今日は図書室を飛び出して、屋上へ。
「あのさ、ノマドってバンド知ってる??」
コミュニケーション手段は、まだスマホがメイン。
「知らない。」
「オレも最近知ったんだけど。学校の七不思議に入るくらい有名な幽霊バンドなんだって。」
と、芦戸に送ってもらった動画を見せる。歌はご飯を食べる身振りとギターを弾く身振りで、食堂でライブをしているのかを尋ねる。
「ご飯を食べる手話、ギター…。そうそう、食堂でライブしてんだ。」
なるほど。という顔で手を合わせ頷く歌。
「たまたま、このライブの時オレ居たんだけど。演奏とか迫力とか、何もかも凄くてさ!!思わず歌の世界に呑まれるところだった!!」
興奮のあまり、早口で喋ってしまったことに気づき、あわてて唇の動きが読めたかスマホに打ち込む。
「だいたい読みとれた。上鳴君の表情でも分かったよ、このライブがとっても凄かったってこと!!」
素早く打ち込んで、笑顔をみせる。上鳴はホッと胸を撫で下ろした。
「歌ちゃん、音楽の専門書読んでるってことは音楽好きなんだ??」
「好きだよ。喋れないけど、本に載ってる演奏技法とか声の出し方・音楽の歴史をみてると想像が膨らむの。もし喋れたらどう歌ってやろうかとか、手話にするとどんな表現になるのかとかね。」
今度は歌が、興奮して長文を打ってしまったことに気付き、困惑した顔で上鳴を見つめる。
「そう困った顔すんな。」
口で伝えてから。
「歌ちゃんの、音楽に対する情熱。めっちゃ伝わった!!」
と打つと、歌は手話で感謝を伝えた。どういたしましてと上鳴も手話で返す。ちなみに、困惑した顔もかわいいと思ったのはここだけの秘密。
「今は、どんな本読んでんの??」
「今はね、オペラに関する本を読んでるの。」
と打ったところで、上鳴が遠くをしらけた顔でみていることに気づいた歌。その方向を見る。
「やだ、2人に見つかっちゃった!!」
「見つかっちゃった!!じゃねぇーよ芦戸ぉ。あ!?鋭ちゃんと耳郎まで!!」
声の主は芦戸で、その後ろに切島と耳郎が続く。歌は上鳴の服の裾を摘まんでから、友達??と手話をする。
「そう。オレの。」
友達と手話をする。
「なるほど、上鳴が足しげく図書室に通ってたのは、この子に会うためだったのか!!」
「てっきり真面目に、勉強してたのかと思ったぜ!!」
「いや、手話の勉強してたことには間違いない。」
3人が口々に話す。
「おいおい。そんな口々に話してたら、歌ちゃん、唇の動き読めないだろ。」
「そうだよね。私は芦戸三奈。」
初めまして。とどこで習ったか、芦戸は手話を交えつつゆっくりとした口調で自己紹介した。後の2人はスマホに自己紹介の文を打つ。歌も自己紹介し、5人でお喋りに花を咲かすことに。辺りがオレンジ色に染まり始めたので、お開きの時間。寮の近くまで来て。
「また明日な。」
「うん。また明日。」
だいぶ、手話が板についてきた上鳴。ほかの3人も上鳴に倣って手話でまたねと伝え、並んで寮へと歩きだす。歌は振り返って手を振る上鳴達に手を振って帰路に就いた。
「(本、そろそろ返さないと…。)」
就寝前、そんなことを考えながらノマドのライブ映像をぼんやり眺める。それを観終えると動画サイトで流行の音楽をチェックする。
「(このバンド、凄い…。)」
Troupe de musique seuleというバンドが目につく。
「(英語・Jpop・Jazz。はたまた演歌ロック。マルチ過ぎんだろ!!でもなんか、ノマドみたい…。ノマドってこのバンドのコピーバンドなんかな??)」
その動画を観て、ノマドの動画をみるを繰り返しているとなぜか、歌の顔が思い浮かぶ。
「(メイクしてるけど、なんとなく面影が…)」
そんな訳ないかと思う頃には寝落ちてしまった。歌がついた嘘に気づかぬまま。
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