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しらすのお部屋
地面に倒れた永夢は、苦しそうに体を震わせていた。
「……っ……あ……!」
全身に走る激痛。
体の奥で何かが暴れているような感覚。
呼吸が乱れ、指先が震える。
「エム!」
レーザーが叫ぶ。
「エグゼイド!」
スナイプも敵を警戒しながら声を上げる。
その様子を見たブレイブは、すぐに決断する。
光が消え、ブレイブの装甲が解けていく。
現れたのは、生身の飛彩の姿だった。
飛彩はすぐに永夢のそばへ膝をつく。
「おい、小児科医!」
意識を確認する。
脈を取る。
呼吸の状態を見る。
しかし――
飛彩の表情がわずかに変わった。
「……おかしい」
服をめくり、刺された箇所を確認する。
だが、目立った傷はない。
それでも永夢は苦しみ続けている。
「何をされた……?」
その時。
広場の中央に立つ白い異形が、ゆっくりと口を開いた。
不気味な声が響く。
「俺の名前は――レウコイド」
ゴツゴツした体がわずかに揺れる。
「さっきのやつには、針を埋め込んだ」
触手の先端が、ゆっくりと持ち上がる。
「体の中で暴れ続ける毒針だ」
低く笑う。
「死ぬまで苦しむがいい」
「……!」
飛彩の目が鋭くなる。
「針だと……?」
すぐに永夢の刺された箇所をもう一度確認する。
皮膚の奥。
何か硬い異物がある。
「体内に残っている……!」
飛彩はすぐに判断する。
「異物による神経刺激……それでこの痛みか」
永夢は苦しそうに息を吐く。
呼吸は荒く、額には大量の汗。
体の奥から痛みが込み上げているようだった。
飛彩は静かだが強い声で言う。
「そのまま動くな、小児科医」
そして敵を睨みつける。
飛彩の表情が険しくなる。
「このままでは危険だ……」
レーザーが振り向く。
「大先生、どうなんだ!?」
飛彩は短く答えた。
「体内に針状の異物が残っている」
スナイプが敵を睨みながら低く言う。
「……つまり抜かなきゃ終わらねえってことか」
飛彩は静かに頷く。
そして飛彩は決断する。
「……この場で摘出する」
レーザーが思わず振り向く。
「はぁ!?ここでか!?」
「時間がない」
飛彩は迷いなく医療キットを取り出した。
「放置すれば神経をさらに刺激する」
永夢の呼吸が荒くなる。
「……っ……飛彩……さん……」
「喋るな」
飛彩は落ち着いた声で言う。
ガーゼに消毒液を染み込ませる。
患部を丁寧に拭き取る。
「少し我慢しろ……」
飛彩はメスを手に取り、永夢の腰の患部を見下ろしていた。
呼吸を一つ整える。
周囲ではまだ戦闘音が響いている。
スナイプとレーザーがレウコイドの触手を必死に食い止めている。
だが飛彩の視線は、一切揺れない。
目の前の患者だけを見ていた。
地面に横たわる永夢は、荒い呼吸を繰り返している。
「……はぁ……っ……はぁ……」
額には汗が滲み、顔色も悪い。
体の奥で何かが暴れているような感覚。
「……っ……く……」
歯を食いしばるが、震えは止まらない。
飛彩は短く言った。
「……切開する」
永夢は荒い呼吸のまま、ぼんやりと飛彩の声を聞いていた。
言葉の意味をはっきり理解している様子はない。
焦点の定まらない目で、わずかに顔を動かすだけだった。
次の瞬間。
刃が、ゆっくりと皮膚に触れた。
そして――
静かな音とともに、皮膚が切り裂かれる。
「い゛っ……!!」
永夢の体が大きく跳ねた。
背中が反り、思わず声が漏れる。
鋭い痛みが体を突き抜けた。
「……あ゛っ……!」
今になって、何をされたのか理解したかのように体が震える。
手が地面を掴む。
指先に力が入る。
呼吸が一気に荒くなる。
「……はっ……はぁ……っ……!」
額から汗が流れ落ちる。
「……い……っ……」
痛みに耐える声が喉の奥から漏れた。
飛彩は一瞬も手を止めない。
「動くな」
低く、冷静な声。
「すぐに終わらせる」
血がゆっくりと滲み出る。
飛彩はメスを動かし、傷口をわずかに広げた。
永夢の体がびくりと震える。
「……い゛っ……!」
痛みに耐えるように目を固く閉じる。
呼吸が乱れる。
その声を聞きながらも、飛彩の手は正確に動く。
メスを置き、ピンセットを取る。
そしてゆっくりと傷口の中へ差し入れた。
血の奥を探る。
飛彩の視線が鋭くなる。
「……見えた」
皮膚の奥。
金属のような針。
深く食い込んでいる。
永夢の体が再び震えた。
「……ぐっ……!!」
呼吸が途切れ途切れになる。
「……はぁ……っ……はぁ……」
痛みで体が小刻みに震えている。
飛彩は静かに言った。
「我慢しろ」
「……もう少しだ」
ピンセットで慎重に針をつかむ。
だが、奥に食い込んでいる。
永夢の体がまた大きく震えた。
「……あ゛っ……!!」
苦しそうな声が漏れる。
呼吸は完全に乱れていた。
「……はっ……はぁ……っ……!」
指先が地面を強く掴む。
飛彩は一瞬も迷わない。
そして――
「……いくぞ」
次の瞬間。
ピンセットを引いた。
血の付いた長い針が、ゆっくりと引き抜かれる。
その瞬間。
永夢の体が大きく震えた。
「――あ゛あああああっ!!」
永夢の絶叫が戦場に響く。
その直後、声は低い唸りへと変わる。
「……っ、ぅ……あ……」
喉の奥から漏れるような声。
飛彩はすぐに傷口を押さえた。
「摘出完了だ」
「止血する」
ガーゼを強く当てる。
永夢の肩が細かく震え、呼吸が大きく乱れる。
「はっ……は、っ……」
浅く速い息が何度も続き、胸が上下する。
やがて――
力が抜ける。
「……はぁ……っ……」
荒かった呼吸が、少しずつ落ち着いていく。
そして、ピンセットに挟まれた長い針を見つめた。
血に濡れた針。
飛彩の目が鋭くなる。
ゆっくり顔を上げ、敵を睨みつける。
そして低く呟いた。
「……これがお前の仕業か」
「レウコイド」
遠くで、白い怪物が不気味に笑った――。
「クク……」
低く、湿った笑い声が公園に響く。
スナイプが銃口を向ける。
「何がおかしい……」
レーザーも敵を睨む。
「エムをあんな目に合わせといて、笑ってんじゃねえぞ」
白い体躯を揺らしながら、レウコイドはゆっくりと口を開いた。
「……針を抜いたか」
その声には、どこか愉悦が混じっている。
「さすがだ」
飛彩は立ち上がり、鋭い視線を向ける。
「何をした」
レウコイドは答えない。
ただ、ゴツゴツした顔のような部分が歪む。
「ククク……」
笑い声が、さらに大きくなる。
「まあいい」
ゆっくりと腕を広げる。
触手が空中でうねり、次の瞬間――
体が白い粒子のように崩れ始めた。
「なっ……!」
レーザーが声を上げる。
スナイプがすぐに銃を撃つ。
しかし弾丸は空を切る。
レウコイドの体は霧のようにほどけ、空気の中へ溶けていく。
消えゆくその姿が、最後に言葉を残した。
「楽しませてもらっぞ…」
不気味な笑い声だけが残る。
「ククク……」
そして――
レウコイドの姿は完全に消えた。
公園には静けさが戻る。
触手で荒らされた地面だけが、さっきまでの戦闘を物語っている。
スナイプが銃を下ろす。
「……逃げやがったか」
レーザーも周囲を見回す。
「ま、あの感じだとまた出てきそうだけどな」
飛彩は永夢の傷口を押さえたまま、慎重に様子を確認する。
永夢はゆっくりと目を開けた。
「……飛彩さん……」
飛彩は静かに言う。
「針は摘出した。もう大丈夫だ」
永夢は少し安心したように息を吐いた。
レーザーが歩み寄る。
「エム、大丈夫か?」
スナイプも腕を組んで見下ろす。
「無茶しやがって」
永夢は苦笑する。
「子どもがいたんで……放っておけなくて」
レーザーが肩をすくめる。
「相変わらずだな、お前」
永夢は苦笑する。
「でも……もう大丈夫です」
その言葉に、大我が鼻で笑った。
「その状態で言うセリフかよ」
貴利矢も肩をすくめる。
「エム、顔真っ青だぜ?」
永夢が起き上がろうとすると、体がふらついた。
「……っ」
すぐに飛彩が腕を掴む。
「あまり動くな」
「今日は休め」
貴利矢が永夢の反対側に回る。
「ほら、大先生。運んでやろうぜ」
大我も背を向けながら言う。
「さっさと帰って寝ろ」
「無理してまた倒れられても面倒だ」
飛彩と貴利矢は永夢の両肩に腕を回させる。
三人でゆっくりと歩き出す。
夜の公園を抜けながら、貴利矢がふっと笑う。
「しかしさー、大先生」
「エムの家ってどこ?」
飛彩は少しだけ呆れたように答えた。
「……それを今聞くのか」
永夢が弱々しく言う。
「こっちです……」
三人の背中を見送りながら、大我は空を見上げた。
「……レウコイド、か」
小さく舌打ちする。
「面倒なやつが出てきやがったな」
夜の街に、四人の影がゆっくりと消えていった――。