テラーノベル
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6話目もよろしくお願いします!
スタートヽ(*^ω^*)ノ
家に帰り着いた頃には レトルトの体力は完全に尽きていた。
フラフラとした足取りのままお 風呂へ向かう。
熱い湯に浸かる気力すらなく 軽く体を流すだけで終わらせた。
ご飯は 食べる気になれず、 そのままふらふらと 寝室へ向かい 布団に倒れ込むように 体を沈めた。
「……はぁ……疲れた」
一日分の疲れが 一気に押し寄せ まぶたが自然と閉じていく。
意識がだんだん薄れていった、 その時――
『レトさん、おつかれ〜』
死神はレトルトに軽い声で話しかけてながら
隣に潜り込んできた。
「……」
レトルトは、 うっすらと目を開ける。
「……なんで入ってくんねん。」
そう言いたかった。
言って、追い出したかった。
でも、あまりの眠気に 頭が回らず 言葉も出てこない。
その代わりに、 ぼんやりとしたまま
ぽつりと、呟いた。
「……お前、 名前……なんていうの?」
ほとんど寝言みたいなふにゃふにゃとした声。
死神は 一瞬だけ目を丸くした。
そして、 くすっと笑う。
『はは……今さらかよ』
『俺の名前は、キヨ』
少しだけ嬉しそうな声で レトルトの方を見て、
静かに答えた。
しかし、レトルトは もう半分眠っていた。
「……キヨ……」
確かめる様に小さく繰り返す。
そして、そのまま ゆっくりと目を閉じた。
呼吸が 穏やかになり、レトルトは
完全に眠りに落ちた。
死神は その寝顔を見つめながら、 さっき見た
あの笑顔を思い出していた。
一次の日の朝一
カーテンの隙間から 光が差し込む。
その中で 小さな歌声が 部屋に漂っていた。
『つまずい……んで….どろんこの …..向こう…』
レトルトは ぼんやりとその声を聞いていた。
夢の続きの様に
現実と混ざるような感覚。
やがて、 ゆっくりと目を開ける。
「……ん……」
重たい体を起こし 目をこすると、 視界の端に死神 の姿。
窓際に立って 外を見ながら歌っている。
レトルトはその背中に向かって まだ眠そうな声で言った。
「……それ、なんのうた?」
ぴたりと歌が止まり死神が 勢いよく振り向いた。
『うわ! レトさん、聞いてたの?』
レトルトは ぼんやりとしたまま頷く。
死神は少しだけ照れたように笑って、
『ん〜……わかんない』
肩をすくめる。
『でも、なんでか歌える』
不思議そうに言いながら、死神は また軽く口ずさみ始める。
さっきと同じ メロディ。
レトルトは その歌を 静かに聞いていた。
レトルトは ぼんやりとしたまま視線を壁にかけてある 時計へと動かした。
―11時一
「……は?」
理解が追いつかない。
次の瞬間――
「11時!?」
布団をバサっと捲り勢いよく飛び起きた。
こんな時間まで寝ていたことなんて、 今まで一度もない。
いつもは アラームが鳴る前に目が覚める。
それが“当たり前”だった。
なのに―― 今日は違う。
完全に寝過ごし レトルトは 呆然と時計を見つめた。
その横で死神が
「くくっ」
と小さく笑った。
『レトさん、ぐっすり寝てたなぁ。昨日楽しかった?』
からかうように言われ、 レトルトは「別に」と 眉をひそめながら言ってベッドをおりた。
そのまま 窓の方へ歩いて行き カーテンを開けると空はどんよりと曇って 雨がふっていた。
レトルトは空を見上げて 少しだけ目を細めた。
その横で死神 が窓に顔を近づける。
『今日は雨だから…..外、行けないな』
少し残念そうに 外を見つめながら、ぽつりと呟いた。
雨音が一定のリズムで部屋に響く。
レトルトは 少し遅めの朝食――いや、昼食を取りながら考えていた。
(雨の日にできること….なんやろ….)
そもそも 今までそんな事を考えたことすらなかった。
休みの日は どこにも行かず ただ椅子に座って、
時間が過ぎるのを待つだけ。
それが当たり前だった。
それでいいと思っていた。
「……」
レトルトは 小さく息を吐く。
その時、後ろから
『レトさーん』
間延びした声で、死神が 部屋の奥から呼んでいる。
『なぁなぁ、これなにー?』
死神が指差す先へ、 レトルトはゆっくり立ち上がって向かう。
クローゼットの扉が少し空いていて、その奥に一つの箱 ――
「……ああ」
見覚えがあった。
昔、近所の商店街の ガラガラで当たったテレビゲーム。
開けることもなくクローゼットに しまったままだった事を思い出した。
死神は箱を見ながら目を輝かせていた。
『なぁ!これ遊ぶやつだよな!?』
わくわくした顔。
『レトさん!一緒にやろうぜ!』
レトルトは死神のキラキラした眼差しを 少しだけ見つめる。
(昨日の遊園地といい、子供みたいだな。)
(こいつは、 “初めて”を楽しむのが上手いな)
レトルトは ゆっくりと箱に手を伸ばした。
そして――
「……まあ、暇だしな」
死神の顔が、ぱっと明るくなる。
『やる!?ねぇ!やる!?』
「……うるさい」
ぶっきらぼうに返しながら レトルトは箱を開けた。
新品のままのゲーム機の封を切る。
その音は、 止まっていたレトルトの時間を 少しだけ 動かした。
テレビに繋いで、電源を入れる。
画面がぱっと明るくなって 軽快な音楽が部屋に流れ出した。
死神の目が 一気に輝く。
『うわっ!!すっげー!!なにこれ!』
子どもみたいに 身を乗り出して画面に釘付けになっていた。
『レトさん、それ貸して!貸して!』
興奮した声で コントローラーを指差す。
レトルトは無言で ひとつ差し出した。
死神は嬉しそうにそれを受け取ろうとして――
『……あっ』
渡されたコントローラーが手をすり抜けた。
ガタン。
コントローラーが床に落ち、一瞬静かになった。
死神はそのまま固まって、 ゆっくりと視線を落とす。
『……俺』
小さな声。
『触れないんだった』
ぽつりと呟く。
さっきまでの輝きは消え 少しだけ 寂しそうに下を向く。
レトルトは慰める言葉が思い付かず、 何も言えなかった。
部屋には雨の音だけが 静かに響く。
レトルトは 床に落ちたコントローラーを拾って テレビの前に座る。
「……俺がやってやるから、見とけ』
『うん!!!』
ぶっきらぼうな言い方だったが、死神は 顔を上げて嬉しそうにレトルトの隣に座った。
画面の中のキャラクターはジャンプして、走って、それに合わせて楽しそうな音がテレビから流れてくる。
死神はレトルトの横で、真剣に画面を見ていた。
『……それ、どうやるの?』
小さい声で遠慮がちに聞く。
レトルトは 画面を見たまま、
「こうやって……ここで、ジャンプ」
操作の説明は雑で 相変わらずぶっきらぼうだったが、死神は 真剣にそれを見ていた。
まるで、 自分が触れているみたいに。
少しずつ 表情が戻っていく。
そして――
『すげぇ……』
楽しそうに呟いた。
『レトさん!そこジャンプ!!』
『いや今の絶対いけたって!』
『うわー!ほらー!! 負けちゃったじゃん!! もう一回!もう一回やって!』
死神はレトルトの隣で大騒ぎだった。
レトルトは コントローラーを握り直しながらムキになった。
「……わかってるって!」
少しイラついた声。
「キヨくんがうるさいから 集中できないんだよ!」
思わず言い返す。
その瞬間、死神 の動きがぴたりと止まった。
『……え』
小さく声が漏れる。
今の言葉が 頭の中でゆっくり反芻される。
――キヨくん。
名前を呼ばれた。
初めてだった。
ちゃんと自分の名前を、 “呼ばれた”。
死神は じっとレトルトの横顔を見る。
「なんだよ?次は勝てるから、ちゃんと見ときや?』
レトルトは急に静かになった死神に自信満々な顔で言って画面に向き直った。
『…..うん』
胸の奥が、
じん、と熱くなる。
なんでかは、わからない。
でも―― 少しだけ 泣きそうだった。
今まで たくさんの人の“最期”を見てきた。
たくさんの命を、見送ってきた。
でも、誰も 自分のことなんて見ていなかった。
怖がられて、 拒まれて…. それで終わり。
名前を呼ばれることなんて 一度もなかった。
なのに――
今、目の前の人は 当たり前みたいに 自分の名前を呼んだ。
『……』
死神は小さく息を飲む。
そして 少しだけ笑った。
さっきまでの無邪気な笑いじゃない。
どこか静かな 優しい笑顔。
『……レトさん』
レトルトには聞こえない位の小さな声で呼ぶ。
その声は――
愛おしい人を呼ぶときの様な声音だった。
続く
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🦀さんが🐈⬛にどんどん心開いていってる姿良すぎます、、
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