電車を降り、病院まで走り続ける。近場とはいえ、急がなくては。せっかく、ここまで色々な人に助けて貰ったのだから。
病院の自動ドアが開く。時刻は9時半をまわっていた。
「あらぁ、天馬くん!?」
🌟「はぁっっ、はぁっっ、はぁいっ!」
「こんな遅くに大丈夫なの!?」
🌟「連絡は、はぁっっ、してますっ!」
通い続け、慣れたこともあり、看護師さんとは仲良くなっていた。
「夜遅いから、てっきり来ないかと…」
🌟「ま、毎日、行くと決めてるのでっ!」
息を整えつつ、ケーキ片手に先輩が入院している病室へと急ぐ。
「本当、熱心な子なのね…」
階段を上がり、病室のドアに手をかけた。
🌟「神代先輩っ!!」
病院特有の匂いが肺の中に入ってくる。やはり、先輩は寝ていた。そうそう、目を覚まさないだろう。何本の管にも繋がれ、呼吸しているのか分からない。
🌟「このまま、眠ったままなのか??」
ポツリと呟いた言葉が病室内に響く。容態はそこまで悪くない。医師が言っていた通り、目覚めるのを待つだけとなった。
🌟「先輩、聞いてくださいよ、」
横たわるベットの横に椅子を置き、先輩の手を握る。
🌟「今日は色々な人と仲良くなったんです。暁山に翼に。2人ともすごく優しかったんです!」
待ち望んだ声が返ってくることはない。
🌟「それで、お土産に柑橘系ケーキ買ってきたんですよ〜。先輩の口に合えばいいんですが…。」
食べれるはずがない。眠ったままなのに。
🌟「学校では体育で…」
毎日毎日、同じ日々を繰り返す。出来事を全て話す。聞いてるか分からないのに。
🌟「_____だったんですよ〜。ほんとに面白いですねっ!!」
ニコッと笑ってみせるが、窓に反射する自分の顔はとてもだが見せられない。
🌟「ッッ、それで…、それで、」
先輩の前では泣かないと決めていた。あの日、助けてくれと本音を聞けた時に決意したのだ。泣かない、弱いところは見せないと。
だがッッ、だがッッ、。
思いが込み上げてくる。…苦しい、。
🌟「いつになったら、起きるんですか、」
苦しくて苦しくて。言葉が詰まる。
🌟「先輩がいない学校なんて、何一つ楽しくないですよ、。」
話したあの教室も出会った校門の前も。ショーユニットに入ってくれると決断したあの屋上も。
いないと分かっているのに。分かっているのに。探してしまう。
🌟「どうして、どうして、大切な人だけが奪われていくんですか、」
白いシーツに丸い模様が出来る。
🌟「理不尽、ですよっ、。こんな、世の中っ、。」
シーツに肘を置き、先輩の手を自分の額に当てる。なぁ、頼む。頼むから。
🌟「類、目を覚まして、オレに微笑んでくれ。…寂しいよ、。」
寂しくて、寂しくて、
🌟「くるしい、、。ずっと、ずっと、。」
生きた心地がしなくって。空気が薄い。
呼吸するのでやっとだった。
🌟「たす、けて、」
絞り出された声に唇を噛む。
声が届かないのがこんなにも苦しいものなのか。願えば願うほど胸が締め付けられる。
🌟「は、ふわ…ふわ、す…る」
もう…限界、かも…な
不思議と体や脳が浮遊感を覚え、ここで気を失ってしまった。
🌟「ん、」
寝ていた…?それとも気を失って…。
スマホの電源を入れるがつかない。充電がきれたのか。あくびをし、時計を確認する。
🌟「は、??」
25時…、つまり1時すぎ。焦りで頭を抱える。オレは一体何時間寝ていた、?いや、まずいだろ。電車やバスはない。
帰る手段がない…、。
スマホの充電器も持ってきてない。それよりも、親が心配してることが気がかりだ。
🌟「やら…かした、」
窓は真っ暗で小さな明かりがオレを照らしていた。
🌟「とにかく、病院を出るか、」
流石にどうにかして帰らなくては。椅子を後ろに引き、立ち上がろうとした時だった。
手首を掴まれたのだ。
🌟「ヒッッッ、」
おばけか幽霊か、はたまた未確認生物か、。怖い、怖い、怖い、。いまさっき、目を覚ました頭では認識出来なかった。後ろに愛しい人がいるというのに。
🌟「ゆう、れい、???」
ゾッとして後ろを振り向いて、目を丸くした。
🌟「〜ッッ、、」
🎈「ん、おはよ」
🌟「せんぱ、い」
管がたくさんある腕でオレの手首を掴んでいたのだ。月みたいに美しい眼がオレを捉えていた。
🌟「………か。」
🎈「ん??」
🌟「ばかっ!!!」
🎈「うわ!?」
神代先輩に飛びつく。あまりの勢いに下にあった椅子を蹴飛ばした。
🌟「ばかっ、ばかっ、」
🎈「うん?」
🌟「どれだけっ、またされたことかっ」
甘い花みたいな匂いが肺に広がった。あぁ、生きていたんだ。ここに先輩がっ、。
子供に戻ってしまったみたいに胸の辺りをポカポカたたく。
🎈「ふふふ、痛いよ」
🌟「う”ぅ”っ、」
思いが溢れて、何を伝えるべきか分からない。どうして、突然、。
🎈「僕もよく分かってないけど、君の声が聞こえてね、。」
🌟「オレ、の?」
🎈「うん、起きなきゃってなったんだ。」
やんわりと笑う。生きていたんだ。神代類は存在していたんだ。
🎈「やっぱり、君といると落ち着くね。ありがとう。助けてくれて。」
🌟「そんな、オレはなにも…。」
🎈「でも………ごめんね」
握られている先輩の拳は一層強くなる。ハッとし、顔を見れば…。
🎈「ごめんねっ、ごめんねっ、」
🌟「どうして、そんな悲しい顔をして、」
何かを我慢し、自分の気持ちを押し殺しているようにも見える。いやだ、笑ってくれ。先輩にはそんな顔似合わない。
🌟「わ、わらって…」
🎈「…あれを見てほしい、な」
力なく指さした方向に目を向け、固まってしまった。声にならない悲鳴。
🌟「じか、ん、が、」
🎈「…わかった、かな」
時刻は1時半を表し、秒針が止まっていた。勢いよく立ち上がり、病室のドアを思いっきり開けるが誰もいない。電気すらついてない。
🌟「どうなって、」
🎈「少し、頬を引っ張ってみたら、どうだい?」
🌟「頬??」
左手で思いっきり引っ張る。……が、痛くない、。
🌟「じゃあ、これはッッ、」
🎈「君の夢の中…だよ。」
意味が分からない。夢の中?先輩は起きているのに??頭が混乱する。
🎈「病室の外に出たら、時期に君は目を覚ます。現実に戻るってわけさ。」
🌟「っ、どうして、どうして、そんな冷静にいられるんですかッッ!!!」
🎈「どうしてだろうね、。」
取り乱すだろう。普通。だけど、先輩からしてみれば眠ったままってわけなのか。
🎈「なぜ、こうなったか僕にも分からないけど…。天馬くんの思いはすごく強いからね。神様が猶予をくれたのかなぁ。」
🌟「神様って、」
🎈「君は信じないかい?神様。いると思うんだよねぇ。この世界作ったのは神様って言うし♪」
また、呑気に。いまさっきまで悲しそうにしていたとは思えない。久しぶり話したせいで先輩の調子を忘れてしまっていた。これが通常運転か、と少し安心する。
🌟「…ほんとに起きたと思ったのに、」
🎈「あはは、見間違えてもおかしくない」
🌟「笑い事ではないですよ!!」
クスッと笑いが込み上げてくる。…懐かしいなぁ、。
🎈「っ、天馬くん、??」
🌟「え、あれ?」
頬を何かが伝って落ちる。
🌟「あれ、おかしいな、オレ。どうして泣いてっ、。」
🎈「〜っ、」
しきりになりやまず、落ちてくる涙。感情がコントロールできてない。
🎈「大丈夫、かい?」
優しく微笑む姿はこの世で生きている誰よりも美しく見えた。