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翌朝
窓から差し込む無遠慮な朝光が、容赦なく私の瞼を叩いた。
ゆっくりと意識が浮上するにつれ、全身を襲う気だるさに顔をしかめる。
見知らぬ天井、高価な香木が焚かれた部屋の匂い
そして──
シーツの端々に、微かに、けれど確かに残っている、あの男の匂い。
冷ややかな、けれど昨夜の情欲を想起させる
傲慢なまでに洗練された残り香。
(……夢じゃなかった。私……あの男の妻になったんだ)
昨夜、抵抗の末に彼の白く筋張った手首にガブリと食らいついたときの、あの硬い感触が歯の裏に蘇る。
その後の、彼を爆笑させた屈辱。
あんなに私を翻弄し、唇を奪い
私の心を弄んでおいて、最後は「躾」だなんて。
思い出すだけで顔が火が出るほど熱くなり、同時に激しい怒りが込み上げてくる。
馬鹿にするのも大概にしてほしい。
没落したからって、心まで犬に成り下がったつもりはないのに。
重い体を引きずるようにしてベッドから這い出し、数人の侍女たちに囲まれて着替えを済ませた。
鏡の中に映る自分は、慣れない「結婚初日」の緊張と寝不足で、目の下にうっすらとクマができている。
それに対して、用意されたドレスは、ため息が出るほど美しい最高級のシルクだった。
動くたびに光を撥ね、しなやかに体に吸い付く。
今の私の惨めな境遇を、これでもかと嘲笑っているかのようだった。
「エルサ様、閣下がお待ちです。ダイニングへご案内いたします」
侍女の言葉に、私は胃のあたりが重くなるのを感じた。
案内されたダイニングルームは、実家のホールが丸ごと入ってしまうほど広大だった。
その中央に置かれた、長く伸びるテーブルの主賓席。
そこに、朝から一切の乱れもなく
隙のない完璧な装いで優雅に新聞に目を通すシャーロット様の姿があった。
窓からの光を反射する白銀の髪が、神々しいほどに美しい。それが余計に腹立たしい。
「……おはようございます、旦那様」
私はドレスの裾を摘み、社交界で叩き込まれた最高に完璧な、そして最高に冷ややかなカーテシーを披露した。
精一杯の「私は屈していません」という無言の抵抗だ。
けれど、彼は視線すら上げない。
新聞をめくる規則的な音だけが室内に響く。
「遅い。公爵夫人の朝は早い。一分一秒を無駄にするな。お前の時間は、もうお前だけのものではないのだからな」
「っ……昨夜、あんなに遅くまで私を振り回し、寝不足にさせたのはどこのどなたですか?」
席に着くなり、私はこらえきれずに棘のある言葉をぶつけた。
傍らに控えていた執事や給仕たちが、一瞬ピクリと肩を揺らす。
氷の公爵と恐れられる彼に対し、これほど不遜な口を利く人間はこの広大な屋敷のどこを探してもいないのだろう。
ようやく、彼は新聞を置いて私を見た。
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