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『ギ!ギキキキィーーー!!アアアアアーーーーー!!!』
「ミアンっ!。右上からだっ!そして左下っ!。避けろっ!!」
『ビュビュンッ!!。…ギャンッ!。ギャリリリィーーーーーッ!!』
「うにゃあっ!?。…ひゅ〜。危なかったニャ。レオしゃんサンキュ♡」
「無茶するなミアン!いったん俺の後ろに下がって休むんだ!。来い!」
ポッカリと大きく、丸く切り取られたような地下迷宮の階段の間。今、俺とミアンはその部屋の番人と戦っている。ほっそりと背の高い、蒼い巨大な魔像は、八本の腕を持ち、全身が渋い艶を放つ金属で覆われていた。
身の丈は約10メートル、縦横無尽に襲い来る細長い腕がとても厄介だ。その切先を見切ったつもりがヌルリと伸びてくる。しかも剣も銃も殆ど通じないとゆう強靭さ。このままでは明らかにジリ貧だ。打開しなければ…
「パン!。パンパンパン!…カチッ!…カチカチッ!。うにゃっ!? 」
『ヴゥウウウウウ…ア?ア!ア!?。……ヴフウ!アウウウウガ?アガ…』
「シャーーーーっ!。レオしゃんごめーん。ミアンの銃、弾切れにゃあ。予備の弾丸をもっとたくさん持ってくるべきだったニャ。てへぺろ〜♡」
「探索予定を変更したのは俺だ。ミアンは何も悪くない。…大丈夫か?」
『アッアッアッ!グッグッ!。……ウルルルルゥ。……ウッウッウ!…ウ。』
この階段の間の空間がなぜ丸いのか理解できた気がする。目前を覆うほどの巨大な魔像が、手足を広げるたびに岩の壁を削り取っているからだ。ミアンに借りていた魔力を秘めた宝剣もついさっき折れてしまった。気に入っていたのだが仕方ない。だが…これでますます引くに引けなくなった。
「こいつ…笑ってやがる。……ミアン…扉まで走れっ!。とどめを刺す!」
「にゃー!?。あ!アレやるのっ!?。ちょっ!ちょっと待つにゃ!」
「…いいか?ちゃんと耳を伏せておけよ?。…ふぅうう。………いくぞ!」
俺はミアンが脇を抜けた辺りで4つの手印を素早く組んだ。そして直後に術式が発動する。ランクの高い魔法はまだ使えないが、下級魔法に大量の魔力を乗せれば威力は上げられる。組む手印は魔法の詠唱を簡略化する為の技術だ。そのひとつひとつに意味があり、連ねる事で詠唱が完結する。よく忍者が遁術を使う時にやる印に似ているが、意味合いは異なるのだ。
「…我が名に応えよっ!『轟雷』っ!」
『ギッ!!!!?』
『ドガラガッシャーーーーーンッ!!!!!。ゴオォォォ………』
俺の渾身の雷撃は確かに直撃した。使用したのは今回で三度目なのだが、初めての時も二度目の時にも、受けた魔物は二度と立ち上がらなかった。だが相手は金属の身体を持つゴーレムだ。耐性があってもおかしくない。
『……オ…オオ…ン………。………オ………ン……』
「………。(…効いてるよな?。魔獣とかと違って…分かりにくい奴だ…)」
「ごくり……にゃ。」
『………オ……ヴ…ィ゙ィ゙ィ゙…ン…………』
唸るような低い駆動音と共に、巨像の眼が光りを無くした。襲いかかろうと広がっていた八本の腕がダラリと脱力する。その動きが遂に止まった。
この階段の間に訪れて切り結ぶこと数時間、過去最大の苦戦の末に倒すことができた。あの術式でダメならば次の手は無い。…俺達は命拾いした。
迷宮全体を震わす程の巨大な落雷に撃たれた魔像の巨体に、ビシビシと鳴りながらヒビが走り始める。頭頂部の辺りからガラガラと崩れ始めた。砕けた青銅色な破片と一緒に…握りこぶし大の魔晶石が転がり落ちてくる。
禁忌によって創られる魔像は、殺した者の数だけの魔晶石を、その体内で生成するらしい。まるで千手観音像を細身にしたような巨像だったが、その原動力はやはり魔力だ。地下迷宮と魔界が繋がっているとゆう憶測も案外的を得た話なのかも知れない。最下層を見た者は誰もいないのだから。
「お空のないダンジョンの中で、あんな大きい落雷を起こせるのってレオしゃんだけだニャ。にゃ〜、お耳の先っぽがちょっとピリピリするぅ。」
「ん?。わざわざ狙って飛ばすよりは楽だぞ?。お〜虹の魔晶石だ。しかもこんなにたくさん。さすがは高位のゴーレムだなぁ。儲け〜っと♪」
俺の魔法適性はギルド登録の際に調べてもらった。『あなたは異常体質です!ですが登録せよとのギルド・マスターからのお達しですので感謝して下さい!』やたらとツンツンする眼鏡の受付嬢に、そう釘を差されてから登録証を賜った。この世界には、火、風、水、土、雷と、白と黒とゆう七大属性があるとゆう。因みに俺の属性は…なぜだか教えてくれなかった。
「そのデカいゴーレムを、電撃一発で仕留めるレオしゃんは、そろそろ昇級試験を受けた方がいいニャ。(…たった二ヶ月でB級プラスなんて…もはやこのミアンちゃんを凌ぐ天才としか言えないにゃ。うふ…うふふふ♡)」
「……ん?あれか〜。またナンチャラの塔とか登らなきゃならないんだろぉ?。それに…最終テストが上級者との一騎打ちだなんて支離滅裂だよ。それとギルマスが許可してくれないんだ。理由も言ってくれないしなぁ。この外殻も持って帰るほうがいいんだろう?。あら?もう入らない…」
「む?それは新素材かにゃ?。一応持って帰ってみるニャ。それと、そもそもギルドは皇国兵士の育成所でもあるんだからにゃ?、対魔物や魔獣で腕を磨いて、大きな戦争が起これば女帝さまを守る為の剣となるのニャ。それこそがネオ・クイーンにあるギルドの使命。ハンターの名誉にゃ♪」
ただ俺の登録が認められたのは、遥か昔に似たような適性を持つ者が存在したからだとギルマスが教えてくれた。それは2回目の昇級試験の日だ。
A級ハンターなミアンの推薦があって、今のランクまではすぐに上がれたのに、いざA級の昇級試験となると渋り始めた。なにか都合が悪いのか?
「だから昇級試験にも、上級ランカーの推薦状が要るんだな?。でも俺に兵士は無理かなぁ。魔物は殺せても人は殺したくないよ。…ん〜。そろそろ亜空がいっぱいになりそうだ。…ミアン?ブロックルームを探そうか。」
「ん♪。ここは〜49階!?。二人だけのパーティで潜った階の新記録だにゃ♫。ふふ…ミアンちゃんはまた…ギルドの歴史に名を刻むのニャ〜♪」
手の甲に貼り付けたシールタイプの端末画面を見たミアンが、大きい目を更に大きくしていた。これはギルドからの支給品で、迷宮に入ってからの日数と経過時間が分かる優れモノだ。地上に戻ればDMだって送れる。
「もうそんなに降りてたんだ。でも15階まではA級ミアンのお陰でワープできたし。でも三日間で34階かぁ。…あ。階層転落の落とし穴トラップもけっこう効いてるよなぁ?。ミアンが発動させたヤツ〜。ぷぷぷ…」
「まだ言ってるのかにゃ?レオしゃん。あんなクロストラップ!誰がどうやったって避けられないニャ!。…でも、一緒に飛び込んでくれて……ありがと…お陰でまだ生きてるにゃ。もしもミアンひとりだったら…きっと…」
日銭欲しさに一階からスタートするパーティーもあれば、階級特権を使って階をパスする『亜空間魔法』を使ってもらう奴等もいる。それは迷宮の入口を管理する聖王教会の修道女に申請するのだ。するとホンの数秒で目的階のブロックルームに運ばれる。俺も覚えたいのだが入信しないと駄目らしい。ある意味、専売特許のような術なのだろう。とても便利なのに。
「お?ブロックルームだ。残った食材をぜんぶ使って飯にしよう。そして少し休んだら帰ろうか?。俺が魔法で出すシャワーよりも部屋の湯船に浸かりたいだろ。珍しい魔晶石もがっつり採れたし、帰って休もうミアン。」
「はいはい。(もう!相変わらずミアンの話、ちゃんと聞いてくれないにゃ。同棲して二ヶ月…進展したのはレオしゃんのランクだけニャ。もうミアンにも発情期なのかそうじゃないのか分からないくらいに、每日レオしゃんが欲しいのに!。…決めた…帰ったら襲ってやる!覚悟しろにゃ!)」
ギルドに登録してからとゆうもの、每日が充実して楽しい。やっている事は生き物を殺して、その魔物が持つ素材を集めるとゆう野蛮な仕事だが見返りの大きさは魅力だ。魔晶石は大粒の魔石で希少性が高い。ましてや虹色なら大当たり確定!キズモノでも最低金貨10枚にはなるシロモノだ。
因みに金貨1枚で一ヶ月間は、食う、寝る、遊ぶ。に困らない。多少の贅沢をしてもだ。円で換算すると120万くらいだろうか?。単純に、銀貨1000枚で金貨が1枚。銅貨でなら10000枚だったか?。街なかでは紙幣も使えるのだが、そっちのほうが価値はわかりやすい。だが伝統を重んじるギルド管理の繁華街では全てが金属貨幣。当然、討伐報酬もだ。
「ミアン?どうかしたのか?。…なんだか今…凄くズルい顔してるぞ?」
「えっ!?。そ…それは気のせいだにゃ。ミアンはいつも可愛い顔しかしてないニャン♪。それよりも〜今度は何をご馳走してくれるのかにゃ?。(こーゆー時のレオしゃんはなぜだか勘が鋭いニャ。…慎重に…にゃ…)」
「そうだなぁ。赤肉の塊が残ってるから、香辛料を利かせて丸焼きにするか。ミアンの好きな『モゥの乳』も少しあるから使っちゃおう。(今度はもっと野菜も持ってこないとな。…かなり肉に偏った食生活だったし…)」
これが命懸けの仕事であることを差し引いても、その勤め甲斐は社畜よりも凄い。それでも幼い頃から他人の暴力を受けてきた側だからだろうか?いかに魔物と言えど苦しまないように殺す事を心がけている。その為に高価な魔導書を買い漁り、読み耽って来たのだ。まだ足りない気もするが。
「ウミャウミャウミャ♪……ん〜♡美味し〜。レオしゃんは料理のスキルも高いのにゃ♪。もくもく、こくん。…はむはむ…うみゃうみゃうみゃ♡」
「ほらほらミアン。食べてる最中に…また声が漏れてるぞ?。もぐもぐ…(口に合ったみたいだな。…さて、ここからだ。時間的には早朝なんだけど…戻ったら討伐報告と換金と、報酬申請もしなきゃだし。忙しいな…)」
俺達はブロックルームに入ると、すぐさま食事の準備にかかった。予告通り、ミアンの顔よりも大きい『モゥ』とゆう牛に似た家畜の肉の塊に、たっぷりと香辛料を利かせて、備え付けのキッチン台のオーブンに入れる。
同じくモゥの乳の入った鍋に、残りの根菜と『コッケイ』とゆう鳥のモモ肉を切って放り込んで煮た。塩と胡椒と少しのニンニクで味と香りをつけて、焦がさないようにかき混ぜるのだ。ミルクだけで作る濃厚シチューはなかなかに旨くて、猫舌なミアンも大好物。作らない日はほとんど無い。
「もぐもぐもぐ…。(いつ来ても…ブロックルームって不思議だよなぁ。魔物は絶対に入れない安全地帯ってのは嬉しいけど『いたせりつくせり』が過ぎるよ。いくら聖王教会が管理しているからって、ベッドにテーブルに椅子まであって。シャワーもトイレも簡易キッチンまで常設だなんて。潜る俺達には有り難いけど…窓が無いだけのワンルームマンションかよ…)」
そう。このブロックルームには毎回感心させられる。壁は常にふわりと発光していて照明など必要としない。しかも、部屋の中をうろつく者がいなくなると自然と減光するとゆう便利さだ。基本的に四人で利用する想定なのだろうが、その空間は広すぎず狭すぎず。天井が高いのもありがたい。
「にゃむにゃむにゃむ……こくん。…ふぅ。もうお腹いっぱいニャ♪ごちそうさまでしたぁ♡。…にゃ!?大変っ!?。レオしゃん!今すぐフォロンを見るにゃ!。…ギルドマスターから…お手紙が届いてないかニャ?」
「お?端末か?。もぐもぐ…なんだこれ?…俺たち二人への非常招集?」
先の尖ったネコミミをピコピコさせて、ご機嫌で食事を終えたミアンが、手の甲で光る画面を見て目を丸くしている。縦に切れている瞳孔がキュッと細くなった。これはもしかして…尋常ではない連絡なのではないか?
「……そ、その先を読んでみるにゃ。…ネオ・クイーンにあの『天災』が迫ってる。こ…こうしちゃいられニャい。レオしゃん!スグに帰るにゃ!」
「ん?。う、うん。…なんだよミアン。その『テンサイ』って。」
「地上に戻ればスグに解るにゃ!。……『キュウキュウニョリツリョウ…』ほらレオしゃん!帰りのゲートを開いたから早く地上に戻るニャ!?」
「…わかった。いま行く。(ごめんなさい聖王教会の修道女さん。洗い物を残したままで帰りますけど…緊急事態らしいのでご容赦下さい。…しかしA級討伐者のミアンが顔色を変えるテンサイって、何なんだろうな…)」
俺は理由もわからないまま、一瞬で地上に戻してくれるゲートに足を踏みれた。最奥の壁に描かれている聖王教会の大きな紋章に、魔石を1つ捧げて呪文を唱えると真っ暗な亜空間ゲートが口を開く。濃紺色な渦を巻く不気味な楕円形の入口。初めてこれを潜った奴は相当にキモが座っている。
瞬く間もなく到着した地上の祠。そこには真っ黒な修道着を纏った女性が常に待機している。帰還した俺達に聖水なる液体を軽く振りかけると、無言なままで出口を指し示してくれた。この雰囲気はなかなかに慣れない。