テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
21
〈佐伯イッテツ〉そいつの第一印象といえば、人見知りというしかないだろう。
よく晴れた月曜日。公園で遊ぶガキンチョだったり、杖をつくご老人のことを見守り、支えるいつも道理のパトロール。
しかし、今日はパトロールを早めに切り上げ、ヒーロー本部へと向かっていた。
足取りは軽く、何となくキリンちゃんもウキウキしている。
それもそのはず、前々から伝えられていたOriensの結成日が、今日だからであった。
ヒーロー本部のゲートをくぐり、窓口の方から会議室へ案内される。手をかざせばピピッと音をたてて開く扉も、東ではよく見る光景である。
「あれ、俺遅かった?」
部屋にはいれば、お茶菓子に手を伸ばしたり爪の様子を観察したりしている二人がいた。
「いーや?リトは今日パトロールやったんやろ?丁度俺らは非番だったから、早かっただけやで」
時間はピッタリ、お疲れ様と明るく話しかけてきたのは緋八マナ。
「僕はさっき着いたとこだけどねー」
台がアツくなってきてさあ、とケロリと溢したのは赤城ウェン。
二人ともよく話し、よく遊ぶ同期のヒーローだった。Oriensとして配属されると告げられた帰りには一緒に飲みに行ったりもした。まあ、俺は飲めないんだけれども。
ここ座りや、と声をかけられてキリンちゃんをハンカチをしいた机に座らせてから俺も席につく。パイプ椅子がギシリと音をたてて少し沈んだ。
「んで、これが新人さんであり、最後のメンバーの資料ね 」
ウェンからヒラヒラと渡された資料を受け取り目を通す。俺んときよりも紙が少ない気がすると何となく思った。
「ふーん、これさえき?さいき?」
「サイキやって、ほれここ」
書いてある、なんて指を指しながら同じ紙を覗きこむ二人を見る。前よりも仲が良くなってる気がして、ああ、こないだ一緒に遊んだとか言ってたっけな、なんて一人考えた。
ヒーローも中々多忙で、日々のパトロールに加え、危険区域の調査、小・中学校への注意喚起もといヒーローショーなんてものまで結構上にいいように使われているのが常だった。
もちろん、COZAKA-Cとの戦闘もあるが、最近は落ち着いている。あいつらも気分なんかのあるのかなーなんてウェンが呟いていたのも1ヶ月前のことである。
と、少し話がそれたが、そのおかげでヒーローたちも休みに出動要請がくることもなく、その休みを謳歌しているわけだった。
……俺以外は!!!
何だか知らねえが、最近は本部に繰り出されることが多かった。キリンちゃんを研究所といわれるところに連れていかれるのを拳繰り出してでも着いていって、そっからは検査検査検査検査!
休みも体力も知ったこっちゃねえという具合で、散々な目にあったところである。
「……はーーー」
「ほらリト、新人さんくるんやからそないな顔してると怖がられんで」
「リトセクこわー」
思わずでたため息を指摘され、机に落ちていた顔をあげる。キリンちゃんは、心配しながらもわかりますよ、という顔で見てきたので可愛さに拳を握りしめた。
佐伯くんって別嬪さんやね、だねー21歳だって!僕と同じだ!
おおよそ成人男性とは思えないテンションで話す二人を横目に見ていると、扉の向こうから近付いてくる足音がした。
「お!おでましかー?」
「みたいだな」
近付いてくる足音、それと声。
中々声がでかいなと思っていると、どうやら扉の前で立ち止まったらしかった。
『では佐伯さん、こちらに手をかざしてください。』
『あ、はい。……マジで入るんですか?』
『でないと困ります。もう全員集まっていますよ。』
『っすよね、ぇえ~…』
『佐伯さん』
『ハイ!今すぐに!』
扉越しにそんな会話が聞こえたかと思えば、ピピッと音がして、黒い影が覗いた。
「佐伯イッテツです!ヒーロー見習いになりました!これからよろしくお願いします!!!」
そう言い頭を下げるそいつのデカイ声に自然と背が伸び、次に勢いよく起き上がったその顔と目が合う。
どこまでも暗い、藤色の虹彩をしていた。キリ、とツリ目ぎみの目が細められ、長い睫毛が影を落とす。濡れ羽色の髪はふわりと揺れ、口もとからはチラリと八重歯が見えた。
ビスクドールのように白い肌に整った顔。ゾッとするほど美形の男はそれから何回か瞬きをすると、無言が流れる空間に目をやった。
訂正しよう。激しく目を泳がせた。
その瞬間、先程まで思っていたことが阿保らしく思えるほどに顔を青くして情けなく慌て出す。なるほど、分かりやすく人見知りだ。つられて少し笑った。
「ごめんごめん、声デケェのなお前」
「俺は宇佐美リト、これからよろしく で、こっちがキリンちゃん」
「キリンちゃん?」
はいはい!キリンですよ!と小さな手をあげる。いくらか空気が和らいだようで、佐伯くんも肩の力を抜いた。
「いやー、偉い別嬪さんやなーと思って黙ってもうたわ!俺は緋八マナいいます!これからよろしゅうな!」
「ねービックリしちゃった。あ、僕は赤城ウェン。これからよろしくねテツ」
続いて二人も自己紹介をする。急にテツなんてあだ名で呼び始めたウェンに距離の詰め方えぐぅ、とマナがツッこんだ。
「えー仲良くなる一歩でしょ!お互いのことなんも知らないしさ!」
ね、テツって呼んでもいい?と遅れた許可を取るウェンに佐伯くんが慌てながらも頷いて返す。
仲良くなる一歩という言葉に、子供みたいだなと口元が緩み、それに乗っかった。
「んじゃ、俺もテツって呼ぶわ」
「ほんなら俺もー!敬語はなしで!仲良くしようや」
そんな俺らにテツがパチクリと瞬きをする。そして口を開いて、閉じた。
一瞬の沈黙が落ちる。
「うん、よろしくね」
ニコリと綺麗に笑って返すテツに、まだ緊張してるから、初対面だし人見知りっぽいしそんなもんだよなと思って、おうと返した。
きっと、このときからテツの中で俺たちとは明確な線を引いたのだろうということには、何も気がつかなかった。
半強制的にヒーローになると言わされたあの日から数ヶ月。
宇佐美リト、赤城ウェン、緋八マナという人物とOriensというチームとしてこれから活動していくということを告げられた。
目を通しておいてください、と先に渡された束の資料を手に取る。その人たちは右上に貼り付けられてある写真からもイケメン揃いで、とりあえず作画の違いに苦しみそうだなと思ったのが最初の感想だった。
次に、職業や備考欄に目をやる。
ウェンという人は同い年(+∞は考えないものとする)の大学生、マナさんはコメディアンでリトさんはジムトレーナーをやっているらしい。
文字から伝わってくる眩しさに思わず仰け反った。
その拍子に、パサ…と自分の資料を落としてしまう。座ったまま手を伸ばして、それを拾った。
左手にある彼らの紙の束と、拾った自分の一枚を見比べる。
産まれた年やヒーローになった年がそこには書かれていた。 ウェンくんはスカウトらしいので、担当者の名前と共にそれを。
「……いいな」
ポツリと溢れた言葉に慌てて手を口にやった。いけないいけない、首のチョーカーに盗聴機でも仕掛けられているかもしれないのだから、今の言葉は失敗だった。
偉い人の気を損ねればいつ爆発してもおかしくないのだから、言動には気を付けないといかん、気を引き締めろ!佐伯イッテツ!また死にたかないだろう!
パン、と頬を叩けば猫がなぁうと鳴いた。残機猫と名をつけたそいつらを適当にあしらって、再び紙に目をおとす。
……さっきの失敗は仕方ないと、心のなかで言い訳する。
だって、仕方ないじゃないか。羨ましかったんだから。
俺は産まれた年も、ヒーロー見習いになった日も、全てご丁寧に変えられているのだから。文字を目で追えば、その西暦から産まれ年+21を脳が勝手に引き算しようとするからよろしくない。何年間、年を取らずモルモットだったかなんて知りたかないのだこっちは。
しかし、いつまでも過去のことを引きずってちゃ仕方がない。そもそも彼らには俺の事情とはこれっぽっちも関係ないのだ。
勝手に羨んで、勝手にメソメソするのも完全なるお門違い。俺が憎むべきはヒーロー協会であって、彼らではない。
その文言を頭に刻み込むように何度も復唱する。ヒーローはかっこいいのだ、COZAKA-Cから、俺を救ってくれたのはヒーローだ。ヒーローは、だって、ヒーローは
荒くなった息を整えるよう、いつの間にか床に座り込んでいた足を動かし、ベランダにでて一服する。深く息をすって、煙を吐き出す。それを何度か繰り返せば手の震えはなくなった。
あぁ、これはあまりにも良くない。ヒーローと関わるのは、精神衛生上あまりにもよろしくない。
「最初、何話そうかな…… 」
スマホのスケジュールに書き足されたOriens顔合わせの文字にうんざりとしてため息をつく。
ヒーロー、チーム。
どれも、頷いてしまった自分の失態の結果だが、この気持ちは何かにぶつけないと晴れないようだった。
ヒーローは好きだ。絶対的な正義をもつ、ヒーローは。しかし、ヒーロー協会のあの目は大嫌いである。誰が自分をぶっ殺してきた相手を好きになるだろうか。いくら少しマゾの気が俺にあるとはいえ、もう二度とごめんである。
目を閉じて、考える。
ヒーローとは、彼らとは少し距離を置こう。元々人と話すのは苦手だが、ヒーローとなれば普通に発狂しそうだ。
それに、何もかもヒーロー協会の言いなりというのは、実に腹立たしい。
ヒーロー協会の思惑なんて分かりきっている。ヒーローと過ごし、ヒーローとして市民を守ることで俺をヒーローにしたいのだ。
元モルモットから、ヒーローに。
ヒーロー脳に入れ換えて、世界と自分で世界を取れるような人間にしたいのだろう。
ごめんである。ああごめんだね!
俺は言いなりにはならない。手のひらの上で素直に踊る鼠じゃない。あいつらの実験材料でもなければモノでもない!
「俺は、人間だ。 」
冷たい風が、頬を刺した。
佐伯イッテツ
ヒーローになれだって?ア、スンマセンナリマス
チームに入れ???ア、ヤリマスヤリマス
言われたことに噛みつこうとしては天秤のもう片方に乗った自分の命を見て大人しくなるやつ。時間が経つにつれ、ヒーロー協会とヒーローに対して気持ちがめちゃくちゃになっていった。
自分の命大事!
Oriensの皆さん
テツって呼ぶね!仲良くしよう!ってなってる。これから距離を置かれるが、彼らは何も悪くない。
ヒーロー協会
ヒーローなってよ、チーム組んでよ、いい?OKこれからよろしくねって感じ。
時間が経っても何も問題起きてないから、まあもう平気かなって思ってる。
佐伯には正義のヒーローになってほしい。