テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
食堂に行くまでに見た建物や外の景色から判断すると、どうやらここはお兄様が所属していた騎士団の寮らしい。
女神様が話していたお兄様が生きていた時間に少し戻すとおっしゃっていたが、お兄様がわたしの聖騎士になる前、騎士団に所属していた時まで時間が戻っているのだろう。
食事は大きな食堂で食べるらしいが、一歩中に入って、心の中で怯んでしまった。
見渡す限り、屈強な男性しかいない!
大聖堂で男性と言えば、お年を召された司祭様や司祭様に仕える人達数名だけで、いずれもひょろひょろの中年以上のおじさまばかりしか接触してこなかったから、こちらの食堂の筋肉盛り盛りの男性で埋め尽くされている景色がこの世のものとは思えない。
よく見ると、食堂で夕食を食べている人達は、どう見てもお兄様ぐらいから少し上の若い人ばかりだった。
ノアは決められた席があるようで、その席まで迷わずに行くと着席した。
わたしはその横が空いていたのでそこにわたしも座ったが、誰もなにも言わないので正解だったようだ。
「俺たちの分、食べるなよ」
向かいの席の男性にノアが言うと、さっそく席に置いてあったフォークを手に持ち、目の前の大皿料理に手をつけた。
「あっ!」
思わず声を出す。
「なんだよ、レオン」
「食べる前にはお祈りをしなくてはなりません」
「はあ?」
ノアの目が見開いているし、向かいの席の方も驚いた表情のまま動きが止まった。
「食べ物を食べられることに感謝を。祈りましょう」
手を組み、テーブルに肘をついて祈ろうとするが、唖然とする近くの人達の視線が痛い。
何かを間違えたようだ。
「レオン、大丈夫か?祈っていたら夕食がなくなってしまうぞ。ここは生存競争が激しいんだ」
「そ、そうでした。いただきま…いただこう!」
危ない、危ない。
語尾がどうしても女性っぽくなるし、ここではそもそも食事の前にお祈りをしないものなのね!
ガチャガチャ、ガヤガヤと騒騒しい中、目の前に置かれている大皿から自分のお皿に取り分けて、恐る恐る口にする。
肉料理の味付けは少し濃いが、腹ペコだったわたしにはちょうど良い。
横をチラッと見ると、ノアも遅れを取り戻す勢いで食べていた。
わたしはお兄様の身体で食べ物を食べるのは初めてなので、喉を詰めないようにゆっくりとお食事をいただく。
大皿料理には、麓の町から遠い山奥の大聖堂では贅沢な一品となる生野菜のサラダもある。
うれしくって、何度も何度も手が伸びる。
特にトマトは山奥では栽培出来なかったし、輸送で潰れてしまうため、なかなか口に出来なかった生のトマトには感動だ。
ノアが変なものを見るような目でわたしを見る。
「何ですか?」
「いや…美味しそうにレオンが食べるなと思って」
「美味しいですよ?」
なんとか、食事にありつけ自然と笑みが溢れた。
そして、こんなに大勢でいただく食事は初めてだった。大皿から競争のように食べ、周りの方がリスのように頬張りながら、次々におかわりをする様子を見ているだけでも面白い。
大聖堂では祈り終わったら会話は禁止で、個々に取り分けられた食事を静かにいただいていた。
食事が終われば、風呂だという。
よく聞けば、共同とのこと。
思わず「ヒッィ」と声を漏らした。
入る順番やら、お作法などを探り探りで知り、見よう見まねで風呂に入る。
薄目で共同風呂には挑んだが、小さな声で悲鳴を漏らしてしまったのは見逃してほしい。
その上でお兄様の身体を洗うという…お兄様のためにという一心だけで、わたしはがんばったわ。
寝るまで悪夢のような時間だったけど、少しづつお兄様の日常を知れるのは、ただ楽しいしかなかった。
早朝、聖女の生活の時のように夜が明ける前に目が覚めた。習慣とは恐ろしい。
反対の壁のベットで眠る同室のノアはまだ、熟睡しているようで寝息が聞こえる。
それを確認すると、そろりとお兄様の机に向かった。
目的はお兄様の日記を探すこと。
万一でもお兄様が日記をつけていたなら、お兄様の日常が把握できるし、上手くいけばお兄様の願いがわかるかも知れない。
しかし、日記は見当たらなかった。
世の中、そう簡単に上手くいくものでもない。
指輪を摩りながら、机から見える外の景色をぼんやり眺めていると眠たくなってきて、そのまま机で突っ伏した。
「レオン、レオン」
肩をゆさゆさと揺さぶられて、ハッと気づくとノアだった。
「朝練、行くぞ」
朝練?
窓の外はさっきまでは白々と夜が明ける前だったのに、今はすでに日が昇っていた。
「すぐに用意する」
ノアの服装を見て、同じものをクローゼットから出し、慌てて着替えるが、わたしはノアがどこまでシャツや上着のボタンを止めているのかと、着替えながらノアを観察をする。
でもノアの服装はやっぱりボタンがきっちり留められておらず、着崩していてどうも不良っぽい。
この人の騎士の制服の着用の仕方が正しいと思えなくて、わたしはきっちりとボタンを上まで留めた。
わたしに騎士の朝練が出来るのだろうか。
不安になりながら、ノアの後に続いた。