テラーノベル
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学生時代と社会人とのギャップに驚かなくなって、すでに4年の歳月が過ぎていた。出社時刻は9時だけど、僕はいつも始発電車で会社へと向かう。
埼京線の混雑具合はハンパないからそうしていた。
ぎゅうぎゅうに詰め込まれた車内はこの世の地獄だから、早起きしてでもゆったり座れた方がマシだと思う。
毎日お弁当は持参している。
勿論僕の手作りだけど、たまには彼女にも作ってもらいたいなと思う。
付き合い始めて6年。
学生時代は半同棲生活をしていたけれど、お互い社会人になってからは会う時間は減っていた。
「清人は何でも出来るから、あたしなんて必要ないでしょ!」
一年前に初めて喧嘩した時の彼女からの言葉が、今でも心に突き刺さったままでいる。
忘れたいけど、一緒にいると時折思い返してしまう自分が嫌でたまらない。
最近では、いつ別れを切り出そうか悩んでいる。
セックスもあまりしなくなった。
彼女が泊まりに来た夜は、それなりのコトはするけれど、ふと違うことを考えてしまう瞬間がある。
それはセックスの悩みと言っても良い。
彼女は感受性が強い。
だからいつも僕なりに「してあげている」つもりだけど、彼女はそうじゃない。
セックスはお互いに気持ちの良いものじゃないのかな? そんな不満を抱えたままの恋愛に疲れて来た。
だけど、長時間労働も結構身体には堪えている。
仕事終わりの夜は、雰囲気作りさえ面倒臭くなる時がある。
そんな事は彼女には言えない。
だって男だし、働くのは当然なんだと思うから。
もうすぐクリスマスだと言うのに、デートの予定は入っていない。
その日は朝から外回りだから、きっと帰りは終電になるだろう。
僕は寂しさを紛らわす為に、今日も電車でスマホをいじっている。
SNSで知り合った「ミサキ」さんとはかなり仲良くなっているつもりだ。
何故だろう?
随分昔から知り合いみたいな気がする。
僕は一度会ってみたくなった。
だからミサキさんに連絡を入れた。
『ミサキさん好みの素敵な飲み屋見つけたんです! 一緒に行きませんか? イングリッシュパブって行ったことありますか? 良かったらメッセください^_^ 教授より』
教授というハンドルネームは僕の中学時代のあだ名だった。
牛乳瓶眼鏡だったからついたニックネームだけど、今はコンタクトレンズに変えた。
髪型や洋服にも気を使うようになった。
それと同様に、ネットの世界は嘘だらけだから、僕は自分をうんと着飾っていた…
朝の朝礼後、僕は早速商品企画室の部長に呼び出された。部長の机の上にはファイルがいつも山積みになっている。
それが仕事の出来る人間の証とばかりに。
「浅川、お前が取ってきた外注の書類な! 不備だらけだぞ。いい加減に覚えろ。大学のサークルじゃあるまいし」
僕は怒られ慣れしている自分に気が付いていた。
仕事のミスを指摘されるならいざ知らず、性格や生き方までも否定する様な言い方をされる。
何がコンプライアンスだ。
モラルハラスメントもいいとこだ。
部長の言葉に腹を立てる時間すら勿体無く感じるから、僕は小声で 「申し訳ありません」と無感情な言葉を発した。
これが現実なんだと理解するまでに、幾度も会社を辞める事を考えた。
だけど両親に申し訳なくて、友人達にも合わす顔がないからやめた。
どうしてもプライドが邪魔をする。
みんなそうして生きているのだろうか?
僕は誰かに尋ねてみたかった。
『あなたは何の為に働いているんですか?」
って。
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