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#ワンナイトラブ
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「かんぱーい!」
居酒屋の座敷に、ジョッキの触れ合う威勢のいい音が響く。
今日は新プロジェクトの打ち上げ。
でも、私にとってはそれどころではない「試練」の場だった。
「…結衣ちゃん。飲み物、それだけでいい?」
隣に座った高橋先輩が、当然のような顔をして私の顔を覗き込む。
会社公認(?)のカップルになってから、飲み会の席でもこうして隣に座るのが当たり前になっていた。
「は、はい……ありがとうございます、徹さん」
「徹さん」と呼ぶ練習は、昨日の夜、鏡の前で百回はした。
それでも口にするたび、心臓の裏側がむず痒くなる。
「ヒューヒュー! 徹さん、だって。アツアツだねぇ」
同僚たちの冷やかしに、私はひたすら俯くことしかできない。
お酒が進むにつれ、周囲の追求はさらにエスカレートしていく。
「で、実際どっちから告白したんでしたっけ?」
「高橋先輩、結衣ちゃんと二人のときは雰囲気違うの?」
「結衣先輩どこまでされたんですか~?」
次々と飛んでくる質問に、私はパニック寸前だ。
(どうしよう、そこまで設定決めてなかった……!)
助けを求めて隣を見ると、先輩はジョッキを傾けながら、どこか楽しそうに私を見つめていた。
「内緒だよ。ね、結衣?」
先輩はそう言って、テーブルの下で、私の太ももに置いていた手を、そっと自分の手で覆った。
厚い手のひらの熱が、ストッキング越しに伝わってきて、頭から火が出そうになる。
「……っ」
驚いて顔を上げると、先輩が私の耳元に顔を寄せてきた。
周囲からは、仲睦まじく密談しているように見えるだろう。
でも、耳に触れる先輩の唇の感触と
アルコールの混じった熱い吐息に、私の思考は完全にストップした。
「……結衣、顔、赤いよ。お酒のせい?それとも、俺のせい?」
低い、掠れた声。
これは、演技なの?
それとも、少しだけ酔っている先輩の本音なの?
「……ど、どっちも、です…!」
消え入るような声で答えると、先輩は満足そうに目を細めた。
◆◇◆◇
数時間後────
「ちょっと酔っちゃったみたいだから、先に失礼するね。家まで送らないといけないから」
先輩は周囲の野次を爽やかにかわしながら、私の肩を抱いて立ち上がった。
夜の風に吹かれながら歩く、居酒屋からの帰り道。
肩を抱く手は、店を出ても、暗い夜道に入っても、一向に離される気配はなかった。
「……先輩?もう誰も見てませんよ」
そう呟いた私の声は、自分でも驚くほど震えていた。
先輩は足を止め、街灯の下で私をじっと見つめる。
「……見てなきゃ、ダメ?それに、本当に顔赤くなってるし、無防備すぎるよ」
その瞳は、いつもの「優しい先輩」ではなく、一人の「男」の熱を帯びていて。
私は、その視線から目を逸らすことができなかった。