優菜はとにかく走った。心拍数が上がって息が切れても、体温が上がって汗まみれになっても。優菜は諦めずに病院という1点の箇所を目指して走り続けた。
そして、優菜は病院にたどり着いた。
「奏斗くんっ!」
病棟に入ってからの第一声はそれだった。走っている間もずっと、優菜の脳内には奏斗の事しか無かったとでも言うほどに。実際そうなのだが。
奏斗のいる病室の前で、優菜は立ち尽くしていた。病棟に入る勇気も出なくて、その場で震えていた。
「…優菜?」
振り向くと、そこには和斗が立っていた。和斗は優菜が幼稚園の頃からの幼馴染で、いつも優菜の相談相手になってくれている。和斗も一応、奏斗の親友なのだ。
「和斗…。奏斗くんの事、どうして知ったの?」
「テレビニュースになってたんだよ。お前とこの学校で、生徒の虐めによる生徒虐待って」
「生徒虐待…」
優菜がそう呟くと、和斗はスマホを取り出し、とある1枚の写真を見せた。
「この写真、よく見てみろ。この倒れている奴、どこからどう見ても奏斗じゃねーか。それに奏斗の奴、担任にも虐められていただろ。あれだけ気をつけろと言ったのに…」
優菜は思い出してしまった。奏斗が家に来た時、奏斗が自分の過去を話していた時だ。奏斗は酷い顔をしていた。あれは確か、奏斗の小学生の頃の記憶の話だったような気がする。