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翌日。
「ふっかさん、昨日の飴まだある?」
向井が深澤の肩を軽く叩く。
「あー?もう食ったし」
深澤は笑いながら軽口を返す。
阿部はそのやり取りを遠くから黙って見ていたが、やがて立ち上がり、向井を呼び止めた。
「ちょっと、いい?」
廊下に出たところで、阿部は低い声で切り出す。
「……向井くん。ふっかのこと、どう思ってるの?」
向井は一瞬ぽかんとした後、慌てて首を振った。
「え?いやいや、俺は――」
「昨日見たんだ。ふっかと並んで歩いてるとこ」
阿部の声は淡々としているのに、瞳は鋭い。
向井は言葉に詰まる。
(……俺が好きなんは阿部さんやのに。なんでこんな誤解……)
「俺は……」
必死に否定しようとするが、阿部は遮った。
「……ふっかに手を出すなら、容赦しない」
向井は息を呑み、悔しさを押し殺すように笑った。
「……そんなんちゃいます。手は出しません」
二人の間に、重い沈黙が落ちた。
それからの日々、向井と阿部は自然と距離を取るようになり、業務に関する連絡もメモか人伝か。フロアには嫌な緊張感が走るようになってしまった。