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しらすのお部屋
静かな住宅街。
日が落ち、 街灯の光が、ゆっくりと伸びる三人の影を照らしていた。
飛彩と貴利矢に肩を支えられながら、永夢はなんとか歩いている。
「……すみません」
永夢が小さく言う。
「迷惑かけて……」
「気にすんな」
貴利矢が軽く笑う。
「エムはいつも無茶するんだからさ」
永夢は少しだけ苦笑する。
「でも、針は抜けましたし……」
「問題ないです」
その言葉に飛彩の視線が鋭くなる。
「問題があるから自力で歩けないんだろう」
「今日は休め」
やがて、永夢が足を止めた。
「……ここです」
小さなアパート。
二階の部屋の灯りは消えたままだ。
貴利矢が見上げる。
「お、ここか」
「ちゃんと一人暮らししてんだなぁ」
飛彩は無言で永夢を玄関まで連れていく。
鍵を取り出そうとした永夢の手が、少し震えた。
それを見て、飛彩が代わりに鍵を取る。
「貸せ」
カチャ、と扉が開く。
三人はゆっくりと中へ入った。
部屋は質素だった。
医療関係の本が何冊か机に置かれている。
飛彩は永夢をベッドへ座らせる。
「横になれ」
「傷口が開く」
永夢は素直にベッドへ横になった。
「……ありがとうございます」
貴利矢は部屋を見回しながら、軽く笑う。
「エムの部屋って感じだな」
「ゲームとか置いてないの?」
永夢が少しだけ笑う。
「ありますよ……」
「押し入れに」
「やっぱりあるんじゃん」
貴利矢が笑うと、飛彩が傷口のガーゼを確認する。
血はもうほとんど滲んでいない。
「……出血は止まっている」
飛彩は小さく息を吐いた。
「今日は安静にしていろ」
永夢は目を閉じながら頷く。
「はい……」
しばらく沈黙が流れる。
貴利矢がふと口を開いた。
「でもさ」
「レウコイド、か」
「面倒そうなやつだったな」
飛彩も静かに言う。
「……まだ終わっていない」
その時、永夢が目を開けた。
「また……出てきますよね」
「きっと」
飛彩は少しだけ視線を落とす。
「その時は倒す」
短く、それだけ言った。
貴利矢がドアの方へ歩く。
「ま、とりあえず今日は休めよエム」
永夢は少し笑った。
「はい……」
二人が部屋を出る。
扉が静かに閉まる。
部屋の中は、再び静かになった。
永夢は天井を見つめる。
「……大丈夫だよな」
小さく呟く。
そのまま目を閉じ、ゆっくりと眠りに落ちていった――。
数日後。
聖都大学附属病院、小児科外来。
診察室の中には、子どもの笑い声が響いていた。
「はい、よくできました」
永夢が聴診器を外し、優しく笑う。
「もう大丈夫ですよ」
診察を終えた子どもは母親と一緒に嬉しそうに部屋を出ていった。
「ありがとうございました!」
「お大事にしてくださいね」
ドアが閉まり、診察室に静けさが戻る。
永夢はカルテを書きながら小さく息を吐いた。
「ふぅ……」
その時、ノックの音がする。
「失礼する」
入ってきたのは飛彩だった。
白衣のまま、腕を組んでいる。
永夢は顔を上げる。
「あ、飛彩さん」
飛彩はまっすぐ永夢を見る。
「調子はどうだ」
永夢は少し笑う。
「もう大丈夫ですよ」
「傷もほとんど痛くないですし」
飛彩は数秒黙って永夢を観察する。
そして短く言った。
「……そうか」
その時、診察室のドアが勢いよく開いた。
「エムー!」
明るい声と共に貴利矢が顔を出す。
「元気してるか?」
永夢は苦笑した。
「貴利矢さん……ここ病院ですよ」
「診察中なんですけど」
「大丈夫大丈夫」
貴利矢は気にしていない様子で椅子に腰掛ける。
「ちゃんと空いてるタイミング見て来たからさ」
永夢は少し呆れながら笑う。
「もう本当に大丈夫ですって」
その時。
永夢の視界が、ほんの一瞬だけ揺れた。
「……?」
軽い立ちくらみのような感覚。
しかしすぐに収まる。
永夢は首を振った。
「どうした」
飛彩が鋭く聞く。
「いえ……なんでもないです」
永夢は笑って答える。
「ちょっと疲れてるだけです」
飛彩は少しだけ永夢を見つめる。
だが、それ以上は何も言わなかった。
貴利矢が立ち上がる。
「ま、元気そうで安心したわ」
「無茶すんなよ、エム」
「はい」
永夢は笑って頷いた。
三人の会話は、いつもの日常の空気に戻っていた。
――しかし。
既に何かが変わり始めていた。
ー花家ゲーム病クリニック。
薄暗い室内。
モニターの光だけが机の上を照らしている。
大我は椅子に座り、画面を睨んでいた。
そこには戦闘データが映し出されている。
白くゴツゴツした体躯。
レウコイド。
大我は低く呟く。
「……レウコイド」
画面を拡大する。
触手の先端。
そして、永夢に突き刺さった針の映像。
「針を埋め込む、か」
大我は腕を組む。
「普通のバグスターじゃねえな」
データをスクロールする。
だが、有力な情報は見つからない。
「チッ……」
小さく舌打ちする。
その時、背後から声がした。
「何か分かった?」
振り向くと、ニコが立っている。
大我は視線をモニターへ戻した。
「まだだ」
「だが……」
レウコイドの画像を睨む。
「嫌な感じがする」
ニコが不思議そうに聞く。
「嫌な感じ?」
大我は静かに言った。
「アイツの狙いは、戦いじゃねえ」
モニターに映る白い怪物。
「あれからレウコイドは姿も見せねえ」
「……何か裏があるはずだ」
ニコは腕を組んで首をかしげる。
「裏って?」
大我は少しだけ目を細める。
「……分からない」
短く答えた。
「だが、あいつは何か仕掛けてる」
モニターの中で、レウコイドの触手がゆっくり動く映像が流れる。
大我はそれを睨みながら、低く呟いた。
「気づいた時には手遅れ――」
「そういうタイプの敵かもしれねえな」
ニコは少し不安そうにモニターを見る。
「……エム、大丈夫なの?」
大我は一瞬だけ黙る。
そして視線を画面から外さずに言った。
「今はな」
小さく付け加える。
「……だが、油断はできねえ」