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7話目もよろしくお願いします!
スタートヽ(*^ω^*)ノ
外の雨の音が聞こえない程、2人は笑いながらゲームをしていた。
画面の中のキャラクターが走って、
跳んで、転んで。
そのたびに、
『レトさん!!今のはいけただろ!』
「いやいや!無理やろ!」
『諦めんなよ!!!』
「じゃあ、キヨくんやってみろや!!」
『俺、コントローラー持てねぇんだって!』
「あぁ、そうやったな」
『「はははははは」』
言い合って、笑い合って。
レトルトは出逢った頃より ずっと表情が柔らかくなっていた。
死神からの“応援”(ほぼ煽り)に 半分呆れながらも応えて、 気づけば声を出して 笑っていた。
死神もその笑い声につられるように笑う。
嬉しそうに。
楽しそうに。
部屋の中に、2人の 笑い声が何度も重なった。
レトルトにとってこんな楽しい時間は初めてだった。
やがて 少し疲れて ゲームを一旦止める。
静かになった部屋に、
雨音だけが戻ってくる。
レトルトは ぼんやりと天井を見ながら言った。
「……そういえばさ」
少し間をおいて。
「朝、歌ってたやつ」
視線を死神の方に向ける。
「もう一回、歌ってくれへん?」
死神は少し驚いた顔をした。
でもすぐに にやっと笑う。
「いいよ。 ちゃんと聞いとけよ!」
そう言って ゆっくりと 歌い始めた。
『ねえ 明日はどこへ行こう。どんな顔で
どんな世界を見よう〜!…..』
朝よりも 少しはっきりした旋律。
レトルトは黙って聞いていた。
歌が終わると、部屋の中にはしばらく静けさが残った。
外の雨音だけがゆっくりと時間を刻んでいる。
レトルトはその余韻をぼんやりと感じながら、ふと口を開いた。
「その歌さ、デュエットじゃない?」
横目で死神を見ながら。
『デュエット?』
死神はデュエットがなんなのか分からず聞き返した。
「一つの曲を2人で歌うって事。今の曲、二人で歌うような歌詞に聞こえるけど……」
死神は少しだけ考えるように視線を上に向けて、肩をすくめた。
『んー、わかんない!』
あっさりとした返事。
『でも、なんでか歌える』
どこか他人事みたいに言う。
レトルトは眉をわずかに寄せた。
「なんでかって……誰かに教えてもらったんじゃないの?」
レトルトからの問いに死神は 少しだけ黙り込み、 記憶を辿るようにゆっくりと目を細める。
けれど――
『んー….』
小さく首を振った。
『誰かに 教えてもらった記憶、ないなぁ』
言い切ったあとも気になってはいるようで死神は そのまましばらく考え込んでいた。
少しの沈黙のあと、レトルトは気になっていた事を質問した。
「ていうかさ、キヨくんっていつから死神なの?」
何気ない調子だったけれど、その目は少しだけ興味を帯びていた。
死神は一瞬きょとんとしたあと、ふっと視線を泳がせる。
『いつから……』
その言葉をなぞるように呟いて、ゆっくりと考え込む。
『……いつからだろうな』
小さく笑った。
『あんまり時間の感覚なくてさ。気づいたら死神だった』
軽く言うその声は、冗談にも聞こえるのに
どこか本気だった。
死神は少し首を傾げる。
『なんかさ、大昔からやってる気もするし……でも最近な気もするし』
自分でもうまく言葉にできないのか、曖昧に笑う。
『不思議な感覚なんだよなぁ』
レトルトはその言葉に少し驚いたように目を向けた。
「……へぇ」
それから、何気なく続けた。
「でも…昔からって、見た目は若くみえるけどなぁ」
ぽつりと溢したした一言。
死神はにやっと笑いながら
『死神は年取らないんだよ。俺ずっとかっこいいまんま』
どこか得意げに言うその顔に、 レトルトは小さく鼻で笑った。
「……自分で言うなよ」
『あ、そうだ!!』
ふいに思い出したように、死神が顔を上げた。
さっきまでの曖昧な表情とは少し違って、
何かを思い出したのか、はっきりした顔。
『俺さ、死神になったとき…..』
ぽつりと話し始める。
『俺を死神にしたやつに言われたんだよ』
レトルトは何も言わず、その先を待つ。
死神は少しだけ遠くを見るような目をして、ゆっくりと言葉を続けた。
『100人の魂を見送れば、死神としての務めは終わるって』
静かに、淡々と。
『それが終われば――私が君を導こう、ってさ』
その言葉を言い終えると、少しだけ肩の力を抜いた。
レトルトは、わずかに眉をひそめる。
「キヨくんを死神にしたやつって誰?神様?」
自然と出た疑問だった。
死神は少しだけ考えるようにしてから、首を横に振る。
『さぁ……』
曖昧な返事。
『声しか聞こえなかったから、わかんない』
軽く笑うが、その笑いはどこか頼りない。
『顔も見てないし、そこがどこだったかも覚えてないんだよなぁ』
ぽつりと付け足す。
レトルトは 小さく息を吐く。
「……適当やなぁ」
死神は苦笑いした。
『あ!でも!あと何人かは覚えてるよ』
レトルトは眉をひそめる。
「……何人?」
死神は満面の笑みで答えた。
『残り1人!!!』
『レトさんの魂がさ 俺が死神として見送る、最後の魂なんだ!』
死神は嬉しそうにレトルトの顔を見た。
『レトさんを見送ったら、俺もう死神じゃなくなるんだよ』
目を細めて、少し空を見上げる。
『天に行けるのかも!!』
その顔は 本当に楽しそうだった。
レトルトは少しだけ死神から視線を逸らし
小さな声で、
「そ、それって……俺とキヨくんは一緒のところにいけるってこと?」
ほんの少しだけ―― 期待が混じっていた。
死神は少し考えてから、
『そうかもな!』
ぱっと笑った。
明るく 迷いもなく。
その無邪気な顔を見て レトルトは、
「……そっか」
ぽつりと呟いた。
その声はいつも通りのはずなのに、 どこか柔らかい。
死神はそれを見逃さなかった。
じっとレトルトの横顔を見て、 にやっと口角を上げる。
『レトさんさぁ』
わざとらしく、からかうように。
『俺と一緒にいれて、うれしいんだろ〜』
無邪気にケラケラと笑う。
レトルトはすぐに顔をしかめた。
「……そんなわけないやん」
呆れたように言う。
「死んでからも隣でぎゃあぎゃあ喚かれるとか….」
一度、言葉を区切って。
「最悪でしかないわ」
ぴしゃりと返す。
でも、 その口元は少しだけ緩んでいた。
死神は一瞬きょとんとして、
『レトさん、ひどいーー!!!』
楽しそうに、そして さっきより少し近い距離で笑った。
雨の音は、変わらず続いている。
でも部屋の中は――
どこか、少しだけ明るかった。
ゲームを再開してから、どれくらい時間が経ったのか…。
気づけば、窓の外は夕焼けに染まっていた。
さっきまで降っていた雨も、いつの間にか止んでいる。
オレンジ色の光が部屋の中に差し込んで、
影を長く伸ばしていた。
レトルトは一息ついて、テーブルにコントローラーを置く。
「……夜ご飯、買いに行かなきゃな」
そう言って、ゆっくり立ち上がった。
その言葉に死神がすぐ反応する。
『えーー!!』
大声を上げてレトルトの方を見る。
『まだゲームしたい!!』
子供みたいに不満をぶつけてくる。
『やだー!!レトさんー!!まだやめないでよー!!』
大騒ぎながら、レトルトの周りをうろうろする。
レトルトは何も言わず、ゆっくり振り向いた。
そして――
「キヨくん」
穏やかな声で呼ぶ。
「今日は終わりやで?」
にっこりと笑う。
でもその目は、笑っていなかった。
一瞬で空気が変わる。
死神はぴたりと動きを止めた。
『……ひっ』
小さく声が漏れ 思わず後ずさるような顔。
死神はぽつりと呟く。
『……死神よりこえーじゃん』
その瞬間、
「なんだって?」
レトルトがさらに優しく笑う。
逃げ場のない笑顔。
死神は一瞬で姿勢を正した。
『なんでもないです!!!』
即答。
さっきまでの勢いはどこへやら、
すっかり大人しくなる。
少し縮こまったまま、レトルトの様子を伺う。
レトルトは満足そうに小さく息を吐いて立ち上がった。
「スーパー行くけど、キヨくんも一緒に行く?」
玄関へ向かいながら、レトルトは振り返って言った。
『スーパー?』
死神はきょとんとした顔で首を傾げる。
『なにそれ』
知らない様子だった。
レトルトは少しだけ考えて、
「……楽しいところやで」
とだけ答える。
その一言で――
死神の表情がぱっと変わった。
『いくー!!』
迷いもなく声を上げる。
さっきまでの不機嫌はどこへやら、
目を輝かせてレトルトの後ろについてくる。
その様子を見て レトルトは小さく息を漏らした。
「……ほんま、ころころ変わるなぁ」
呆れたように言いながら、 少しだけ口元が緩む。
クスッと笑って 玄関のドアに手をかけた。
外に出ると、空は一面の夕焼けで さっきまでの雨が嘘みたいに 澄んだ空が広がっている。
柔らかいオレンジ色の光が 街を静かに包み込んでいた。
レトルトはそのまま数歩歩いて―― ふと、足を止めた。
何気なく、後ろを振り返ると 地面に伸びる影。
そこにあったのは――
自分の影、”ひとつだけ”だった。
ほんの一瞬、 視線が揺れる。
『レトさん?どうした?』
急に立ち止まったレトルトを死神が 不思議そうに覗き込んでいる。
レトルトはすぐに前を向き直った。
「……なんでもない」
軽く笑って、 そのまま歩き出す。
夕焼けの中、 伸びる影はやっぱり一つだけだった。
スーパーに入った途端、死神は一気に騒がしくなった。
あちこちに視線を向けては落ち着きなく動き回る。
カラフルに並んだ野菜の前で立ち止まって、
『レトさん!これなに?なんて名前?』
きらきらした目で指をさす。
少し進めば、水槽の前で足を止める。
『レトさん!これ生きてるぞ!動いてる!』
楽しそうに顔を近づけて、
『あー、でももうすぐ死んじゃうなぁ』
ぽつりと、当たり前みたいに言う。
その言葉に、レトルトはほんの一瞬だけ視線を向けたが何も言わずに通り過ぎた。
さらに奥へ進むと、試食コーナー。
死神は、またぱっと顔を輝かせる。
『これ、もらえるの!?』
身を乗り出して、
『ちょーだい!ちょーだい!』
はしゃいだ声。
けれど次の瞬間、
『あ……俺、食べれないんだった』
思い出したように止まる。
肩を落として、しょんぼりと下を向いた。
そのまま、足取り重くレトルトの元へ戻ってくる。
レトルトは、そんな一連の様子を特に相手にすることもなく、淡々と商品をカゴに入れていく。
騒がしさにも、言葉にも、いちいち反応しない。
ただ――
心のどこかで、ふと考えていた。
(……次の休み、水族館でも連れて行くか)
理由は特にない。
ただ、あの水槽の前で目を輝かせていた顔を、もう一度見てもいいかと思っただけだった。
買い物を一通り済ませて、レトルトはセルフレジへ向かった。
カゴを置き、商品を一つずつ手に取ってスキャンしていく。
ピッ。
ピッ。
一定のリズムで鳴る電子音。
その横で――
『なにこれ』
死神が身を乗り出す。
『ははっ!変な音ー!』
ピッ、という音に合わせて、 ケラケラと子どもみたいに笑う。
レトルトは最初こそ無視していたが、
あまりにも死神が楽しそうに笑うものだから、
「……ふっ」
思わず吹き出してしまった。
死神はレトルトの反応に、ぴたりと動きを止める。
『え?今なんで笑ったの?』
首を傾げながらきょとんとした顔でレトルトを見た。
レトルトは一瞬だけ視線を逸らして、
「……アホやなぁって、思っただけ」
そっけなく答える。
でも、口元はまだ少し緩んでいた。
死神はしばらく不思議そうに考えていたが、言われた意味を理解したのか、
『アホって言うな!!』
と、騒ぎ始めたがレトルトはそれを無視して
お金を払い袋を持って出口へと向かう。
「おいていくで?」
そう言ってレトルトは死神を呼んだ。
ご飯を食べて、風呂を済ませて、布団に入る。
身体に残った疲れがじわりと広がっていく。
明日からまた、”いつも通り”の毎日が始まる。
上司の一言で突然できた二日間の休み。
うるさくて、振り回されて、
思い通りにならないことばかりで。
いつも通りなんて、ほとんどなかった。
それなのに――
レトルトは天井を見上げたまま、ぼんやりと思う。
(……楽しかったな)
小さく、心の中で呟く。
そのまま、ゆっくりと横を向くと 当たり前みたいに死神が布団に入っていた。
すぐ隣で、こっちを見ている。
レトルトは少しだけ眉をひそめる。
「……なんで布団に入ってんだよ」
睨むように言ったが、 その目に強さはなかった。
死神はそんな視線を受けても全く気にする様子もなく、
『へへっ
嬉しそうに笑う。
レトルトは小さく息を吐いた。
追い出す気にもなれなくて、 そのまま視線を天井に戻す。
静かな夜。
隣からは微かな気配が伝わってきて、 不思議と嫌じゃなかった。
『レトさん、俺めっちゃ楽しかった!』
隣から弾んだような、小さな声がする。
『レトさんは?楽しかった?』
期待をそのまま形にしたような目で死神が目線を合わせてくる。
いつもなら――
「別に」
そう返して終わるはずだった。
でも、なぜか….
「……楽しかった」
口から出たのは、いつもと違う言葉だった。
自分でも少し意外で 言ったあとにほんの少しだけ視線を逸らす。
死神はぱっと顔をほころばせた。
『そっか!俺と一緒でよかった!』
嬉しそうに笑うとそのまま満足したように目を閉じる。
綺麗な赤い瞳がゆっくりと隠れていく。
レトルトはその横顔を少しだけ見てから 静かに目を閉じた。
明日から、また”いつも通り”が始まる。
同じ時間に起きて、
同じ仕事をして、
同じ一日が過ぎていく。
そのはずなのに。
隣にいる存在が、
その“いつも通り”を、少しずつ変えていく。
静かな夜の中で、 その変化だけが 確かにそこにあった。
続く
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