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 アグネスはそおっと片目だけを開けてみる。

時間がどれくらい戻ったのかはわからない。

なんとなく爽快感が際立つ香水の匂いがする。

自分の部屋の匂いではないと思ったが、案の定見たことのない部屋にいた。

慌てて、しっかりと目を見開く。

辺りを見回してから、自分の身体の変化に気づいた。

いまの自分の手は、いつもあかぎれで所々血が出ている痛々しい手ではなく、ゴツゴツとした大きな手で、指の付け根あたりに剣だこがある。

着ている服もさっきまでは純白のドレスだったのに、いまはズボンとシャツのラフな格好だ。

クシャッと髪の毛に触れれば、長かったはずの髪が短くなっている。

ペタペタと顔を触るが、いつもの自分の顔より少し大きい気がする。

部屋はとても簡素で、窓の前に机が2つ並んで置かれていて、左右の壁に沿ってベットがある。

自分はどうやらお兄様の姿になって、そのうちのひとつのベットに腰掛けている状態だった。

どこかに鏡はないかと辺りを見回し、入り口の扉の横にクローゼットがあることに気づいた。

立ち上がり、そのクローゼットを開けると、紳士物の服が何点か入っており、クローゼットの扉の内側に鏡がついていた。


鏡の中の自分は、どこからどう見てもお兄様だ。

綺麗な金髪のお兄様の髪の毛に触れると、サラッと指が通る。

「わたし、本当にお兄様になったのね」

左手の人差し指には、女神様からいただいた銀の指輪が嵌められていた。

女神様の言葉を確かめるために、指輪をそっと外すと、たちまち純白のドレス姿の先ほどまでの自分の姿に変わった。


なるほど。こう言う事なのね。

理解して、もう一度指輪を嵌めるとお兄様の姿に戻った。


お兄様のスラリと伸びた脚や、引き締まった胸板をペタペタと触れてみると、少しの好奇心がムクムクと湧いてきて、ズボンの中を確認した。

「@$%&#%!!!!」

悲鳴を上げそうになり、なんとか堪える。お兄様のアソコって… というか、男性の大事なところって…

初めてみる形状に動揺を隠せない。

卒倒しそうな自分の気をなんとか保つ。

大聖堂の図書室で読んだ人体の本どおりと言えばそうだが、ちょっと実物って不気味なものなのね。


驚いてばかりの状況なのに、追い討ちをかけるように廊下から不機嫌そうにコツコツと歩く音が聞こえてきて、それがピタッと入り口の扉の前で止まった。

わたしの緊張が一気に高まる。


扉がバンっ!と勢いよく開いた。

「レオン、何しているんだ!夕食はとっくに始まっているぞ」

不機嫌そうな顔でわたしの方を見て、声を掛けられた。


わたしはいま、お兄様の姿をしているから、中身が「アグネス」であることはバレないが、緊張のあまり声が出ない。


「レオン。クローゼットの前で突っ立って何しているんだ?」

矢継ぎ早に話しかけてくるその人は、お兄様と歳が一緒ぐらいの男性だったが、シャツのボタンが上の方は留められておらず、着用の仕方が非常に乱れているし、長く伸びた黒髪も無造作に纏めているだけで、前髪も長い。

見た目からしても、なんだか人の道から外れている人、つまり不良っぽいのだ。

そして、わたしの記憶違いでなければ、見たことがある人だった。

(お兄様の従者の人に似ているような…でも遠目でしか見たことがないからわからないわ)


「なに、呆けているんだ。早く行くぞ」

怪訝な顔をされてしまい、我に返る。

「わ、わ、わかった。すぐに行く」

(どこに?)

不良っぽい怖そうなこの人について行かなければ。

慌てて扉の外に飛び出て、彼の後に続く。

部屋の入り口にネームプレートが掛けられていることに気づいた。

《レオン》《ノア》

(レオンはお兄様。もうひとつの名前はこの人なのかしら?)


「ノア!」


不良っぽい彼が振り返る。

「レオン、なんだ?」

一か八かで呼んで名前が合っていたのは良いが、何も考えなしで呼んでしまった。

咄嗟に出た一言が…


「お兄…私の願いは何か知っている…か?」


「はぁ???レオンの?」

ノアの問いにわたしは深く頷いた。

「知るもんか。そんなもんわかる訳ないだろう。なんだ、あれか!新手の謎々か?アホなこと言ってないで、早く食堂に行くぞ」

そう言うとノアは、ひとりで笑いながらスタスタと歩き出した。

「ノ、ノア!!私はこれからしばらく変だけど気にしないでくれ」

「わかった、わかった。早く飯を食いに行くぞ」

ノアは真剣に取り合ってくれないまま、先に行ってしまう。


お腹がギュルと鳴る。

とりあえず「腹が減っては戦はできぬ」だ。しっかりご飯をいただいてから、今後のことを考えよう。

なんとしてもお兄様の願いをあと7日間で叶えなければ、お兄様が死んでしまう。

ノアに置いていかれまいと、わたしも先を急いだ。

死に戻り聖女は兄の願いを叶えたい〜気づいていないけど、無償の愛に包まれています〜

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