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彼女の姿をしっかりと確認することができたが、とても美しい少女だということがよく分かった。
肩甲骨あたりまでのびた艶やかな黒い髪に、ぱっちりと開いた大きな瞳をした少女の名は柊木香恋。
彼女は誰よりも愛されることを望んでいるが、自分が誰かを愛することを恐れている。
自分に自信がなく、常に劣等感を抱いているせいで自己評価が低いのだ。
そのため周囲から求められる役割を演じ続けなければならず、いつの間にか本音を話すことが困難になってしまった。
また彼女の両親は既に他界しており、唯一の肉親であった兄とも現在は離ればなれになっている。
それ故に甘えることも出来ず、ただひたすらに走り続けるしかなかった。
「……いやぁ、それにしても今日は暑いねー」
僕は額に浮かんだ汗を拭いながら独りごちた。
季節は既に初夏だというのに気温は高く、まるで真夏日を思わせるほどである。
おかげでこうして歩いているだけでも疲労感を覚えてしまいそうだ。
おまけにこの炎天下の中を歩いてきたせいなのか喉も渇いており、一刻も早く冷たい飲み物を口にしたい気分であった。
そこでふと思い出す。
確か今日のお昼休みには自動販売機の前に行列が出来ており、いつも以上に混み合っていた気がする。
その理由としては最近発売されたばかりの新商品が目当てのようだが、果たしてどれだけの人気を得ているのだろうか? もし人気があるようであれば、今度買ってみても良いかもしれない。
そんなことを考えながら廊下を進んでいるうちに目的の場所へと辿り着いたのだが――
「……うわっ!?」
扉を開けると同時に聞こえてきたのは大きな歓声と拍手の音であり、思わず驚いてしまった。
いったい中では何が行われているのだろうと不思議に思いつつ中に入ると、そこには大勢の生徒たちの姿があった。
彼らは皆一様に興奮しているようで、中には涙を流している生徒もいる。
これは何かの演劇でも披露されている最中なのだろうか