「はあああ???? 何それ、あんた何してるの!?」
窓の外を見る。
どんよりとした雲の合間、微かに見える星空。
何だかんだと、もうすぐ12月。
夜の7時ともなれば、もう完全に夜だ。
目の前に座る真衣香の友人である優里の服装も、いつの間にやら暖かそうなニットになって冬仕様だった。
「ちょっと真衣香!聞いてる?」
仕事帰りにカフェで軽くご飯を食べながら、つい最近の出来事を振り返り。
それを順に優里へ話していたなら……
予想通りと言ったら怒るだろうか?
絶叫が響いていた。
「優里、ね、お店だから」
「ずぅえぇぇーーったい! 絶対! マジで騙されてるって、遊ばれてる、いや遊ばれる! あれ、あいつそんな空気した!」
「もう、遊ばれてるって……」
真衣香は少しだけ頬を膨らませて優里に抗議の視線を送る。
気付いた優里は、コホン!と軽く咳払いをして「……う、ごめん」と口を尖らせて見せた。
しかし、そんな表情も束の間。
すぐにタマゴサンドを一口かじりながら言った。
「でも、慣れてそうだったじゃん。ああゆう場から女連れ帰るの」
よっぽど坪井に対して疑いを持っているようだった。
「うーん、それは確かに慣れてるのかもしれないけど」
「だったら!」と立ち上がる勢いで優里が真衣香の声に割り込もうとしてくる。
ロングの綺麗なストレートの髪がカフェオレに浸ってしまいそうだ。
「優里、髪の毛汚れちゃうよ」
「え!? あ、うん、ありがとう……って!そうじゃなくて真衣香!」
優里が心配してくれる姿は素直に嬉しい。
昔からまっすぐで、嘘をつかなくて、正義感も気も強い。
そんな親友はある意味予想通りに言葉を展開してくれているのだ。
「私も最初は信じられなかったし、たまたまあの日あの場で会って坪井くんに彼女がいなくて」
「もう、真衣香ぁぁ〜、たまたまってさ」
両手をテーブルについたまま項垂れ「それダメ、マジでダメなやつだって」と唱えるように呟く優里を見つめ、真衣香は笑った。
「うん、でも好きだなって思っちゃってるんだよね」
はぁぁ、と。
よく聞こえすぎるほどの、大きな溜息。
続けて「あんた頑固なとこあるからなぁ」と言って。
その後、数秒小さく唸って優里が言う。
「……そりゃ、真衣香初めての彼氏じゃん。比較対象ないし、ああゆう口うまそうなのには丸め込まれそうな気がするよ」
「優里気付いてる? さっきから悪口ばっかり言ってるの」
真衣香が再び睨むと、優里はわかりやすく肩を竦めて「ごめん!」とジェスチャーした。
「でもさ、でもさぁ!心配なのもわかってよー!」
テーブルをドンドンとして優里が言った。
先程から他の客がチラチラと真衣香たちのテーブルに視線を向けているが、優里は気にも止めず感情をぶつける。
それは、ずっと前から真衣香が羨んでいる姿。
優里の声はよく通る。
嘘なくまっすぐに迷いなく、キラキラと踊るような表情を何度真似たいと願っただろうか。
その度に、自分は自分でしかないと叩きつけられてきたものだ。
(羨むばっかりも、自分を嫌うばっかりもなくなる気がしたんだ)
坪井との距離が縮まって、真衣香の世界は確かに輝き出したから。
短期間のうちに、心は走り出していて。
信じられないくらいにたくさんのことが、起こっては、真衣香をまるで羽ばたかせるかのように背中を押した。
まだまだ不安定で未熟な、この恋が、ちゃんと本物に育っていけば。
(私だってちゃんと変われる。 だって今日は、優里になりたいって思って見てない……素直に、素敵だなって思えてる)
やっぱり恋は不思議だ。
もう何度目か、真衣香は思ってしまった。
だって、羨む心に、自分自身の心が痛んでいたこと。
そんなことにまで、今。
気付かせてくれたのだから。
「真衣香聞いてる!?」の、声に真衣香はハッとして、誤魔化すように残りのタマゴサンドを手に持った。
そして、優里を急かす。
「……ね、タマゴサンド食べちゃおうよ。ケーキも食べたいでしょ、時間なくなるよ」
「……ぐぅっ、食べたい。食べよう、この話は一時休戦ね。てか黙ってないでこまめに報告してよ、わかった?真衣香!」
言いながら優里は残りのタマゴサンドに豪快にかぶりつきながら、メニューを横目に見ている。
まだ平日のど真ん中である為、優里も大人しく今日のところは、この話題を終えた。
そう、
今日のところは、追撃を逃れることができそうだ。
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