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#ワンナイトラブ
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繋がれた指先から伝わってくる、ドクドクという激しい鼓動。
それが自分のものなのか、それとも先輩のものなのかさえ判別がつかない。
先輩は数枚、私たちの繋いだ手の写真を撮ると、スッと手を離した。
(……ああ、終わっちゃった)
温もりが消えた指先が急に冷たく感じて、私は膝の上でそっと手を握りしめた。
「よし、これで証拠写真は完璧。田中さん、協力ありがとう。お腹空いたでしょ? 何か食べようか」
「そ、そうですね!」
先輩はいつもの爽やかな笑顔に戻って、メニューを広げる。
その切り替えの早さに、私だけが取り残されているような、少し寂しい気持ちになる。
ランチに運ばれてきたパスタを頬張りながら、会話は自然とプライベートな話題に移っていった。
「そういえば、高橋先輩って……どうして美佐子さんに目をつけられちゃったんですか?」
「ああ…去年の忘年会のときに、少し相談に乗ったのがきっかけかな。とても困ってるみたいだったから放っておけなくて……俺、昔から困ってる人を放っておけない性格で…悪く言えば、お節介なのかな」
苦笑いする先輩を見て、胸がキュッとなる。
その優しさに、私は救われた。
でも、その優しさは私だけのものではないのだと思い知らされる。
「田中さんは?この間『好きな人はいない』って言ってたけど、どういう人がタイプとかはあるの?」
不意に飛んできた質問に、パスタを飲み込みそうになった。
(タイプは、優しくて、頼りがいがあって、ちょっと強引にタクシーに乗せてくれるような……目の前にいる人です)
なんて、口が裂けても言えるはずがない。
「えっと……私は、その…一緒にいて、安心できる人が良くて…優しい人がいいです」
「へぇ……田中さんらしいね」
先輩は楽しそうに笑いながら、私の顔をじっと見つめた。
その瞳の奥に、いつもとは違う
何かを探るような光が見えた気がして、私は慌ててコップの水を飲んだ。
「あ、そうだ。月曜日、美佐子さんに写真見せる時だけど……あんまり緊張しなくていいからね。俺が上手くリードするから」
「はい……頑張ります!」
「はは、ありがとう」
そう言って先輩は、私の口元についていたソースを、指先でふいっと拭った。
「へっ……」
「あ、ごめん。つい……自分で取れるのに、お節介だったね」
「い、いえ!」
先輩の指先が触れた唇が、火を噴いたように熱くなる。
『お節介だったね』。
その言葉は、私にとっては最高の魔法のように聞こえるけど、先輩にとってそれはただの「性格」なんだ。
演技なんだ、これは、全部。
そう自分に言い聞かせれば言い聞かせるほど
私の恋心は、もう引き返せないところまで加速していた。