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(な、殴った!?)
身体の痛みを忘れるぐらい衝撃的な出来事が目の前で起り、周りは騒然としていた。
ルクスはバランスを崩してその場で倒れ、叩かれた左頬を抑えていた。そして、自分が何をされたのか分からないと、あり得ないとルフレを見上げていた。
「僕だってルクスのことが大嫌いだったよ! 何かたまに偉そうだし、僕より魔力あるし、魔法も教えて貰えるしブリリアント卿と仲がいいし、僕よりも何でも出来てすっごく羨ましくて、見ててイライラした!」
と、ルフレはこれまでの鬱憤を晴らすように吐き捨てる。
それは、先ほどルクスがルフレに言ったような言葉だった。
ルクスの話もそうだが、ルフレの話もどちらもが互いに互いの良いところを嫉んで嫉妬していたのだと分かった。結局は二人とも無い物ねだりをしていた。
だからこそ、双子は互いの欠点を補い合って生きていかなければならないんじゃないかと、そのために二人いるんじゃないかとも思った。
「ルクスってすっっごくイライラする、見ててイライラする! 僕より何でも出来て、期待もされていて……僕に色々黙ってたこと……」
そう言うと、ルフレはその場に膝から崩れ落ちる。
「嫌い、嫌いだけど……嫌いになれない。大嫌いな、お兄ちゃん……」
「ルフレ……」
ルクスはゆっくりと起き上がると、ルフレの肩に手を置いた。ルクスもつられて泣いているようで、二人ともぐず、ずびっと鼻を啜る音が聞えた。
お互いがお互いに憧れ、羨み、妬む。それは仕方のない事かもしれない。
それでも、嫌いになれないのは、憧れや互いがいるから乗り越えられることが沢山あって、それでいて互いを大事に思っているからだろう。
ルクスはルフレのために、立ち止まった。ルフレはルクスの足を引っ張らないようにと走った。
互いのことを考えた結果、言葉が足りなくなって分からなくなっていた部分があるのだろう。
「ルクス……僕のこと嫌い?」
と、ルフレはルクスに尋ねた。
その声は震えていて、先ほどルクスがルフレにぶつけた怒りの感情に対してまだ怯えているようだった。本気で嫌われているのではないかと、ルクスを信じられないとでも言うような声。
ルクスは、首を横に振って「違う、違うよ」と謝罪するように呟く。
そうして、ルクスはルフレをギュッと抱きしめるとその肩に顔を埋める。
「嫌いじゃないよ……確かに、色々思ったことはあったし、いなければよかったとか思っちゃったけど、一番はそう思ってしまった僕に対しての怒りなんだ。兄として、ルフレの事が大好きなのに、ルフレの事を好きになりきれない自分がいること。ルフレを傷つけてしまったことに対しての怒りだ」
そうルクスはいった。
ルクスの怒りは、ルフレに対してではなく、自分にたいしてだったのだ。自分の不甲斐なさや弱さが嫌になって、それが負の感情によってぐちゃぐちゃになった結果、悩みの元であるルフレに向いてしまった。そうして、最愛の弟を傷つけてしまったことを悔いているようだった。
ルフレは、「じゃあ、嫌いじゃない?」と再度尋ねる。今度は、確信を持って。
「うん、嫌いじゃない。嫌いじゃないよ。大好きだもん。僕ら双子だし、僕の考えてること、ルフレは分かるでしょ?」
その問いかけに対し、ルフレは少しの間黙っていた。
何か答えられない部分でもあったのだろうかとまっていれば、ルフレはゆっくりと口を開いた。
「分かるよ。でもわかんないことだって一杯ある。僕らは分かったつもりになっていて、そのくせ何も分かってなかったんだよ。以心伝心とか、確かにルクスの考えることは大体分かるよ。だって双子だもん。でも、いってくれなきゃわかんないこともあったよ」
と、ルフレは顔を上げて、ルクスと向き合うとそう言った。ルクスは目を丸くして瞬きを数回した後首を傾げた。
ルフレは、それに少しイラッとしたような表情を見せつつも、彼の肩を掴んだ。
「僕らは双子だけど、全部が全部同じじゃないし、全部分かるって訳じゃないじゃん。だから、僕も言葉足らずって思ってるけど、ルクスはもっと言葉足らずじゃん。頭よすぎて何言ってるか分からないもん」
ルフレは、そう口をとがらかせる。
それを聞いて、ルクスはプッと笑うと、確かにと笑った。
お互いに言葉が足りないからこそ、すれ違ってしまう。
だが、それは互いに分かり合おうという努力を怠ってきたからだ。お互いが分かった気になっていた。そして、お互い相手に隠していた妬みやうらやましさがあったからこそ、分かっているつもりのまま済ませていたのだ。
言葉にしなければわからないことがある。
それを、二人はようやく理解したようだ。ルフレは、涙を拭うと、 ルクスは、ルフレの言葉に嬉しくなって笑顔を見せた。
「そうだね。これからはもっとわかり合えるように、自分たちの弱いところをカバーしながらやっていこうか。僕もルフレみたいになりたいって思うから、ルフレにも僕のようになりたいって思われるように頑張るよ。ルフレの素直で元気なところ、好きだから僕はルフレのこと大好きだから、僕もルフレにとって誇れるような存在でありたいんだ」
と、ルクスはルフレにそう告げた。
「ぼ、僕だって、ルクスみたいに頭がよくなれるように頑張るし、ルクスみたいにはなれないかもだけど頑張って魔法の勉強をする! それで、ルクスの隣に立てる立派な人間になる」
と、ルフレはそう宣言する。
ルクスは、そんなルフレを見て微笑むと「ありがとう」と言った。
これで一件落着かと、私は息を吐いたが、目の前にはあのウィンドウが現われなかった。まだ何かあるのかと、少し嫌な胸騒ぎがすれば、地下に子供の笑い声が響いた。それは不気味で、複数人いるようにも聞える。
聞き覚えのある嫌な声。
(この声って、ファウダー……混沌の?)
『ルクス・ダズリング。本当に良いの?』
「うっ……」
「ルクスどうしたの?」
『君が欲しかった大きな魔力を上げたのに、手放すの?弟を許すの? 弟を殺せば、君本来の魔力を取り戻せるって教えてあげたのに?』
と、ルクスの耳元で囁かれる声。
その瞬間、ルクスの顔色が一気に悪くなった。
そうして、ルクスの体がガクッと崩れ落ちそうになるのをルフレは慌てて支えて、声をかけるがルクスは耳を塞いでその場でうずくまった。
そういえば、ヒカリが席を外している内にルクスは奴隷商の奴らにボロボロにされたっていっていたけれど、その間に混沌に魅入られたんじゃ……と、私は仮説を立てる。クリアの表示が出ないのは、混沌の息がまだかかっているからだろう。だが、混沌の姿はここにはない。混沌は人の心の闇につけ込むから、欠片ほど残ったそれに寄生しているのだろう。
「ルクス、ルクス!」
『ルクス・ダズリング、今なら簡単に弟を殺せるよ?』
「黙れ! 僕はそんなことしたくない、僕はルフレが大切なんだ。たった一人の弟なんだ!」
そうルクスは叫んだ。それでも、まだ混沌の囁きが消えないのか、ルクスは苦しそうに呻き声を上げていた。
どうにかしなければと思うが、火傷で身体が思うように動かない。どうすれば……そう思っていたとき、二人の方に走っていったヒカリがルクスとルフレを同時に抱きしめた。
「ルクス様、大丈夫です。もう大丈夫ですから、そんな声に耳を貸さないで、ルフレ様を見てください!」
「ルフレ……を?」
「ルクス、僕はここにいるから、ルクス、しっかりして!」
ヒカリのナイスフォローと、ルフレの声が届いたのかルクスの顔色がだんだんとよくなっていく。
すると、周りに漂っていた混沌の気配がフワッと消えた気がした。もう洗脳は出来ないと思ったのか、混沌の気配はもう何処にも感じられない。
(それか、力不足だと感じたのかも……ルクスはさっきみたいに魔力を数発撃てば身体がボロボロになるし……)
リースのような成人している男性や、魔力量がある人間ならば使い道はあると混沌は洗脳を続けたかも知れないが、ルクスじゃ役に立たないと思い引き下がったのかも知れないと、私は思った。どちらにせよ、ルクスが無事なら良いのだが。
ルクスは、混沌の囁きから解放され、身体から力が抜けたようでヒカリとルフレの間に倒れ込んだ。
ルフレは、心配そうにルクスの名前を呼んでいたが、ヒカリは気絶しているだけだとルフレに伝えると、彼はよかった。と言うように彼もまたヒカリの腕の中に倒れ込んだ。
ヒカリはそんな二人を見て、もう大丈夫ですからね。と優しく頭を撫でていた。まるで母親のように。
「ヒカリ……」
「エトワール様、ありがとうございました」
「ううん、私は何もしてないよ。だって、その二人が解決したんだし……仲直りも出来てよかった」
そう私が言えば、二人を背負い、抱えてヒカリが私の方へと歩いてきた。
私は体をゆっくりと起き上がらせ、ヒカリと双子の方を向く。双子は疲れて眠ってしまっていた。まだからだが痛むため私もあまり動けないが、双子の安心しきったような寝顔を見ると少し癒やされた。黙っていればそこそこに可愛いのだから、いつもの減らず口を叩かずに大人しくしてればいいものを……と、これまで受けた仕打ちを思い出しながら私は双子をもう一度見た。
(まぁ、そういうところが此奴らのいいところでもあり悪いところでもあるんだけど……)
そう思いながら私は微笑む。
私の横では、私の身体の心配をするアルバが煩かったけれど、彼女やグランツを連れてきて本当によかったと改めて感謝の言葉を述べた。
アルバは滅相もございませんと、エトワール様が生きていてくれるならそれで。と大げさに頭を下げて言うものだから少し笑ってしまった。
そうして、私の前にあの憎たらしいウィンドウが現われる。
【緊急クエスト:憤怒の片割れルクス・ダズリング クリア 】
そう表示されたと同時に、ハモるようにピコンと双子の好感度が上昇した。