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【改訂版】純愛以上、溺愛以上〜無愛想から始まった社長令息の豹変愛は彼女を甘く包み込む～

第33話 - 第33話.新年会

2025年05月18日

#大人のロマンス

#溺愛

#ハッピーエンド

#再会

#オフィスラブ

#パワハラ

芙月みひろ@恋愛小説

年明けの新年会は、我が支店の定例行事の一つだ。この支店の新規立ち上げの時に、私は久美子と一緒に採用されたのだが、それから毎年のように行われている。ちなみに今回の幹事役は大宮だ。大木のことがあるから本当は欠席したかった。しかしそういうわけにもいかないと諦める。

当日は全員が早めに仕事を切り上げる。いつもはあちらこちらを飛び回っている支店長も、普段は帰りが遅い営業職たちも、今日は早々と会社に戻ってきていた。

店までは適当にタクシーに分乗して向かう。私たち女性組は三人一緒になって、男性組よりも先に会社を出た。

タクシーの中で、ドライバーの耳を気にしながら久美子が小声で言う。

「今日の飲み会、みんないるから大丈夫だとは思うけど、あの人には気をつけなさいよ」

あの人というのは、もちろん課長の大木のことだ。

「今日は支店長もいるし、さすがに大丈夫でしょ」

不安は皆無ではないが、支店長がいる場ではさすがに大木も大人しくしているだろう。

「そうだといいんだけど……」

久美子は眉をひそめる。

「できるだけ久美子たちといるわ。それに、大宮さんとか他の人もいるし、大丈夫よ。心配してくれてありがとね」

「ん……。だけど万が一何か仕掛けてきたら、支店長もいるわけだから、ある意味チャンスかもしれないよね」

「それもそうね……」

久美子の言葉に頷いたものの、そんなことはないに越したことはない。

前方に目的の店が見えてきたと思った時、助手席に座っていた戸田が振り返った。

「着きましたね。行きましょうか」

言ってから私を励ますように拳を握ってみせた。

「私もいますから、大丈夫ですよ！」

「ありがと」

三人揃って店に入る。出迎えた店員に教えられて奥の座敷席に向かう。部屋に上がった私たちは、出入口近くの席に座って男性組の到着を待った。

それからやや遅れて、支店長を先頭に男性組が到着する。

「お疲れ様です」

頭を下げる私たちに、支店長はにこやかな笑顔を向ける。

「君たちと飲むのも久しぶりだね。店にいないことが多くて申し訳ない」

「いえ、そんな……」

幹事の大宮が、支店長と課長の大木を上座の席に促す。

「お二人は前の方にどうぞ。あとの皆さんは、ご自由にお好きな席へお願いします」

それを合図に皆が適当に席につく。計ったようなタイミングで店のスタッフがやって来て、テーブルに瓶ビールとウーロン茶、料理などを並べて行った。

「まずはビールとウーロン茶で乾杯ってことでお願いします。飲み放題で予約したんで、後で適当に飲みたい物、注文入れてください。皆さん、グラスは手元にありますか？――それでは支店長、音頭、よろしくお願いします」

こうして、大宮の流れるような仕切りで新年会は始まった。

私は久美子と戸田の近くにいたこともあって、身構えていたような「悪いこと」が起きそうな気配はなかった。

上座ということで大木は支店長の傍にいたし、二人の前には主任をはじめとして、他の営業職たちが入れ代わり立ち代わり、酒を注ぎに行っている。

私の隣に座る久美子が、サワーを飲みながらしみじみと言う。

「うちの職場って、お酌文化がないのがいいわよね。ゆっくり飲めるわ」

「確かにね。それどころか……」

その先を言う前に、支店長がビール瓶を片手に私たちの所へやってきた。

ここでは支店長が自ら、部下たちに酌をして回ったりするのだ。最初は抵抗があったが、本人が気にしなくていいと言うものだから、今ではそんなものかと受け入れてしまっている。それは多分に支店長の人柄もあるのだろう。なぜなら、大木などは赴任してきたばかりの時、自分の歓迎会で見たこの光景にひどく驚いた顔をしていたものだ。

「おや、みんなサワーか何かを飲んでいるのか。じゃあ、このビールはいらなかったな」

「それなら、支店長、いかがですか？お注ぎしますね」

戸田が近くにあった未使用のグラスを支店長に渡し、そこにビールを注いだ。

支店長はグラスに口をつけてから、私たちの顔を順繰りに見た。

「三人とも、いつもありがとう。君たちがしっかりと仕事を回してくれているおかげで、営業の連中も代理店さんたちも、ものすごく助かっているよ。君たちの対応がいいと、代理店さんたちからはいつもお褒めの言葉を頂くんだ」

「恐れ入ります」

私たちは揃って頭を下げた。

「普段ゆっくり話す機会を取れなくて申し訳ない。でも何かあったら、なんでも相談してくれよ」

「なんでも、ですか……？」

支店長の言葉尻を捉えて、戸田が顔を上げた。ちらりと私の顔を見る。

「そうだよ。みんなには、気持ちよく長く働いてほしいと思っているからね」

「ありがとうございます。何かあったら、ぜひご相談させていただきますね」