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昼のピザ屋はうるさい。
オーブンの音。
皿の音。
客の声。
「エリオット!注文!」
「はいはい!」
俺はトレーを持ってカウンターを行き来する。
いつも通り。
普通。
……のはずなんだけど。
なんか落ち着かない。
ポケットに手を入れる。
何もない。
カウンターに手を置く。
落ち着かない。
なんでだろ。
オーブンの前で立ち止まる。
その瞬間、気付く。
ネクタイがない。
当たり前。
ここピザ屋だし。
制服はTシャツ。
でも。
指が無意識に動く。
何かをつまもうとしてる。
……ない。
「エリオット?」
同僚が怪訝な顔。
「どうした?」
「いや」
俺は首を振る。
でもまた手が動く。
空中をつまむ。
……ネクタイの高さ。
「お前さっきから何してんの」
「別に」
違う。
別にじゃない。
朝のこと思い出す。
テーブル。
コーヒー。
チャンス。
白シャツ。
黒ネクタイ。
くい。
体が少し前に来る。
あの感じ。
……あれ。
思い出した瞬間。
落ち着かない。
「エリオット!配達!」
「あ、はい!」
ピザ箱を持つ。
外へ出る。
バイクにまたがる。
エンジンをかける。
でも。
ハンドル握りながら思う。
今ネクタイ引きたい。
なんでこんな癖ついたんだ。
多分。
チャンスがあの顔するから。
少し呆れた顔。
でもちょっと笑ってる顔。
くい。
体が近づく。
……。
バイク走らせながら小さく呟く。
「……夜行こ」
仕事終わったら。
絶対行く。
そしたら。
まず。
玄関で。
ネクタイ見つけて。
――引く。
くい。
その想像した瞬間。
ちょっとだけ落ち着いた。
「エリオット!遅いぞ!」
店長の声。
「今行く!」
でも心の中ではもう決まってる。
今日は。
絶対。
ネクタイ引くまで帰らない。