに淡々と指示を出しているようで至の言葉を聞き黙って頷いている。
(……何、あれ)
物々しい雰囲気に、優來は咄嗟に近くの物陰へ身を隠すとそこから様子を窺っていく。
暫くして話が終わったのか男たちはそれぞれ別方向へ散っていき残されたのは至一人。
どう考えても普通ではないと思いながらも気になってしまった優來は駄目だと思いつつも無意識にその後を追っていた。
気づかれないように距離を取りながら歩いていき、至が曲がり角を曲がった瞬間、
「……で?」
「――っ!」
その先では至が、まるで最初から待ち構えていたかのように壁に背を預けながらを見下ろしている。
「何?」
「あ、いえ、その……」
まさか気づかれていたとは思わず優來は言葉に詰まる中、そんな優來を見ていた至は僅かに目を細めた。
「いつもと雰囲気違ったから……」
「ふーん? 気になったんだ?」
「別に、そういうわけじゃ……」
慌てて言い訳しようとした、そのときだった。
「――女とイチャついてんじゃねぇよ!」
突然、至の背後から怒鳴り声が響き、
「――っ!?」
一人の男が二人めがけて突っ込んで来て、その手には鈍く光るナイフが握られていた。
「え……」
優來の身体が強張り、逃げなければと思うのに足が動かずその場に立ち尽くしていると、
「下がってろ」
低い声で優來にそう指示した至は軽く構え、ガンッ!! と鈍い音を響かせながら男の手首を蹴り上げてナイフを地面へ落としていく。
「ぐっ……!」
そして男が怯んだ隙を逃さず至はその腕を捻り上げた。
「がぁっ!?」
苦しそうな声を上げた男の身体が優來の目の前で地面へ叩きつけられる。
それは一瞬の出来事かつあまりにも鮮やかで、優來はただ呆然とその光景を見つめるしかない。
至は地面に押さえつけた男を冷たく見下ろした。
「テメェ、|笹枝《ささえだ》組のヤツだな?」
「……っ!」
「この前のじゃ足りなかったか? 次舐めた真似したら容赦しねぇからな」
至の低く凄みのある声に男は顔を青ざめさせると慌てて立ち上がり、
「す、すみません……!」
それだけを口にすると逃げるようにその場を去っていく。
優來は未だ息を呑んだまま動けなかった。
(今……笹枝組、って言った?)
至のことを普通の人ではないとは思っていた。
少しくらい血の気が多い人なのだろうと。
けれど、そんなものではない。
今の至と先程の会話から感じたのはもっと別の――自分が今まで知らなかった危険な世界の何かだった。
そんな考えが優來の頭を過ったとき至が振り返ると、それまで纏っていた冷たい表情がすっと消えた。
「……悪いな、巻き込んで」
「……いえ」
返事をしたもののその声は僅かに震えていて、それに気づいた至は一瞬だけ優來を見つめるも何事もなかったかのように口を開いた。
「車で来てるから送る」
「だ、大丈夫です」
送ると言われて反射的に断った優來だが、至は間髪入れずに言った。
「駄目だ。危険だから送る」
「でも……」
「――これは命令だ」
「……っ」
その瞬間空気が変わり、逆らうことを許さない強さがあった。
優來は思わず息を呑み、
(怖い……けど、逆らっちゃ、ダメだ……)
そんな直感が身体の奥底から込み上げてくる。
「……分かりました」
優來が小さく頷くと至はそれ以上何も言わずに踵を返して歩き出したので、優來はその背中を見つめながら静かに後を追った。
(この人は……一体、何者なんだろう)
そんな疑問と共に自分は今、知らなくてもよかった世界へ踏み込んではいけない場所へ少しずつ足を踏み入れてしまった……そんな気がしてならなかった。
コメント
1件
あー、やばかった……。至さんのあの「命令だ」の圧、めちゃくちゃ効いた。普段はあんなに優しいのに、一瞬で空気が変わる感じ、本当に怖くてかっこよかったよ。優來ちゃんが足を踏み入れちゃいけない世界に片足突っ込んじゃった感、すごく伝わってきた。あのナイフの男を一蹴するシーンも鮮やかで、ギャップにドキドキが止まらなかった……。次が気になる🥀