テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
「あっ……」
ページをめくっていると、彼の隣に寄り添う髪の長い綺麗な女性に、手が止まった。
「……それは、亡くなられた奥様です」
華さんに告げられ、彼の傍らで晴れやかに笑う女性をじっと見つめた。
「素敵な人ですね……」
やっぱり蓮水さんが選ばれただけあって、女性の自分から見ても魅力的な人だなと思えた。
「奥様だった千明様は、気さくで明るい方で、私にもいつも親しく接してくださっていて……」
かつてのことが思い出されたのか、華さんがふと言葉を詰まらせて、
「こちらには、坊ちゃんも」
と、話題を変えるように、別の写真を差し示した。
「可愛らしいですね」
まだ幼さの残る顔立ちの秀司さんの姿に、促されるまま目を移した。
「ええ、坊ちゃんはとても元気で可愛くて、奥様は朗らかでお優しくて、お仕えしていた私も、毎日が幸せでした」
「……ええ」と、頷く。その幸せだった日々が、突然の事故で絶たれてしまった事を思うと、胸がぎゅっと締め付けられるようだった……。
アルバムの中には、幸せなそうに笑う顔があるのに、もう何処にもいないだなんて……。
蓮水さんは一体どんな思いでいたのだろうと感じていると、
「あの時……」と、華さんが口を開いた。
「……奥様が亡くなられたという報せが届いたあの時、陽介様は受話器を握ったまま、床にがくりと膝を突かれて……」
彼の悲しみが痛いくらいに伝わるようで、堪えていた涙が込み上げた。
「……そんな……」
溢れた涙に、華さんからティッシュが差し出されて、目尻を押さえた。
……アルバムの途中から奥様のお写真が失くなると、代わりにやや表情が固くも見えるような髭を生やし始めた蓮水さんと、どこか大人びても見える秀司さんが撮られたものだけがあった。
「……本当に奥様が亡くなられてから、髭を生やされていたんですね……」
涙を拭いて、何か話さなければという思いで口にした。黙っていると、涙が後から後から溢れて、止まらなくなりそうだった。
「ええ、髭を生やされたのは、陽介様なりの覚悟だったのかもしれません。愛した奥様との別離を乗り越えて、伸ばした髭をきっぱりと剃ることのできる人に、いつかは出会いたいと願う……」
「はい……」とだけ、答えた。彼がずっと胸に抱えていたであろうその覚悟を、私もしっかりと受け留めていたいと、そう感じた……。
コメント
1件
願掛けしたのね