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ジェニは、ここ数日間は松下竜馬にいじめるようなキスをされたことをなるべく考えないように過ごした。考えたらとてもではないけど正気ではいられないぐらい混乱するからだ
彼は自分を嫌っていたはず・・・そして自分も大嫌いだ、今日も相変わらず沢山ある付箋処理をする、周りにはうわの空と気づかれないように
ジェニは神崎広告代理店のためにせっせと増やしている顧客リストを眺めた、このリストは自分の仕事の実績において誇りとなるものであり、ジェニの並々ならぬ意欲と会社への献身を示すものだった、いつもはこのリストを見ると意欲が湧き、まだまだ自分はやれると思うものだった
実際スケジュールを決め、必ず納期を守るように気を配り、話し合い、討論し、ギリギリの予算内で収めるように留意し、マーケットリサーチを依頼する
そして新しい顧客を開拓し、今までは常にプレッシャーを感じつつ、常にジェニ一人が会社を背負って追い越し車線を走るような生活をしてきた
しかし、ここへ来て、さらに社員の首切り問題だけでもジェニの中でいっぱいいっぱいなのに、意地悪な新しいボスが怒り心頭で自分にキスしてくるなんて、もう手に負えない
今度会ったらどんな顔をすればいいのだろう、あんなすごいキスをする人に、そしてあの時自分が応えてしまったこと・・・ボンッと突然体に火が着いたように熱くなった、なるべく思い出さないようにしていたのに、あれだけ彼を軽蔑しておきながら彼のキスで全てを忘れそうになった
それこそ自分の頭のメモリに一括削除機能があって、都合の悪い事は全部削除できたらいいのに、そう考えると、また、たちまち松下竜馬の唇の感覚が蘇る・・・ジェニは立ち上がってがむしゃらにシャドーボクシングをした
―もう忘れるのよ!あれはただ単に、嫌がらせだったんだから―
続いてジェニはブンブンと首を振って、どんどん付箋をハート形の手動式のシュレッターにかけていった
―あのキス事件で、私がビクビク怯えて逃げ出すとでも思ったら、大間違いよ、どんなに松下竜馬にいじめられても、みんなは私が守って見せる、そのためには彼に実力を認めてもらわなくては―
しかし、相手はビジネス界の大物だ、私の仕事は今危機に直面している、でも私には仕事しかない、仕事と社員は私の命だ、戦って守る価値はあるものだと、手動式のシュレッターのレバーをグルングルン回した
「レバーが壊れるわよ」
「わっ」
後ろに藤子がいるのに気が付かなかった、ジェニが飛び上がった
「大変、大変、真紀ちゃんがレイたんを会社に連れて来てるわ」
「なんですって?!」
その時、真紀が赤ん坊を腰に抱き、もう片方にスマートフォンを耳にあて、話しながら歩いて来た、おそらく彼女が抱えているクライアントと話しているのだろう、その存在こそあまり知られていないが、彼女は神崎広告代理店の神WEBデザイナーだ、真紀が心配そうにジェニに言う
「すいません・・・麗華の保育園の保育士さんが、立て続けにコロナウィルスにかかっちゃって・・・今週1週間保育園が閉園になってしまったんです、それで急遽ベビーシッターを探しているんですけど、見つからなくて・・・」
ジェニは154cmほどの小さな真紀に抱かれている、生後10か月の赤ん坊を見た、途端に甘い痛みにハートを撃ち抜かれ、真紀から赤ん坊をひったくった
猫の耳のついた帽子に、ピンクのつなぎに足までスッポリ包まれた、麗華の甘いベビーパウダーの香りを吸い込んだ、
―・・・ああ天国だわ―
「レイた~~~ん♪会いたかったぁ~~~ん(はぁと)」
麗華の首元にブチュブチュブチュと音を鳴らしてキスをする、麗華が「キャッキャッ」と声をあげてご機嫌で笑う、そして藤子に渡すと藤子も同じように赤ちゃん言葉でブチュブチュとキスをし、麗華は一通り毎回行われる、この二人のキスの洗礼を笑顔で受ける
しばらく三人で麗華を回し抱っこしながら話し込む
「そう・・・それは真紀ちゃんも大変ね、でもこっちもいろいろと大変なの、在宅でやって欲しかったんだけど・・・」
ジェニが真紀に言うと、真紀が怒って顔をしかめた
「もちろんそのつもりだったんです!あの有名ショップサイトがせっかく私のグラフィックデザインを気に入ってくれて苦労してやっと大型予算で捕獲したのに、今日から取り組もうと思っていたんですよ!なのにメビウスはここの特殊なWiFi電波システムの中でしか業務ファイルを開けなくしているんです!だから仕方がなくこの子を連れてやって来たんですよ」
「ええっっ?!それじゃ、仕事を家に持って帰れないってこと?」
藤子も麗華を抱っこして、上下に揺すりながら目を見開いて驚いている
「そういえば、リモートや在宅勤務は効率が下がるから推奨していないって松下竜馬が言ってたわ・・・」
ジェニが手を口元に持っていって考えた、松下竜馬と名前を口に出した途端、あのキスを思い出して、ジェニは頬が熱くなった慌ててごまかすために藤子から麗華をひったくった
「こんなやり方横暴です!今までは子供がいても働ける環境をジェニさんが作ってくださっていたから良かったけど・・・」
「真紀ちゃん・・・お仕事を1週間お休みするしかなさそうね」
藤子の言葉に真紀は青ざめた
「それは絶対だめですっ!私が抱えている案件は他の誰かが変われるものではありません、通常とは違うんですよ!」
「私がクライアントに事情を説明して納期を伸ばしてもらえるようにするわ、ここはなんとか良好な関係を保ちたいから」
ジェニが思慮深げに言うと真紀が畳みかけるように言う
「納期を伸ばす時点で、あそことは縁が切れます!!」
「そのとおりよ」
ジェニは真紀をじっと見つめた、自分の仕事に対して情熱を持っている人は自分と同じように情熱的なクライアントと結びついてるものだ、ジェニが真紀を気に入っている所がここだ
今の一度も彼女が子供を理由に、仕事をおろそかにしたことはない、だからこそジェニは真紀を応援して信頼していた。二人はう~んと考え込んだ、麗華がジェニの肩に頭を持たせて拳を口に入れながら、クピクピ言ってる
「大丈夫!私に任せて」
藤子が名案があるようにウィンクして二人に人差し指を掲げて言った
#バスケ部
伊織
69
蒼乃 月
828
コメント
1件
読み終わりました!第19話、めちゃくちゃ面白かったです。ジェニの葛藤がすごくリアルで、あのキスの記憶が頭から離れなくてシャドーボクシングしちゃうシーン、思わず笑っちゃいました(共感)。赤ちゃんレイたん登場で一気にほっこりした空気になったのも良かったです。でも真紀ちゃんの仕事環境の問題が浮上して、また新たな波乱が…松下竜馬の在宅禁止ルール、きっともっと深い意図がありそうで、続きが気になります!