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「そ、それってつまり、で、でー……!」
私はそこまで口にするとボンッと顔が赤くなり爆発してしまった。
だって、それは推しからのデートのお誘いだ。
久しぶりに、リースの中身が元彼であることを忘れ推しにデートに誘われたという愉悦感、興奮その他諸々に浸っていた。
私が真っ赤になりながら固まっていると、リュシオルが後ろで溜息をつく音が聞え私は我に返った。
(そうだ、リース様の中身は元彼なのよ騙されるな!)
そう思いつつ、リースを見ると彼は如何だろうか。といった感じで首を傾げ、困り眉で私を見ていた。
ああ、その仕草が可愛すぎる! ギャップ萌え! と内心悶えるが、なんとか抑えて冷静を装う。
取りあえず、返事は後回しにし理由などを聞いてみようと口を開くと突然ウィンドウが現われた。
【星流祭を一緒にまわる攻略キャラを決めよう! 報酬:選択キャラの好感度+15%】
私はその好感度の高さに驚き、目を疑ったがそこには+15%と書かれておりこの間のメインクエストよりも好感度が高いことがわかった。しかし、ふとリースの頭上の好感度を確認すると、彼の好感度はすでに85%となっており、このクエストが達成されてしまうと100%つまり、攻略クリアになってしまうのだ。
それは阻止しなければならないと思いつつも、先ほどまでリースにドキドキしていたのを思い出し、複雑な気持ちになる。
そんな私の様子を察してか、リースはどうした?と聞いてきた。
私はなんでもないわ。と答え、もう一度ウィンドウを確認した。
これは、イベントなのだ。慎重に選ばなければ。
密かに楽しみにしていた星流祭……しかしこれは、エトワールストーリーの目玉イベントと言っても過言ではないイベントなのだろう。
一年以内にヒロインが来るとして、先に攻略キャラを決め攻略するのが本来なら望ましい事なのだろうが、私としては純粋に星流祭を楽しみたい。
(お祭りとか……行ったことないし)
前世では、人混みに行くことすら億劫だった私は、いつも家で引きこもりをしていた。いや、子供の頃はそんな性格ではなかった。親に連れて行った欲しいと強請ったが、両親は忙しいからと断り、私は友達にも誘われることなく祭りに行くことなくその年を終えていた。今思えば、なんて勿体ないことをしてきたのだろうと後悔する。自分から友達に自分も行きたいと言えれば。
でも、これからは違う。
もう、何も我慢しない。好きなことをする。
だから、この祭りは攻略云々より楽しむことに重点を置きたい。
「ちょっと考えさせて、欲しい……あ、あの、でもね! 誘ってくれたことはほんと嬉しくて、凄く、嬉しくて……」
私が慌ててそういうとリースは優しく微笑んでくれた。その笑顔が本当に素敵で心臓が跳ねる。
けれど、私は正直複雑な気持ちで一杯で、推しとデート兼お祭りに行けることはそれはもうこれ以上ない幸福で、もう二度とないことかも知れない。でも、その推しの中身が元彼で、それも以前祭りに行かないかと誘われたとき、私が断ってしまったことがあったから。
だから、今更行きたいとか行っても良いのだろうかと。
リース……元彼の遥輝は案外そう言うのを気にしないタイプかも知れない。でも、私が気にしてしまうのだから意味がない。きっとまた無理とか我慢とかをさせてしまう。だったら、ここは断った方が良いかもしれない。そう思い始めているのだ。
ウィンドウには残り一週間の内に決めよう。と書かれており、六人の名前が上から順に並んでいた。名前の隣にはイエスとノーのボタン。選べるのは一人らしく、決めたら強制的にイベントが始まるみたいだ。
(慎重に……私の命がかかってるんだもん)
と、目を背けたい現状と思いから逃れるために自分に言い聞かせる。
ヒロインのストーリーでは、星流祭などなかった。だから、もしかしたらこのイベントの後にヒロインが来るかも知れないし、来ないかも知れない。何にしろ、これが大きなチャンスであることには間違いないし、選択を誤ってしまえば破滅および死亡エンドまっしぐらである。
「いいじゃない、エトワール様。皇太子殿下から誘われる事なんて滅多にないんだから」
そう口を開いたのはリュシオルだった。
彼女は、私の気持ちを察してくれているはずなのに、何故そんなことを言うのだろうかと不思議でならなかった。
曰く、皇太子とお祭りをまわれるなんて光栄なことだと。
確かに、そうなのだが。
そんなことを思いながら、私がリュシオルを見ていると彼女はコソッと耳打ちをした。
「ちょっとは朝霧君の気持ち考えてあげたら?」
「でも、だって……遥輝は」
私の口から出たのは言い訳の言葉だった。本当はもっとこうしたい、とか。ああしたい、とかあるのに上手く言葉に出来なくて、そうして俯いてしまう。
確かに元彼とは言え遥輝の気持ちを考えないこともない。遠慮とか、もっと色々彼に思うことは一杯ある。でも、元彼という私の中の彼の位置づけがある限り上手く動くことが出来ないのだ。
そう口ごもっていると、リュシオルは私の両肩を掴んで顔を上げさせた。
「言い訳しないの。フラれたのに、それでも尚思い続けてくれる朝霧君の事巡は何とも思わないの?」
と、リュシオルはエトワールではなく巡と私の名前を呼んだ。
何も思っていないわけがない。
そう私が返すとリュシオルは呆れてため息をつく。そんな私達のやりとりを見てか、ルーメンさんが殿下は。と口を開いた。
「殿下は、星流祭を聖女様とまわりたいが為にここまで頑張ってこられました。聖女様に会いたいと常日頃から口にし、それでも何とか抑え貴方様との時間を作るためだけに殿下は大量の執務をこなしました。それはもう、寝食を惜しんで」
ルーメンさんはそういうと、「ですよね、殿下」とリースを見た。リースは余計なことを。と呟いていたがまんざらでもない様子で、ルーメンさんを見てから首を横に振る。そうして、私の方を向くと、優しく微笑んだ。
その笑顔は、何処か弱々しく落胆の二文字が滲んでいるようで仕方がなかった。
諦め、と言った方が良いだろうか。
(……そんな顔、させたいわけじゃないのに。それに、一緒にまわりたくなっていう訳でもないのに……)
私はギュッと拳を握る。
それに、リュシオルとルーメンさんにそんなことを言われてしまうと断りづらくなってしまう。きっと、私が断れ無いようにと外堀を埋めたのだろう。
そうでもしないと、私が逃げると言うことをきっと二人は知っているから。
「リース様は……殿下は、私なんかとまわりたいんですか? せっかくの星流祭を、私なんかと」
「ああ、お前が良いんだ。エトワール……お前と一緒に回りたい。だから今まで頑張ることが出来たんだ。だから少しぐらい俺に褒美を与えるつもりで、一緒にまわってくれないか?」
と、リースは言う。その言葉が何処か命令のような脅迫のように聞え私は思わず身震いしてしまう。
優しさの中にある独占欲とでも言うのだろうか。
「っ……分かった。ああ、でも、あの、あまり期待しないでね。一応候補に入れておくってだけだから」
「他にまわる奴でもいるのか?」
「え、そういうわけじゃない……けど」
「だろうな、お前にいるわけがないよな……」
「酷くない!? 傷つくんですけど!」
グサリと、リースの言葉が刺さり思わず声を上げる。
そんな私達の様子にリュシオルは笑い、ルーメンさんは、まぁ。と苦笑いを浮かべていた。
確かに、私はまわる人とかまずそもそも誘えないだろうけど、でも言い方ってものがある気がする。と私はリースを睨み付けた。すると、ピコンと音を立ててリースの好感度が上昇する。数値は87とあと少しで90に手が届きそうな所まで来ていた。
(上がりすぎぃ! ストップ、ストップ!)
そう心の中で叫びつつ私はこれ以上上がってくれるなと念じる。
しかし、私の願いは届かず、リースが私の頭を撫でたと同時に更に上がる。88……
(あーもぉおおお! なんでこんなに好感度あがるの!?)
そう思いつつも私は頭を抱える。今更また、私は悪役聖女でラスボスで! 何て考えが頭の中を高速回転する。
だが、下がれと言って下がるわけでもないし、逆に下がったら下がったでなんとも言えない気持ちになるし、私の言動に問題があったのかと心を痛めるしで、現状維持を願う。
もし、本当にリースとまわることになればさらにこの数値は上がってしまうだろう。
報酬が15なだけで、祭りの最中に上がらないわけではないだろうし。
私はこのままここにいると、さらにリースの好感度が上がる気がして取りあえず聖女殿の中に戻ることにした。まだ疲れも完全に回復したわけではないし、早くお風呂に入って寝たいのだ。
「それじゃあ、殿下、また!」
と、私は逃げるようにリュシオルの手を引いてリースの横を通り抜けた。
その間もリースは私を見ながらにこりと微笑んでおり、その口元は完全にゆるゆるに緩んでいた。
◇◇◇
「楽しそうだな、遥輝」
「ああ、楽しみだ。巡と星流祭を回れるのかと思うと」
「遥輝もあのジンクスを信じているわけ? 相変わらずだなぁ」
そう、エトワールがこの場を去ったと同時にルーメンこと灯華は砕けた口調でリース……遥輝に喋りかけた。
リースの身体でありながらその笑みは遥輝のもので、遥輝は巡との久しぶりの会話にテンションが上がっているようで、灯華の言葉などあまり耳に入っていない様子だった。
「何だか、さっきのお前……滅茶苦茶久遠さんに似てて怖かったぞ」
「まあ、親戚だからな。それにしても楽しみだ」
「あ~こりゃ、聞いてないわ」
と、灯華はため息をつきながら親友の惚気話……妄想話を永遠と聞かされることになったのだった。