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kaede🍁
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#💛💜
みら

7,798
その日は、メンバー全員で海外ロケだった。
朝から移動して、撮影して、また移動して。
ホテルへ戻った頃には、全員かなり疲れていた。
用意された部屋は三人部屋が三つ。
阿部、渡辺、深澤の女性組は、当然のように同じ部屋になった。
「もう無理」
部屋へ入るなり、深澤がベッドへ倒れ込む。
渡辺も荷物を置きながら頷いた。
「俺も。風呂入ったらすぐ寝る」
阿部はまだ少し元気そうに見えたけれど、それでも欠伸をしている。
「明日も早いんだっけ?」
「朝ごはん食べたら空港」
「じゃあ寝ないと」
三人とも順番に風呂へ入り、明日の準備だけ済ませると、それぞれのベッドへ入った。
部屋の明かりが消える。
しばらく小さな話し声が続いていたけれど。
それも、いつの間にかなくなった。
三人ともすぐに眠った。
夜中。
阿部は夢を見ていた。
暗い場所。
誰かの声。
逃げたいのに、上手く身体が動かない。
何かを止めたい。
でも間に合わない。
自分の声なのか。
誰かの声なのかも分からない。
怖い。
阿部は、ぱっと目を開けた。
暗いホテルの部屋。
カーテンの隙間から、ほんの少しだけ外の明かりが差し込んでいる。
しばらく自分がどこにいるのか分からなかった。
夢の続きをまだ半分見ているような感覚。
心臓が速い。
怖かった。
阿部は布団から出た。
そのまま、ほとんど何も考えず隣のベッドへ向かう。
布団を持ち上げ、中へ入った。
「……え?」
渡辺が目を覚ました。
突然、自分の布団に阿部が入ってきた。
「あべちゃん?」
返事はない。
阿部は渡辺の隣へ潜り込み、少し身体を丸める。
「……怖かった」
小さな声。
渡辺が少しだけ目を開く。
「夢?」
「……うん」
それだけ。
次の瞬間には阿部の呼吸が、またゆっくりになっていた。
「寝るの早……」
渡辺はしばらく阿部を見る。
起こすほどでもない。
追い出す理由もない。
仕方なく布団を少し掛け直した。
その時、布団が持ち上がった。
「……何?」
渡辺が見る。
深澤。
「ふっか?」
「起きた」
「だからって何で入ってくんの」
深澤は普通にベッドへ入ってくる。
「あべちゃんいるから」
「理由になってない」
「三人で寝ればいいじゃん」
「狭いんだけど」
三人用の部屋。
ベッドはもちろん一人用。
そこへ女性三人。
深澤が阿部を真ん中へ押し込むように位置を調整する。
「ほら」
「ほらじゃない」
「あべちゃん怖い夢見たんでしょ?」
「多分」
「じゃあ真ん中」
阿部本人は。
何も知らずに眠っている。
渡辺はため息をついた。
「明日起きたら絶対覚えてないだろ」
深澤が笑う。
「ありそう」
「俺らだけ狭い思いして」
「でもあべちゃん温かい」
「そういう問題?」
少しだけ静かになる。
阿部は、完全に眠っていた。
さっきまで怖い夢を見ていたとは思えないくらい穏やかな寝息。
渡辺は結局、阿部の身体へ腕を回した。
深澤が。
「優しい」
「うるさい」
「俺もくっつこ」
「狭いって」
文句を言いながら。
結局三人ともそのまま眠った。
翌朝。
「おはよ」
阿部は驚くほど普通だった。
渡辺がベッドの上で阿部を見る。
「……おはよ」
深澤もまだ眠そうに。
「おはよ」
阿部は自分のベッドではなく、渡辺のベッドから起き上がった。
それでも特に気にした様子はない。
「俺、こっち来たんだ」
渡辺が。
「来たよ」
「夢見たからかな」
「覚えてんじゃん」
阿部は少し考える。
「怖い夢だった」
「狭かったよ」
「ごめん」
「軽いな」
阿部は笑いながら。
「ありがと」
と言った。
それだけで、もういつもの阿部だった。
着替えて。
朝ごはんを食べて。
荷物をまとめて。
昨夜のことなんてほとんど引きずっていない。
渡辺は少しだけ呆れていた。
帰りの飛行機。
阿部は窓側。
その隣に目黒。
少し離れた席に渡辺。
飛行機が安定してしばらくすると。
阿部がメモ帳を取り出した。
目黒が横を見る。
「何してるの?」
「夢のメモ」
「夢?」
「昨日見たやつ」
渡辺が前の席から少し振り返る。
「あんな怖がってたやつ?」
「うん」
阿部は思い出しながら書いていく。
断片的な場面。
人物。
魔法。
誰かと誰かの関係。
何が起きたのか。
最後に見た光景。
細かく書き足していく。
目黒は横から少し読んだ。
そして、だんだん顔をしかめていく。
「……あべちゃん」
「何?」
「これ、結構嫌なんだけど」
阿部が顔を上げる。
「夢だよ?」
「夢でも」
「見たんだから仕方ないじゃん」
目黒の眉間の皺が増えた。
渡辺も気になり、席から少し身を乗り出す。
「見せて」
阿部がメモ帳を渡す。
渡辺は読む。
「……」
目黒が横から聞く。
「どう?」
渡辺が。
「バッドエンド」
「でしょ?」
「でも」
渡辺はもう一度メモを見る。
「これ、少し変えたら映画にできそうじゃない?」
目黒がすぐに渡辺を見る。
「何で?」
「何でって」
渡辺は普通に続ける。
「設定は面白いじゃん」
「嫌なんだけど」
阿部は少し黙っていた。
それから鞄を開く。
今度はメモ帳ではなく、少し大きなノート。
目黒が嫌な顔をする。
「あべちゃん」
「何?」
「何でノート出したの?」
「脚本考える」
「早くない?」
渡辺が笑う。
「始まった」
阿部はもう書き始めていた。
夢の内容をそのまま使うところ。
変えるところ。
人物を整理する。
関係性を組み直す。
夢では曖昧だった部分へ理由をつける。
渡辺も途中から一緒に考え始めた。
「ここ、こうした方がよくない?」
「あ、それいい」
「こっちはちょっと重すぎる」
「でもここは残したい」
「じゃあその前に一個入れれば?」
「なるほど」
目黒は隣で、どんどん完成していく脚本を見る。
ずっと顔をしかめていた。
「俺、反対だからね」
阿部が書きながら。
「まだ出演お願いしてないよ」
「絶対するじゃん」
「分かんないよ」
渡辺が。
「するでしょ」
目黒が。
「ほら」
二人が話している間にもページは増えていく。
食事が出ても、阿部は食べながら考える。
少し眠って起きたらまた書く。
渡辺も時々口を出す。
目黒は何度も覗いては、そのたびに顔をしかめる。
日本へ着く頃。
脚本はほとんど完成していた。
目黒が最後のページを見る。
「……本当に書いた」
阿部が。
「結構いいと思う」
渡辺も。
「俺も」
目黒だけ納得していなかった。
数日後。
阿部が魔王になり、平和にした世界。
魔王城の一室。
大きなテーブルを囲んでいたのは。
阿部。
目黒。
渡辺。
宮舘。
そして。
クッキー。
ココ。
モカ。
三匹の前には当然のように犬用のお菓子。
クッキーだけおいも。
阿部は、完成した脚本をテーブルに置いた。
「できた」
ココが。
「映画ぁ?」
モカも。
「新しいのぉ?」
「うん」
クッキーが。
「クッキー出る?」
阿部が少し考える。
「今回はどうかな」
「えー」
クッキーは残念そうにおいもを食べる。
目黒が。
「俺、まだやるって言ってないからね」
宮舘も静かに頷く。
「俺も」
渡辺が宮舘を見る。
「涼太も渋ってんの?」
「読んだからね」
「俺も出るよ?」
「翔太が出るから余計に」
渡辺が少し黙った。
阿部は二人の反応を予想していたらしい。
特に気にせず犬たちへ脚本を見せる。
ココ。
モカ。
二匹で読む。
クッキーも。
読めているのか分からないけれど、間から覗く。
少しして、ココが顔を上げた。
「撮れるよぉ」
モカも。
「できるぅ」
目黒が。
「そこじゃないんだよ」
ココが目黒を見る。
「出てくれないのぉ?」
その顔。
丸い目。
少し下がった耳。
チワワ特有の何故かものすごく可哀想に見える顔。
目黒が黙る。
モカも宮舘を見る。
「出ないのぉ?」
宮舘も黙る。
クッキーまで二匹を真似するようにじっと見る。
「出ない?」
宮舘が目を逸らす。
渡辺が。
「涼太弱いじゃん」
「翔太も見てみれば?」
クッキーが渡辺を見る。
渡辺がすぐに。
「俺は出るって言ってるから」
クッキーの顔が戻る。
「じゃあいい」
目黒が。
「切り替え早いな」
その時、空気が少し揺れた。
「あ」
阿部が顔を上げる。
現れたのは。
天使。
そして。
魔王。
天使はテーブルの上の脚本に気づく。
「何してるの?」
阿部が。
「映画」
「新しいの?」
「うん」
天使がすぐに近づく。
「見せて」
魔王も隣から覗き込む。
二人で少し読む。
そして、天使の顔が明るくなった。
「私、悪魔役やりたい」
全員が見る。
「え?」
天使は楽しそう。
「これ」
脚本の一部分を指差す。
「この役」
阿部が。
「天使なのに?」
「映画でしょ?」
「そうだけど」
「悪魔やったことない」
何故か、かなりやる気。
その隣、魔王も。
「俺も悪魔役やりたい」
目黒が。
「魔王なのに?」
「似たようなものでしょ」
「違うと思う」
「じゃあ二人でやろうよ」
天使が。
「いいね」
二人が勝手に盛り上がる。
「どっちが悪い悪魔?」
「俺」
「私もやりたい」
「じゃあ役増やす?」
阿部が。
「増やさないで」
渡辺が笑う。
ココも。
「撮れるぅ」
モカも。
「悪魔二人ぃ」
クッキーが。
「こわい?」
天使が。
「怖くする!」
魔王も。
「俺も!」
クッキーが少し引く。
「やだ」
「じゃあちょっとだけ怖くする」
「おいもくれる?」
魔王が。
「終わったらね」
「出る」
渡辺が。
「クッキーも出ることになってるじゃん」
阿部が。
「話変わってる」
気づけば。
阿部。
渡辺。
天使。
魔王。
ココ。
モカ。
クッキー。
みんな、かなり楽しそうに映画の話をしていた。
「ここどう撮る?」
「夢だからできるよぉ」
「衣装どうする?」
「学校作る?」
「作れるぅ」
「魔法陣もいるね」
「いっぱい出せる」
どんどん進んでいく。
その一方。
目黒と宮舘。
二人だけほとんど話していない。
目黒が隣の宮舘を見る。
宮舘も目黒を見る。
少しだけ沈黙。
目黒。
「……やる流れだね」
宮舘が。
「そうだね」
「断れると思う?」
宮舘は。
犬たちを見る。
ココ。
モカ。
クッキー。
三匹とも楽しそう。
さらに阿部と渡辺。
もう完全に撮影するつもり。
宮舘が小さく息を吐いた。
「難しいかな」
目黒もため息。
「だよね」
二人の気持ちなんてほとんど関係なく。
新しい映画の話はもう、かなり先まで進んでいた。
数日前。
海外ロケのホテルで、阿部が見たただの怖い夢。
それが少し形を変えて。
四人を中心にした新しい映画になろうとしていた。
目黒と宮舘だけが、最後まで少し複雑そうな顔をしていた。
コメント
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ああ、読み終わりました!「怖い夢」から始まったのに、気づいたらあの世界観が映画化目前のドタバタになってて、展開の自然さにびっくりしました。特に阿部が渡辺の布団に入る朝方のやりとりとか、「あるある」って思わず頷いてしまう空気感、すごくリアルですよね。そこから「思い出しながら書いた夢」を“ちょっと変えたら映画にできそう”って渡辺が言い出した瞬間から、一気に物語が走り出す感じが好きです。天使と魔王まで「悪魔役やりたい」って参戦してくる破壊力よ… 目黒と宮舘だけ最後まで複雑そうな顔なのも、絶対また巻き込まれるんだろうなって予感がしてニヤニヤしました。続き、本当に気になります!