生唾を飲み込んだ。 俺は、少女がなぜ夢に現れたのか、そして助けを求めていたことを思い返す。本当に彼女が力を与えたのか? 何をしたかったのか、いまいち分からない。
ただ、俺は「助ける」と言っただけだった。あの出会いが俺の再生力に寄与しているのなら、もっと知る必要がある。少女は始まりの一族の神なのではないか? だとすれば、なぜ神が俺に力を与えたのか。その理由が気になる。爺さんの言う「利用されてはならない」という言葉が、妙に引っかかる。
「なあ、爺さんよ。利用するってどういうことだよ?」
俺は腕を組み、畏まって問う。
「そうじゃのう。少女は我々の祖先、血脈の源泉に位置する存在と思われておる。そして不思議な力を持っていたそうじゃ。じゃがの、悪い口伝として残っておるのが、人の姿を万物に変化させるという話じゃ。こちらが意図せずとも、じゃ。良い口伝では、この地に豊穣を与える神となったと伝わっておる。その悪い口伝の側面でお主を誑かしておるのなら、注意した方が良いのではないか……とな。」
なんだか、全てが的を射ているようで、射ていないような話ばかりだな。誑かす、か……そこまであの少女と話したわけでもないんだがな。
「なるほどな……まあ、言い伝えだから何とも言えねえがな。」
視界の端にサブのモヒカンが映り込む。
「オレッチ、難しい話わかんねっス。爺さん、外の新鮮な空気吸ってくるっス。これ借りるっスね。」
サブは木の棒でできた松葉杖をつき、おぼつかない足取りでドアの向こうへと出ていった。
「時に、この村の成り立ちは知っておるか?」
「いや、知らないな。それはさっきの話と繋がるのか?」
爺さんは髭を触りながら語り始めた。
「もちろんじゃ、と言いたいところじゃが、少女とその成り立ちに関連があるかは分からん。そしてこれも、全てが真実かどうかは分からんのじゃ。じゃが、聞く価値はある話じゃと思う。この村はな、とある国から追放された人々によって構成されたのじゃよ。追放された人々はやがて集落となり、今あるこの村になった。」
爺さんは、話をやめティーカップを持ち茶を啜る。喉が疲れたんだろうなと悟る。そしてまた、話しはじめる。
「じゃがな、その国は追放された者たちを追っては殺し、追っては殺し、一族を絶やそうとした。なぜじゃろうな? そうして、ある王国から逃げては集落を作ることを繰り返し、逃れたとされておる。だが、わしが生まれてからはそれらしき気配はない。わしの親からも追っ手が来たという話は聞いておらぬ。じゃから、その話は事実というより、ただの伝承と化しておるのじゃ。」
「そんな話があったのか。というか、俺ら以外の人間がいるってことなのか? それは初耳だ。伝承のことはどうであれ、その国については少女との関連性を明らかにしたいものだな。まだ、その国はあるのか?」
「分からんのじゃ。わしらの狩る領域の外にあるのじゃろうが、いかんせん何年もの歳月が経っておる。国が存続しておるのか、滅んでおるのかも分からぬし、場所すら知らぬのじゃ。探しようもない。それに眉唾物かもしれぬしの。暇つぶしに誰かが作った話かもしれん。そんなものを信じたところで、というわけじゃ。」
爺さんは、やれやれといった様子で肩をすくめた。
「そうか、嘘かもしれないってことか……まあ、少女の話は本当な気がするから、また何かあったら爺さんに相談するわ。教えてくれてありがとう。」
俺は爺さんに礼を言い、窓を眺める。
次、あの少女と会う日は来るのだろうか……






