テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
管野アリオ
875
#オリジナル
重田💋(omoda)
886
(駄目よ……! こんな男のペースに飲まれちゃ……!)
そう自分に言い聞かせた瞬間、優來はハッと我に返った。
いつの間にかすっかり至のペースに乗せられ、これ以上彼のの言葉を聞いていたら本当に何をされるか分からない。
そう思った優來は慌てて至の胸元を押し退けると一歩二歩と距離を取った。
「私、軽い男の人って苦手なんです! それに、異性に対して不誠実な人も!」
そして勢いのまま言い放つと至は少し目を見開いた。
「何だよ? 俺は優しいぜ?」
「嘘ばっかり! 女に困ってないくせに!」
「まあ、別に困ったことはねぇけど……」
あっさり認められて優來はやっぱりと眉を寄せたけれど、続けられた言葉に胸が跳ねた。
「俺は他の女じゃなくて、お前がいいって言ってんだけど?」
「……っ」
冗談なのか本気なのかが判断出来ないけれど、その言葉に優來の心が揺さぶられたことだけは確かだった。
それを悟られまいと優來は至を睨みつけ、
「勝手なこと言わないでください。迷惑です!」
言い切った瞬間、胸の奥がひやりとした。
(……しまった……!)
相手は血の気が多く、平気で物騒な言葉を口にするような危険な人物なのに、そんな男を相手にここまで強く言い切ってしまったと後悔が押し寄せて来たけれど後には引けなかった。
「……失礼します」
優來はそれだけ告げると半ば逃げるようにその場を立ち去った。
一歩ずつ歩みを進めていく中で追ってくる気配がないことを願っていたのだけど、いくら歩いても後ろから足音が聞こえてこなかった。
そしてそのまま歩みを進めて曲がり角を曲がったところで優來は足を止める。
「……追って、来ないんだ」
安堵したはずなのに優來の胸の奥に小さな違和感が残った。
追って来ないほうがいいと思っているのに、どうしてか少しだけ拍子抜けしてしまう自分に戸惑う。
(……私、何を考えてるの? あんな風に軽く言ってくる男にろくな奴はいないんだから! 絶対関わっちゃ駄目!)
これ以上深入りしない、業務以外で絶対に関わらないことを胸に誓った優來は再び歩き出して帰路へ着くのだった。
あの日以降も二人の間で交わされる業務上のやり取りは、これまでと何も変わらなかった。
打ち合わせで顔を合わせても勤務中ということもあって至は必要以上に絡んでくることもない。
仕事の話をして必要な確認をして、それが終わればそれぞれの仕事へ戻る。
それが当たり前なはずなのに、
(……何だろう)
優來の胸の奥には妙な物足りなさが残っていた。
そして、その正体を考えるたびにあの日の至の言葉が蘇る。
『俺は他の女じゃなくて、お前がいいって言ってんだけど?』
あれ以来その言葉が優來の頭から離れず、何気ない瞬間に思い出しては心が落ち着かなくなる。
ただ優來は軽い男が嫌いで、女にだらしない男も口ばかりで一途ではない男も絶対に無理で、ましてや自分だけを特別だと言いながら別の女にも同じような言葉を囁く男なんて一番嫌いだった。
(もう絶対、傷つきたくないもの……)
そう思った瞬間、ふいに過去の記憶が脳裏をよぎった。
社会人になってから付き合い始めた元恋人――七海 流星。
合コンで出会った同い年で三年付き合い、一年が経った頃からは同棲もしていて結婚の話まで出ていたほどに順調だと思っていたし、付き合っていた頃に彼は何度も言っていた。
『好きだよ』
『愛してる』
『俺にはお前だけだから』
口が上手く女性の扱いにも慣れていた彼。
初めの頃はそこに不安もあったけれど、それでも優來は彼を信じていた。
その愛は自分にだけに向けてくれていると。
けれど、その裏で彼は別の女性と関係を持っていた。
しかも、一人ではなく複数人と。
コメント
1件
ああっ、至くんの「俺は他の女じゃなくて、お前がいい」って言い方、ズルすぎるでしょ〜〜!!😭💕 優來ちゃんも必死に抵抗してるけど、もう心揺れてるのがバレバレだよ…! あの過去のトラウマも相まって、近づきたいのに近づけないジレンマがめっちゃエモい…。次が待ち遠しすぎる〜!!⋆♡