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うわあ……第86話、すごかったです。雪乃が自ら同じ罰を選んで、磔にされる場面の描写が生々しくて、背筋が冷たくなりました。でも、犬耳美少女の舌が触れるところから少しずつ快楽に変わっていく、あの曖昧な境界が本当に巧い。罰と贖罪が混ざり合って、もうどちらが正解か分からなくなる感覚、ゾクゾクしながら読み進めました。最後、姫神姫が追いついたときにはもう誰もいなくて、余韻がすごく残りますね。次が気になる……!
藤代雪乃は、同じ目に遭うことを選んだ。
シーツを脱ぎ捨て、何も着ていない姿のまま、礼拝堂の奥へ足を進める。石の冷たさが踵から膝へ、腿へと上がってくる。通路の先が開け、広大な本堂が現れた。高い天井。尖ったアーチ。そして、誰も触れていないはずのパイプオルガンが、勝手に低い和音を響かせていた。重く、どこか祝福めいた旋律。中央には、古い木製の十字架が立っている。
雪乃の身体が、意思に反して動いた。
足が十字架の足元へ向かい、腕が自ら横木へ伸びる。蔦ではない、見えない力が彼女を固定する。背中が木に密着し、手首と足首が動かなくなる。磔にされた。もう逃げられない。息が浅くなり、肩が小刻みに震える。自分が詩織に、結衣に、遥に課した形が、今、自分の身に返ってきていた。
足音がした。
四足の、軽い着地音。犬耳美少女が、本堂の闇から現れる。灰色のショートヘア。立った耳と揺れる尻尾。素肌のまま、雪乃の前まで近づく。熱い舌が、まず足首に触れた。ゆっくりと上がり、膝裏を舐め、太腿の歯形の周りを丁寧に嘗める。雪乃は歯を食いしばった。
「……噛まないで……お願い……」
犬耳美少女は、答えなかった。代わりに、腹を、胸を、鎖骨を、首筋を、頰を、丹念に舐め回す。くすぐったさと、甘い熱が混ざる。雪乃の腰が小さく震え、喉から吐息が漏れた。変な気持ちになってしまう。自分が飾った子たちが感じたであろう感覚が、今、自分の神経を走っている。犬耳美少女もまた、何も着ていない。白い肌同士が近づき、やがて雪乃は、固定されたまま抱きつかれる形になった。
いつしか、犬耳美少女の耳の形が、尻尾の揺れ方が、可愛く見えていた。
恐怖が、少しずつ別の感情に溶けていく。雪乃は目を閉じ、身体の力を抜いた。犬耳美少女の舌と体温に委ねると、意識の端が白くぼやける。気持ちよくなり、恍惚とした表情が、十字架の上の顔に浮かんだ。罰が、快楽に変わりつつある。それが赦しなのか、さらなる罰なのか、もう判断できなかった。
——そのとき、別の足音がした。
トレンチコートを着た銀髪の美少女が、本堂の入口から歩いてくる。長い銀髪がうねり、コートの裾が石床をかすめる。杖を一本、右手に持っていた。雪乃はうっすらと目を開け、その姿を捉える。以前、学院の近くで美少女探偵に全裸を見せつけた、あのプロフェッサーMに似た雰囲気があった。あるいは、同一人物なのかもしれない。
「罰を受け、それを贖い、罪は許されましたか?」
静かな声。雪乃は、よく分からなかった。頷くことしかできなかった。首を縦に振ると、銀髪の美少女は短く息を吐いた。
「よろしい。なら頭を垂れて、忠誠を誓いなさい」
杖が天空へ掲げられる。次の瞬間、雪乃の脳内に、六枚の翼を持ち金色の光に包まれた謎の美少女の姿が、鮮やかに浮かび上がった。憂いを秘めた瞳。薄い金髪。透けるワンピース。あの塔の部屋で、罰を宣告した存在。雪乃は十字架の上で、できる限り頭を下げた。
「……お許しください」
心の中で、忠誠を誓う。言葉にならないまま、意志だけを差し出す。金色の光が視界の端で瞬き、すぐに消えた。
ヒラリ、という音。
白いタキシード姿の美少女が、天井近くから舞い降りてきた。マントが広がり、着地の衝撃はほとんどない。 compatibility の取れた微笑みを浮かべ、十字架に近づく。
「では、参りましょう、子猫ちゃん……」
固定が解ける。雪乃の身体が前方へ倒れかけたところを、白タキシードの美少女が軽々と抱き上げた。お姫様抱っこ。前に空を飛んだときと同じ姿勢。次の瞬間、二人が石床を離れ、本堂の高い空間を抜け、光の筋の中へ消えていく。トレンチコートの銀髪美少女も、いつの間にかいなくなっていた。パイプオルガンの音が止まり、礼拝堂は急速に静まり返る。
誰も、いなくなった。
——その少しあと。
美少女探偵・姫神姫が、息を切らせて礼拝堂の入口にたどり着いた。雪乃の助けを求める思念のようなものを追い、ようやくここまで来た。中に踏み込むと、広大な空間はもぬけの殻だった。中央の十字架だけが、空のまま立っている。近くに寄ると、甘い香りが薄く漂っていた。薔薇のものとも、別の肌の体温のものともつかない、混合した残り香。雪乃と、犬耳美少女の気配だけが、石と木に染みついて残っている。
「……誰も、いませんでごぜぇやす」
姫は十字架の足元に立ち、空を見上げた。答えは出ない。事件の糸は、また一つ、別の場所へ移ったようだった。
続く。
恵
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