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#長編
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誰かに認めて貰う。それがこんなにも胸が温かくなるなんて思ってもみなかった。思えばシルヴィアとしての人生は「公爵令嬢として出来て当たり前」というものだった。だから褒められるとちょっと照れくさい。
(褒められるってこんなに嬉しいものだったのね!)
「ということで珈琲とクッキーのお代わり」
「……私の感動を返して」
「なんのことだ?」
「ぼ、僕も珈琲お代わりしたい」
「分かりましたわ!」
「俺と扱いが違いすぎないか?」
不服そうなアルベルト様を前に、ちょっと悪戯心が芽生える。
「それは【家族】と【盟友】の違いでは?」
アルベルト様は挑発と受け取ったのか、冷え冷えとした眼差しを向けたまま「ほう」と、低く苛立った声を出した。口元は笑っているのに、破滅めいた顔をしている人外の何を信用しろというのだろうか。
「それなら今後はお前ともっと仲良くしていかないとな。覚悟しておけよ」
(あ、しまった。地雷を踏んでしまった!?)
視線は獲物を狙う猛禽類のソレだ。身の危険を察知し、機嫌を取るようなことを思案する。
「あははは……じょ、冗談です(こういうとき……ラフェドだったら)あ、そうだ。アフォガートという、特別なデザートを用意しましょう。お二人とも私の大事な絆持ちですから!」
「「!?」」
ベルナール様は素直に喜び、アルベルト様も目を伏せて「そこまで言うのならしょうがない」とまんざらでもない顔を見せた。
(死亡フラグ回避できたっぽい!? 食べ物の美味しさ万歳!)
「絆を得たからこれでシルヴィアの加護も強化されるね」
「え? 加護?」
フォルトゥナ聖王国では人外を見かけることはない。シルヴィアの祖国は閉ざされた国だったので、改めて世界的な常識が欠けてしまっていることに懸念を口にする。
「ん、ああそうか、お前は人外についても無知だったな。……というかメリットを理解してないのにどうして絆を結んだ?」
「え。だって仲良くしたいというだけで、すでに十分過ぎるほど嬉しいじゃないですか。人外との絆を結に当たってお互いに悲しいことがないように、名称を決めているものだとぐらいしか思ってませんでしたし……ん?」
私の話聞いていてアルベルト様は顔を手で押さえており、ベルナール様は凄く嬉しそうで、尻尾をブンブンと揺らしている。
「おま、……その感情はなんかずるいぞ」
「いみふ」
「僕、ますますシルヴィアが好きになった!」
「それはどうも??」
どうやら今の言葉は人外の胸を打ったらしい。やっぱりよく分からない種族だ。でもこれでハッキリとした。アルベルト様がラフェドだが前世の私を覚えていない。全くの他人だったとしても、この人外とは仲良くは出来るのではないか、と。
ベルナール様は家族になれる。純粋に喜んでくれているのが伝わってくるからこそ、安心して仲良くなれると思えた。血の繋がりがなくても仲良くできることが嬉しい。
「後日、お前には人外の種類と加護や祝福についての勉強が必要だな」
「そのようですね」
「いいか、俺たち以外と絆を結ぶ場合は必ず事前に連絡を入れるんだぞ」
「えー」
「無知なままだと死ぬぞ」
途端に彼氏面いや、この場合は過保護が増した気がしなくもない。しかしここは素直に頷いておこう。
「それは困る」
「そこは『はい』と言えよ。お前の感情の味を知ったら……殺到する」
「はい?」
「とにかく、むやみやたらに増やすな! いいな」
「はい」
それはフラグではないか。そう思ったが黙ってアフォガートを用意する。幸いにもアイテムボックスには作り置きのアイスがあるので、熱々の|珈琲(エスプレッソ)を準備して、振る舞った。《》
せっかくなのでバニラアイスを薔薇の形にして、珈琲を注ぎ食べて貰った。この世界ではないデザートだったらしく、二人とも感動していた。よく考えたら祖国でもこのような食べ方はなかった。
(悪役令嬢じゃなかったら、カフェ事業を開けば儲かったんじゃ?)
「白バラが冷たくて美味しい!」
「少し苦みのある珈琲の混ざり合った味わいがまた良い。気に入った」
「お気に召したようで何よりです。やっぱり食事は見た目と味の美味しさがあってこそですよね(今後はこの国で食材調達するものは色が付いてない可能性が高い。だとすると手に入れるには……あ)」
ふとこの屋敷内の領域が自分のものになったのなら、収穫システムが使えるのではないだろうかと頭の中で思案する。今後美味しい食材を確保することは急務だ。
この時今後の食料確保についてぼんやり考えていたのだが、その横でアルベルト様がテーブルに置いた箱庭オーリムの注意事項諸々を聞き逃していたことに気付くのは、少し経ってからだった。
***
同時刻。
|薄い灰色の街――教会本部。
聖職者たちが行き交う中、独りの神父が、焦げ茶色の短髪で気弱そうな同僚に声を掛けて呼び止めた。気弱そうな同僚はビクリと驚きながら振り返る。
「は、はい?」
「ダニエル神父、アルベルト大司教様を見ませんでしたか?」
ダニエル神父は見慣れないな、と言った顔をしつつも同僚と思われる神父に「いいえ」と告げ、途中で「あ」と声を漏らした。
「新しい聖女候補者様の中で、お一人だけ未到着ということで外出されたのでした」
そう答えたダニエル神父に対して、「へえ、あのアルベルト大司教が」と含みのある笑みを浮かべた。
「ところでダニエル神父、ちょっと変わった魔石が手に入りまして……これなのですが」
「それどれ? ……っ!?」
怪しく煌めく宝石を受け取った瞬間、ダニエル神父は硬直した。次いで精神干渉、汚染とその人間が食い潰されていく。
「あガ──っ、ぐぁ……ががががが………ひゃ……ひゃああああははははっははははひゃああ……ああああああーーーああああーーーーーーあ」
数秒後、当然のように同僚に傅く。その瞳は深海の淵に似た濁った色を宿していた。
「精神掌握、精神干渉にヨる浸食完了しましタ。アベル様」
「そうか。数百年ぶりにこの国に戻ってきたんだ。彼にも挨拶しようとしたのだけれど、せっかくだ。派手に挨拶をしてやらないとな」
「私ハなにをスれば?」
「そうだな。まずは先ほど渡した宝石を……教会内、特に聖女候補者たちに渡すと良い。面白い実験が出来そうだ」
ずっしりとした布袋を手渡され、ダニエル神父だった者は受け取った。
「畏まリましタ」
「それとアルベルト大司教が気に掛けた聖女候補者は、生け捕りにするように。400年ぶりに彼のお気に入りが出来たようだし、また壊してあげないとね」