TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

社畜のおっさん。転生先で色々と無双する。(序章)

一覧ページ

「社畜のおっさん。転生先で色々と無双する。(序章)」のメインビジュアル

社畜のおっさん。転生先で色々と無双する。(序章)

5 - 世界とは、いつも理不尽に満ちている。社畜ゆえに…

♥

16

2025年07月24日

シェアするシェアする
報告する



『カン!カン!カン!カン!カン!カン!。………ジュ!ジュゥゥゥ…』



「ふう。(ララって毎日、こんなハードワークをしてたのか…凄いな…)」



俺は正面から夕焼けを浴びながら、鋼でできた鉄槌を振り下ろしている。本日五本目になる大剣の整形を終えて、ようやく焼入れを済ませた。左右への波打ちも反りも無く、我ながらなかなかうまく打てたと思う。


真っ赤に焼けた鉄の板を鋼台の上で叩いては長く伸ばし、また焼いては形を整えてゆく。この武器工房に入って10日が過ぎた。基本的な体力は充分だとゆうララの判断で、長剣や大剣の基礎打ちと整形を任されている。


と、ゆうか。三つある窯も今ではひとつしか使っていないみたいだ。5人いた職人さん達は皆、皇国軍のお抱えとして王都で働いているらしい。跡を継いだミミ・バーランドがひとりで、全ての注文を熟していたそうだ。



「レオさ〜ん?買い物に行くのですけど欲しい物はありませんかぁ?」



「…………。(ここはもう少し鋭利にするか。…柄になる部分はこうで…)」



「レオさーん?。(炎の音が大きくて聞こえないのね。行ってきます♪)」



「あ!れ?。(やばい!力を入れすぎたか!?。…叩き過ぎると肉厚が薄くなっちゃうからなぁ。…もっと…こう。…全体をこう…平均的に…と?)」



それがミミの最後の姿だった。今になって悔やんでも、到底くやみきれない。あの時に俺が気付いていれば、もう日が暮れるからと止めていれば、或いは槌を置いて連れ立って出ていれば、こうはならなかったはずだ。そして二時間後、俺、八門獅子は、男として最大の屈辱を味わう事になる。



「え?。…ミミがアトランタ子爵の屋敷に連れて行かれた?。なんで?」



「うん。…そろそろお屋敷に着いた頃かしら。…レオくん…顔こわいよ?」



「…はぁ。…なんで行く前に…俺に教えてくれなかったんだよ?ララ…」



「教えたら素直に送り出してくれた?。…この際だからレオくんに教えておくけど、この街で貴族に逆らうとね?…絶対に碌な事にはならないの。それに二人は小さい頃から仲良くしてて……レオくん?…話し聞いてる?」



一息つくために戻った店の裏口で、俺は落雷に撃たれたかのような衝撃を受けた。平然とした顔で語るララの言葉が、いちいち耳に突き刺さる。もしもその貴族にミミが頻繁に呼び出されていたとしても!俺の知らない場所で会っているとしても!全ては俺の身分が低いからなのだ!。くそっ!



「権力の力ってやつか?。俺も日本で身に沁みているよ。だからって…」



「アトランタ子爵の御子息はミミと仲がいいのよ。ほら、魔術学校に通ってるでしょ?あの子。どうやらひとつ上の学年らしいのね?。その御子息の名前はえ〜と?…ばると?。そう、バルト・アトランタ。だったわ。」



「ふぅん…そうなんだ。そんな男がいるなら俺と婚約なんてしなかった方が良かったみたいだな。ララの言うように、そのバルト・アトランタ次期子爵の妻になる方が全てに恵まれる。この店も安泰だし。そーかそーか、俺は居ない方が良いな。…あ、これ。ララにあげるよ。図面もあるから特許でも取れば大金持ちになれるぞ?。(くっそぉ結局は産まれかよっ!)」



「これは?何?。えっ!レオくんっ!?。なに!?どこ行くのよっ!?」



「ココを出て行くよ。ああ、それは『ピーラー』って言って、いろんな野菜の皮を、薄く素早く、しかも安全に剥ける便利道具だ。それは試作品だけど、そこにある設計図を元に特許登録して作れるだけ作れ。街に売り出せば来年には大金持ちになっているはずだ。…それじゃ。世話になった…」



流石に俺は…居た堪れなくなってしまった。オレ以外の男達の魔の手からララミミ姉妹を守る為に婚約したとゆうのに、知らない貴族の一言で簡単に覆されてしまうなんて。しかし…名もなく無力な俺には手の施しようがない。この世界に階級制度がある事は知っていた。だが直撃されるとは…



「ちょ!?ちょっと待ってよレオくん!?。怒ってるのは解るけど!なにも出て行かなくても!。明日の夕方にはミミも帰ってくるんだしっ!」



「!?。男の家に泊まりに行った婚約者を…笑って迎えろって言ってるのか?ララ・バーランド。…幾ら脳みそが58歳でも…できる事とできないことがあるんだよ!。良かったよ…お前もミミも…傷物にしなくてな?」



「レオくん!?レオくんっ!?。ちょっと待ってよ!?。ねぇっ!?」



「……………。(事情は解っていても、俺の堪忍袋はそんなにタフじゃない。婚約者を寝取られても!相手が貴族だと文句も言えないなんてやってられるか!。もし怒鳴り込んでいけばバーランド商店が潰される可能性だってある。…俺が貴族に勝つ為の手段は何かないのか?。その貴族よりも俺の方が強いと認められればいいのか!?。こんな理不尽…辛抱できるか!)」




こうしてララとの初めてな口論と共に、異世界での俺のスローライフは終わりを告げる。美人姉妹との甘々で幸せ過ぎた日々にどっぷりと溺れていたツケが来たらしい。二人との婚約は胸糞悪い男どもから守る為だった。だが今になって考えれば、それは決して…俺じゃなくても良かったのだ。



「レオくん!?。どうしちゃったのよ!?。なにに怒ってるのよ!?」



「……いいから放っといてくれ。…もう…誰も護らない。守れもしない!」



アトランタ子爵とゆう頼れる貴族に任せる方が、姉妹の安全性は格段に跳ね上がるだろう。この世界に来て約半月、所詮オレはこの世界の者じゃない。未だこの世界のルールやしきたりや法律だって理解していないのだ。


厳しい世界で肩を寄せ合い生きるララにもミミにも傷ついて欲しくない、誰にも奪わせたくないから護ろうと思っていたのに。商人であるが故に、こうもあっさりと尻尾を巻かなきゃならないとは……我ながら情けない。



「…………レオ…くん。…ちょっと待って!。ちゃんと話し合おう?ね?」



「……………。(今の俺じゃ誰も護れない。…権力にも刃向かえない。貴族が渡せと言えば…抗う事も許されず渡すしかない。そんなの嫌だ!。だから俺は二人から離れる。今は一緒にいたって、また身分で奪われるんだ!)」



俺の腕を全身で抱き締めて、家に引き戻そうとするララの手を払った。その場に座り込んだ彼女を振り向きもせずに、俺は街の中心へと歩みを進める。ひどく胸が痛むのも仕方ないことだ。選択したのは自分なのだから。


いま持っているのは銀貨10枚と、ララとミミが仕立ててくれた皮のジャケットとボトムだけ。ブーツは銀貨2枚で靴屋に作ってもらった安物だ。色々と濃厚だったこの半月間、あの姉妹に支えてもらっていた事には感謝が尽きない。しかし今の俺では…何の役にも立てないのだ。酷く虚しい…




「おお?黒髪男子♡。背も高いしイイ感じだねぇ♪。お兄さん幾ら?」



「…………ちっ。(なんだよ?この露出女は。…少しは羞恥心とか持てよ。)」



宛もなく彷徨うとはこの事だろう。俺は焚き火の灯りに惹き寄せられる蛾のように、酷くカラフルなネオンが煌めく明るい街並みへと歩いてゆく。初めておとずれた区画だが、どこか懐かしさを感じた。そう、日本にいた頃に、月イチで通っていた焼き鳥屋があった通りの賑やかさに似ている。



「え〜?無視ぃ?。…ほらほらぁ♡おっぱい好きだろぉ?。アタシをしっかり楽しませてくれるなら一晩中さわっててイイよぉ?。ねぇ、どお?」



「今はそんな気分じゃないんだ。悪いけど…他をあたってくれ。(ウザ…)」



そんな風景のせいで感傷的になっていたトコロに飛びついてきた若い娘。真っ赤なブラに真っ赤なパンティー。そして赤いロングブーツ。それだけしか身に着けていない。髪は三色になっているが…ネオンでわからない。



「悪いけど…他をあたってくれ。…く〜っ!シブい声だねぇ♪。ほらぁ?お金を貰えて〜こんな可愛い娘とイイコト♡までできるなんて♪めちゃくちゃラッキーじゃない?。ほらほらぁアタシの部屋そこだから。行こ♡」



「…………。(しつこいなコイツ。…うっ!?。ネ!…ネコミミだとぉ!?)」



どこからどう見ても、女性版の露出魔か若すぎる痴女だろう。俺は目を合わせない様にしながら正面から抱きついた少女を圧し離した。こうゆう類の女の子は面倒なことが多い。アチラでも残業の帰り道に、見知らぬ女子大生からパパ活を迫られた事がある。身体中の冷や汗が止まらなかった。


しかしこの娘は違った。生まれて初めて見る生のネコミミ美少女だったのだ。男子たるもの歳を取っても!ネコミミとウサミミは大好物だろう!。この衝動的な深層性癖が俺にも見事に当て嵌まってしまった。…マズい。



「ねぇお願い。アタシもうすぐ、は、発情期なのよね?。初めては人間の男とってずっと決めてたのよぉ。獣人の男のエッチはすごく乱暴らしいから嫌なのぉ。…ねぇ?人間のお兄さん♡お願いだから…いっしょに来て?」



「…俺の持ち金は銀貨10枚だけだぞ?。盗んでも大した額じゃない。それにこうして俺から顔も覚えられたんだ。捕まって受ける罰の事を考えたら割に合わないぞ?。(発情期?。まさか美少女の顔をした猫なのか?。それともネコミミを着けただけの人間の美少女?。…尻尾は…無いな…)」



「お兄さん?アタシの話し聞いてた?。盗んだりしないわよ。逆にお金をあげるって言ってるのに。…お兄さん…いい匂い♡。…瞳も黒いのねぇ♡」



これは本格的に不利な状況に陥ってしまった。ガッシリと俺の腕を抱いたネコミミ少女の腕力は思いの外に強力で、思い切らなければ振りほどけそうもない。見かけは華奢で小さな女の子なのに、只者ではない気がする。


見上げている大きな眼がどこかしらララに似ていた。しかし瞳の色が左右で違うみたいだ。これがオッドアイとゆうものなのか?。…初めて見た。



「そうか。でも俺はホンの1時間ほど前に、婚約者と別れたばっかりなんだ。…だから、とてもじゃないけどそんな気にはなれない。…悪いな…」



「え〜?。失恋したばかりならアタシが根絶丁寧に慰めてあげるって♡。ほら?アタシのアタマに触れてみてぇ?すごく手触りいいんだから♪」



「…あたま?。(しまった!女子に失恋話はヤブヘビだった!。…こうして見ると可愛らしくはある。ヒゲも無いし。おお!?なんだこの手触り!?似ているといえばやはりネコか!。……フワサラで…柔らかい髪だなぁ…)」



「ね?良い手触りでしょ♡。アタシの部屋でナデナデしてくれたら嬉しいなぁ♪。…ほら、金貨を1枚あげる♡。ねぇ〜ねぇ〜。いいでしょ?。」



「…………………。(仕方ない…コトはない!。…よく考えろよ?獅子っ!?。今のお前は誰も!何も!守れないんだぞっ!。だから一人になったんだろう!?。だから他人に関わるな!いくらネコミミ娘でもやめておけ!)」



俺は人生で初の、生なネコミミ娘に昂ぶる衝動と葛藤する。ここで誘いに乗れば元の木阿弥だ!。それにこの娘ではララやミミの代わりにはならない!いいや!してはいけないっ!。心臓を刳るような想いをしながら決めた!別れの苦悩は何だったんだ!?。貴族を見返すんじゃなかったのか!




「ふにゃ〜ん♡。ヤツカドしゃんの撫で方〜♡蕩けちゃいそぉ〜♡」



磨りガラスな窓の外には、赤や青のネオンサインが忙しく点滅している。日本でも座ったことのない上質なソファーに腰掛けている俺は、膝に乗り上げて甘えるネコミミ娘のショートボブな頭を撫でていた。なんとも癖になるサラフワな彼女の髪の手触りは、どこか懐かしささえ感じてしまう。



「そりゃどうも。…本当にギルドのハンターみたいだな。まさかミアン、あの大きな両手剣を使うのか?。(あの刻印…バーランド商店の剣か…)」



このネコミミ娘の名前はミアン。ギルドに登録して四年目なのだと言う。迎えられたのは五階建てな雑居ビルの最上階だった。ヒビの入ったビルの外観からは予測不可能な美しい室内、五階の全てが彼女の一室だ。壁は真っ白で、並ぶ様々な調度品が…素人目から見ても高級な物ばかりだった。魔物や魔獣を退治するハンターって…こんなに稼げるのか?。羨ましい…



「ん♡。剣も使うし銃も使うよぉ♡。…ねぇヤツカドしゃん♡お腹も撫でて?。…うにゃあん♡。大きくて温かい手〜♡。…ゴロゴロゴロゴロ…」



「…ふぅん。器用なんだな。(外観は人間の女の子なのに喉は鳴るんだ。…それにしても武器ばっかりだ。…ララの店と同じくらい置いてないか?)」



「うふふぅ♡。ミアンは一見、とっても可愛いナイスバディーな猫人だけどぉ〜♡ギルドではA級のハンターなのだー♪。どお?好きになった?」



よく慣れた本物のネコのように、俺の膝の上でくるくると身体を捩るミアン。伸ばす四肢は靭やかに美しく、そのボディラインはララにもミミにも引けを取らない。見上げる蒼と銀の大きな瞳が、縦に切れた瞳孔を妖艶に魅せた。髪色は三色。茶と黒と白。一般的に言えば三毛猫なのだと思う。



「手触りは凄く気に入ったけど…すぐに好きにはなれないかもな。そもそもランジェリーだけで街をうろついている時点で無理だから。(確かにナイスバディーなんだよなぁ。でも街の女性たちが殆どそうな気がする。そもそも修道女が創り上げた街だからか?。…美女の街ってのも頷ける…)」



「ヤツカドしゃん知らないんだ?。コレはビキニ・アーマーってゆう高級な特別装備だにゃん♡。アソコにあるのが特注のスケールアーマーでぇ♪あっちのが特注のウロコアーマー。そして特注のフルプレート♪。どれもミアンのナイスバディーに合わせて作ってもらったけどぉ、今の流行はやっぱりビキニ・スタイルにゃ♡。こんなに可愛くてもミアンは強いの♪」



「はいはい、可愛いかわいい。俺、そろそろ行くよ。約束した分しっかり撫でたからな?。それと、この金貨は返しとく。俺は男娼や物乞いじゃないんだよ。…ほら、膝から降りろよミアン。…おっぱいが溢れそうだぞ?」



「やーっ!降りないもんっ!。まだミアンの処女膜を貫いてないニャ!。それだとお約束が違うしっ!。今夜は一緒に居てくれるお約束にゃ!」



どうあっても膝から降りる気が無いらしい美少女な三毛猫あらためミアンは、俺の一張羅のボトムに爪を立てて食い下がった。その握力たるや経験が無いほど強烈で、革製のズボンに穴が開いてしまいそうだ。…不味い。



「自分から猫人族だって告白した途端にニャーニャー言いやがって。俺はお前みたいに大金持ちじゃないんだよ。すぐにでも仕事を見つけないと飯も食えなくなるんだ。ほら、早く降りてくれ。あんまりしつこいと怒…」



「仕事を探してたのぉ?。それならミアンがA級ハンターの助手として雇ってあげるにゃ♪。お家はココ♡。毎晩ミアンと〜熱〜く甘〜く抱きあいながら眠るのにゃ♡。そしてミアンの処女膜を貫いてくれたなら〜金貨10枚を進呈するニャ♪。どお?あり得ないほど良い話だと思わにゃい?」



「………。(処女膜のくだりはどうあれ…A級討伐者の助手かぁ。当然、専門の組織に登録って事になるはずだよな?。…大きな権力を覆すには軍事的なクーデターも効果的だと言うし、王政を排除したフランス革命は市民の反発から始まった。…俺がハンターとして名を馳せれば…あるいは…)」



階級の理不尽さに憤慨して、そして己の無力さを悟った。権力や身分に抗える力を欲して、断腸の思いでララ・バーランドに別れを告げた。俺は商人には向かず、技術者にも成れない。あるのは経験と雑学的な知識だけなのに、それさえも活かせずにいる。しかし俺はこの世界に根を下ろさなければならない。ならば俺に、新生した八門獅子にできる事を見付けよう。

社畜のおっさん。転生先で色々と無双する。(序章)

作品ページ作品ページ
次の話を読む

この作品はいかがでしたか?

16

コメント

0

👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!

チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚