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「家の中のお掃除は頑張っていただいたので、今日はお庭の方をしていただけたらと。よろしいですか?」
「はい」と返事をして、外へ出た。
蓮水邸の玄関前に広がる庭園は、伸びた木の剪定以外にはあまり庭師さんも入れないで華さんが丹精を込めて作られてきたとのことで、枝葉を広げる樹々と色とりどりの花が咲き、季節ごとの景色を鮮やかに見せていた。
華さんからは、お花のお手入れの仕方を細かくレクチャーしてもらって、最近では私一人でもお庭をいじれるようにもなっていた。
広い庭園内を廻り、水やりをしつつ雑草や枯れた葉などを取り除いていると、小汗が滲んで額を手の甲で拭った。
気持ちのいい汗をかいて、家の中へ戻ると、
「鈴ちゃま、お疲れになったでしょう。紅茶でも飲みませんか?」
と、華さんに声をかけられた。
蓮水さんは、今は海外のアパレルメーカーとリモートで打ち合わせ中で手が離せないとのことで、紅茶は華さんと二人でいただくことになった。
……紅茶をカップに注ぎ入れると、「お部屋の整理をしていたら、このようなものを見つけまして」と、華さんがやや表紙の色あせた分厚いアルバムをテーブルの上に乗せた。
「陽介様には打ち合わせに入る前に許可をいただいていますので、どうぞ中をご覧になられてみてください」
「はい……」と、表紙を開いてみると、中には若き日の彼の写真が幾枚も収められていた。
一人でだったり、時には友人と笑い合って写る蓮水さんは、どれも素敵でかっこ良くて、昔から本当にイケメンだったんだなと、貼られている写真に見入った。
「この方は……」
“HASUMI”と掲げられたテーラーの前で、真新しいスーツを着込んだ彼の隣に立たれている方はもしかして……と、思っていると、
「こちらは、陽介様のお母様ですね」
華さんが手の平で差し示して、そう教えてくれた。
「やっぱりそうですよね。彼に面影が窺えるようなので。ですが、お母様は今はどちらに?」
「……陽介様はお父様を早くに亡くされていて、お母様がずっとお一人で育ててこられたそうなのですが、陽介様がお店を開かれて間もなく、お母様は長年のご辛労がたたられて……」
「そうだったんですね……」以前、私に気持ちを伝えてくれた際に、息子の秀司さんを引き合いに、『長く寂しい思いをさせたんで、賑やかに家族に囲まれることを望んでいると思うんだ』とも話していた蓮水さんのことが思い出されると、そうした半生を過ごしてきたからこその言葉だったんだと、しみじみと感じた……。