コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
台湾旅行二日目の朝を迎えた。ベッドから目を覚ますと、卓也は俺の隣で頬杖をつき、横になり俺の顔を動植物でも観察するかのように、じっと見てた。 「おはよー」と爽やかな笑顔で、こちらをただ見つめている。朝日がブラインドごしに、卓也の顔に、シマウマのように模様を作っている。
「おはよー、いつから起きってたの?」
「二十分ぐらい前かなー」と卓也はニヤニヤしながら、俺の髪の毛を撫でながら呟く。
「なら起こしてくれても良かったのに」とあくびをし、眠たそうに俺は言った。
「だって一樹の寝顔が無防備で可愛かったんだもん」と卓也は甘い、しっとりとした口調で、俺の目を見つめながら言うのだ。
「恥ずかしいからやめてよ、寝顔なんて見られたくないのに」と言い、卓也は「別にいいじゃん」とカラカラと笑った。
卓也はベッドから降りて、冷蔵庫のミネラルウォーターを取り、グラスに注ぐ。
「はい」と卓也は俺の額にグラスをコツンと当てた。
俺は喉が乾いてたので、ミネラルウォータを一気に飲み干した。
「今日はどういう予定で観光する?」
「決めてないけど、夕方までには九份には行こうと決めてる」と卓也はスマホを見ながら言う。
「十份はどう?少し距離あるけど」
「ランタン飛ばしできる場所か、いいね」と卓也は言い、縦縞のストライプの長袖シャツのボタンを閉じながなら言う。
「じゃあそこを目的に行こう」と言い、俺も身支度を始めた。
俺たちはホテルの一階の朝食会場に向かった。
ホールには沢山の料理が並べられ、中華、洋食、台湾の郷土料理が沢山準備されていた。
「朝からこんなに食べれるかな?」と卓也は苦笑いしながら言う。卓也はは元々朝食をあまり食べない人間だ。
「旅行の時ぐらいしっかり食べないと体力が持たないよ」と俺は言い、さっそくトレーとお皿を持ち、ブッフェボードに向かった。
俺は洋食コーナーでクロワッサン、サラダ、フライドエッグ、ベーコン、そして最後にブラックコーヒーをカップに注ぎ、席についた。
卓也も料理を取り終えて、席に着くなり「台湾まで来てクロワッサンかよ、いつも食ってる物と変わらないじゃん」とぶっきらぼうに言った。
「だってこれが一番落ち着くんだもん」
「ふーん」と卓也は不思議そうに呟くのだ。別に人が何を食おうと自由でしょ?と言わんばかりに俺はお構いなしにクロワッサンを齧り、コーヒーを啜った。
卓也は朝から魯肉飯にワンタンスープ、点心などこってりとした物ばかりチョイスしてる。
「そっちこそ朝からよくこってりした物食べれるね?」と俺は言い、卓也は我関せず黙々と食べるのだった。
それから俺達はホテルを出て、駅に向かい、「十份」を目指した。
俺たちはひたすら電車に揺られ、異国の電車に揺られ、車窓の景色をひたすら眺めていた。
「一樹はランタンにどんな願い事するの?」と卓也が聞いた。
「卓也は?」と俺は聞いた。
「現地に着いたら考えようかな?」
腕を組みながら卓也は景色を眺めながら呟いた。
電車の距離が長かった所為なのか、俺たちはいつの間にか眠っていたらしい。
電光掲示板には大華と表記されていた。
「次で十份駅に着くな」と卓也は眠そうに言う。
俺たちは十份に着き、目的のランタン飛ばしをしに、向かった。
「けっこう沢山の人がいるね」
「そりゃ有名な観光地だからな」と卓也は言う。
線路の上には沢山の人集りができ、ランタンが次々と飛んで行く光景は本当に美しく、異国情緒ある雰囲気で言葉が失うほどだ。
「夜ならもっと雰囲気あるだろうな」と卓也は言う。
「そうだね、きっとエモい雰囲気だと思う」と俺は空を眺めながら呟いた。
俺たちランタンを購入し、筆で願い事を書いた。
ピンクのランタンは恋愛成就らしい…。
俺は密かに卓也に見られないようスマホで調べ、台湾華語で「卓也と結ばれますように…」と願い事を書いた。
「どんな願い事にした?」と卓也はニヤニヤしながら聞いた。
「秘密…」
「ふーん」と卓也は揶揄ったように呟く。
どうやら卓也もピンクのランタンを購入したみたいだ。
線路に立ち俺たちは二人同時にランタンを空に放った。
ただ空に浮かぶランタンをただ見つめるのだった。
「さて、せっかくだから十份観光でもするか」と卓也が言い、俺たちは街中を散策した。
「せっかくだから台湾茶と台湾スイーツ食べたいなぁ」と俺は卓也に言った。
「そう言うと思ったから、事前に何ヶ所か調べといたよ」と卓也は得意気に言う。
「何それ、凄い準備万端じゃん」
「でしょー、たまにいい事するでしょ」と卓也は笑いながら言う。
ホント卓也の笑顔が今日は一段と愛おしく見えるほどだ……。
しばらく歩き、卓也が調べてくれた茶房に到着した。
線路沿いにあるオリエンタルな趣きがある茶房だ。
店内には沢山の観光客がいて、色々な言語が飛び交っていた。
メニューを開くなり俺はマンゴープリンと東方美人茶を注文した。
「どれがいいかな…」と卓也は相変わらず迷っている。
「とりあえずエッグタルトとお茶は何がいいのかなぁ?」と卓也が聞いた。
「とりあえず凍頂烏龍茶にしたら?」
「ならジャスミン茶にする」と卓也が言ったから「なら最初から自分で選びなよ」俺は笑いながら言い、俺たちはくだらない話しをしながら待ったのだ。
不意に卓也が「一樹って本当に日本人?」と聞いた。
「何行ってるの?日本人に決まってるでしょ?」と俺は東方美人茶をむせながら言った。
「ふーん」と卓也は相変わらずニヤニヤしながら相槌を打った。
「何?」
「別にー?」と卓也はエッグタルトを口に運びながら俺の顔をじっと見てる。
「いや、現地にいる台湾人の人と顔が似てるなぁーって思っただけ」と卓也は下を向き、お茶を啜りながら言った。
「そういう事ね」
確かに昔付き合ってたメキシコ人の彼氏にも本当に日本人か?と聞かれた事があるけど、その時はロシア人と日本人のハーフ?って言われた事があるが、お世辞にも外国系の顔立ちとは言えない程、典型的な日本人顔だと思うのだ。
そうもくだらない話しをしてる内に食事を終えてお会計する事にした。
「俺が出すからいいよ」と卓也が言う。
「申し訳ないから二人で割り勘にしよ」と言っても卓也はそのままカードで支払った。
「ありがとう」
「いいんだよ、気にするな」と卓也は言い、店を出た。
俺たちはしばらく街をぶらぶらし色々なお土産店や食べ歩きをして観光したのだ。
「これ欲しいの?」と卓也が横から覗くように聞いてきた。
「ううん、見てただけだよ」
「ふーん」
俺が見てたのはアンティーク風の透かし彫りの白檀扇子だった。
「そろそろいい時間だから九份に向かわないと」と俺が言い、俺たちは十份を後にした。
俺たちしばらく電車に揺れた。
外の景色は夕焼け色に染まり、異国情緒ある建物が茜色に染まりとても美しい景色だった。
「手をつなご」と卓也は言い、俺の手を握った。
「他の人に見られたら恥ずかしいからやめてよ」と俺が言っても「大丈夫だよ、気にしすぎ」と卓也は笑い、俺の手を握りポケットに突っ込んだのだ。
俺たち夕焼け色に染まる車内で、二人横に並び外の景色を眺めたのだった。
ふいに卓也が「このままずっとこうしてたい」と卓也が言った。
「急にどうしたの?」
「いや、一樹とこんな風にずっと過ごせたらなぁって考えちゃった。」と卓也は微笑みながら窓の景色を見て言った。
「また急にそんな事言って…」と俺はクスって笑った。
けどホントにこんな時間がいつまでもずっと続けばいいのにと心の中で思ったのだった。
そうも考えてる内に目的地の九份に到着した。
街は夕闇に染まり、赤い提灯、漢字のネオンが街を真っ赤に染めていて幻想的だった。
「ここが九份か…」と卓也は呟いた。
「ホント宮崎駿の千と千尋の神隠しに出てくる横丁みたいだね」と俺が言うと「知ってた?あれは新橋の歓楽街をモデルにしたんだって」と卓也が言った。
「そう、でも新橋の歓楽街よりも九份の街並みの方が似てるけどね」と俺は卓也に言ったのだ。
「確かにな、こっちの方が作品の街とかなり似てるな」と卓也は街を見渡しながら言った。
俺たちは街を歩きながら色々と屋台でたらふく食べる事にした。
屋台で点心や台湾そばを食べ、台湾ビールを瓶ビールで注文した。
「一緒に写真撮ろ」と卓也は言い、俺の肩に手を回し、瓶ビールを掲げて写真を撮った。
「後でLINEに送るよ」
「ありがとう」そう言って二人でビールを飲み食事を楽しんだのだ。
しばらく色々な屋台で食べ歩きをしてるううちに外は真っ暗になり街はさらにノスタルジックな雰囲気に包まれていた。
「綺麗な街並みだなぁ」と俺が呟くと卓也が「もっと街を見渡せる場所に行こうよ」と言い、俺の手を握り引っ張ったのだ。
俺はもう何も言わず、ひたすら卓也にリードされた。
すれ違う人も俺たちの事を変な目で見る事もなかった、って言うのもチラホラとゲイカップルらしい人が結構いたからだ。
ホント幸せだった、卓也と二人で手を繋ぎ一緒に街を歩いている…カップルではないけどホントにカップルみたいな風に手を繋ぎ歩いたのだ。
「なぜ俺たち付き合ってないのだろう、卓也の事が好きで好きで仕方ないのに…」と心の中で思っていたがとうとうそれを抑えるのにも限界がきてた。
歩きながら「今日こそは…」と心の中である事を心に誓ったのだった。
「やっと着いたよ」と卓也は言い、俺たちは九份の街が見渡せる場所に着いた。
「ホント綺麗な場所、異世界みたいな景色」と俺が呟くと卓也は俺の手を握り締め、「やっとこの景色を肉眼で見る事ができたな」と爽やかにニコッと笑い俺の目を見つめる。
卓也はそっと顔を近づけて俺の唇に優しくキスをした。
「可愛い、一樹と一緒にこうやって過ごせるなんて俺は幸せだなぁ」と卓也が言う。
「俺もだよ」と俺は恥ずかしいそうに言った。
「アレ?今日珍しく素直じゃん」と卓也は揶揄うように俺の顔に近づけながら言った。
「そうだね」と俺は言い、街をボーっと眺めた。
俺はとうとう伝える事にしたのだ。
「あのね…」
「どうした?」と卓也が言い俺の事をジッと見ている。
身体中に電気が走るように、ブルブルし、心臓が物凄いバクバクしている。
「あのね…」
「ん?」と卓也はこちらにずっと視線を向けてる。
「卓也の事が…好き」ととうとう言ってしまった。
「えっ?」と卓也は笑った。
「好きなの…だから俺と付き合ってください」卓也に気持ちをぶつけた。
「ありがとう、けど俺は一樹とは付き合えない」それが卓也の返事だった…。
まさかの返答に俺は驚き、目が遠くなった。
「そう…理由を聞いてもいい?」俺は頭が真っ白になりながら聞いた。
「俺は人を中々好きにならないんよね、だから付き合うとか分からないんだよ」と卓也が言う。
続けて「一樹の事は可愛いしタイプだけど俺は一樹の事をもっと知ってから付き合いたい、だから時間を頂戴」と卓也は言った。
頭がホントに真っ白になった。
「知り合って三年になるのに、まだ色々知らたい?だなんて意味がわからない」と俺は思った。
「要するに俺の事、ただのセフレぐらいにしか思ってなかったって事?」と俺は卓也に聞いた。
「そんな事ないよ、一樹の事は一度もセフレだと思った事ないよ」
「じゃあどういう風に思ってたの?」
「ただ、可愛い子だなぁって」
俺は急に涙に襲われた。
「泣くなって、俺は一樹の事はこれからも大事にしたいし、だから泣かないで」と卓也は言い俺にハンカチを渡した。
「ごめん、変な事を言って」
「気にするな、でも正直嬉しかったよ」と卓也は言った。
「いままでありがとう…」
「えっ!?」と卓也は声に出し、驚いたような表情をしてる。
「どういう事?」と卓也は聞いた。
「さようならって事」俺は泣きながら言った。
「なんで!?俺は一樹とこれからも会いたいと思ってるのに…」と卓也は言ったのだ。
「卓也に見せる顔がないの…だからこの旅行が終わったらもう会うのをお終いにしよ…」
「なんで…俺は気にしないよ、だからこれまで通りの関係でいようよ」と卓也は言った。
「俺が気にするの…それに卓也にフラれたのにこれまで通り会うのが辛いの…」俺は一呼吸つきながら卓也に言った。
「俺は振ってないよ、ただ時間がほしい、だから会わないなんて言わないで」と卓也は言ったが、今の俺にはそんな事は無理だ。
とりあえず冷静になり、俺は深呼吸をつきながら「わかった」と言った。
卓也が「うん、これまで通り会ってよ…」と言い俺は頷く事しか出来なかった。
内心では「もう、卓也には今まで通り会えない…だって本気で好きになっちゃったから会えば辛くなるだけだ…だからもう会うのをやめようと」と心の中で思った。
卓也が「ほら!顔を上げて!可愛い顔が台無しだよ」と言い、俺たちは宿に帰る事にしたのだ。
俺たちは電車の中で一言もしゃべらなかった。
俺は窓をボーっと眺めてたが、所々涙がポロリと流れた。
横で卓也はスマホをいじり、下を向いている。
今日、俺は失恋をしたのだ…だけど卓也に思いはちゃんと伝えれた、けどもう卓也とも会う事もないだろう…。
卓也にもう会えない…て考えたら無性に淋しさと喪失感に襲われたのだった。
ホテルに着いても卓也とはあまり喋らず、必要最低限の会話しかしなかった。
「明日早めに空港に行くから今日は早めに寝るよ」と卓也が言った。
「そうだね…」
俺はソファーで寝ようとしたが卓也が「隣においで」と言い、俺は卓也の言葉通り一緒のベッドに入った。
しばらくして、俺はベッドの中で声を殺しながら再び涙を流した。
自分の恋が実らなかった事の悲しさもあったが、一番は卓也の予想外の返事に驚き、悲しさに涙を流した。
要するに都合のいい関係を維持する為の返事だ、と自分は解釈した。
そう思うとますます悲しくなり、淋しくなった。
俺は眠れずベッドから出て、窓際でタバコを吸い、缶ビールを飲んだ。
外には青白く寂しく光る半月が昇っている…。
俺は小声で月に呟きながら「月はただ 進むばかりで 過ぎてゆく 君の心も 振り向きもせず」と一首歌を詠んだのだった。
ただ涙をこぼし、ひたすら月を眺めながらビールを飲んだ。
これが俺の初めての台湾旅行の思い出になるとは思ってもいなかったのだ…。
この日ただ泣くだけ泣いて俺はソファーでいつの間にか眠りについた。
次の日の朝、俺たちはいつも通りの感じに振る舞い、ホテルをチェックアウトをし、桃園空港に向かい、無事帰国をしたのだった。