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sideアンダーソン
「何故です!?援軍でしょう?!」
この男は皇国軍の総司令官。
私を二度も助けてくれたセイ達を侮辱した男だ。
「我ら援軍はセイ達に指揮権を与える」
「は…?元帥であられるアンダーソン殿下が、一冒険者の下に付くと?」
「下ではない。我ら王国軍とセイ達は友軍。
同じ立場だが、指揮を任せると言ったまでだ。
我らと同じくナターリア王国軍もセイ達に助けられている。それを聞いているはずだ!
何故セイ達を蔑ろにした!」
「た、ただの冒険者でしたので…」
結果を出した者の言葉を聞けんとは、司令官失格だな。
「皇国はその冒険者に助けられているのだ。其方も国元に帰れば処罰は免れんぞ?」
こういう立場を笠にきた奴は、自分の立場や権力を失うことを死ぬほど嫌うものだ。
「それは…で、ではどうすればお力をお借りできるのでしょう?!」
「セイ達に謝罪し、これからは従うと伝えるのだ」
この時の総司令官の顔は面白かった。
兄上に見せてあげたいと思うくらいには。
side聖
「済まなかった…」
いや、おっさんに謝られてもなぁ……
謝罪には誠意が必要だよ!美女が!
「では、指示を出しますね」
「おおっ…では、王国の援軍も…」
何だか感極まっているが、そんなに戦況はヤバかったっけ?
まぁ良い。これで指揮権は俺達…聖奈さんのモノだ。
「とにかく守れ。以上。
後は私達がどうにかするから、余計な事はしないでね」
「は?」
おっさん…総司令官さんは鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしているが、その隣から追い打ちが掛かる。
「わかった。我が王国軍も守りに徹しさせよう」
まさか王国軍がそんな指揮を鵜呑みにするとは夢にも思っておらず、おっさんは開いた口が塞がらなくなっていた。
「お願いします」
聖奈さんが王子殿下に頭を下げて、今回の戦争の最終局面を迎えた。
いやまぁ、戦後処理もあるから終わりはしないんだけどね……
「よーし!行ってみよう!」
車に乗り込んだ聖奈さんが声を上げた。
ピクニックちゃうんやぞっ!!
「見えますか?」
「大丈夫だ。こっちで暮らすうちに目も良くなってきたしな」
不思議だ。
確かに地球でも目が悪くはなかったけど、こっちで生活しだしてから、視力が明らかに良くなってきていた。
多分3.0くらいあるぞ。
『テレポート』
地球では使い道のない視力ではあるが、こっちでは大活躍だ。
こちら側からみて帝国軍の裏を視界に捉えた俺は、そこへ向けて転移した。
帝国軍50万の後ろへと、車ごと転移した俺達は蹂躙を始める。
『フレアボム』『フレアボム』
俺とエリーの魔法の発動を確認して、ライルがRPGを撃った。
ドゴーーーーンッドゥンッドンッ
『ぐぁあー!?』『何だっ!?』『足がァァ!?』『しっかりしろっ!!』
着弾を確認すると、俺は車へと乗り込んだ。
「行くぞ」
声と共に車をゆっくりと走らせる。
『融合爆裂』こそ使わなかったが、色々な魔法、持っている殆どの銃弾を撃ち尽くし、戦いは終わった。
この戦いの帝国軍兵士の主な死因は、圧死だったそうだ。
前方にはいくら練度が低いと言えど、完全に守りに入った40万の敵兵。
後ろは人が多すぎて確認出来ないが、何故か前方へと殺到してくる味方。
もちろん何故かは、俺達が未知の攻撃方法で後方から帝国兵に悲惨な死を与えている為、パニックになっていたからだ。
前方は防御特化した槍衾が構築されていて中々前には進めず、後方は逃げ惑う兵士が我先にと前方を目指した。
帝国軍の中央部にかかる圧力は凄まじいものだったのだろう。
戦後戦中逃げようとしていた軍の指揮官級と思われる人達は、聖奈さんが悉く狙撃していた。
最後まで逃げなかった指揮官級を捕虜として、戦いは終わりを迎えた。
「帰してよかったのか?」
アンダーソン殿下の質問に聖奈さんが答える。
「指揮官と言っても、負け戦で最後まで逃げなかったのです。
つまり皇帝に忠誠を誓っているか、指示待ち人間のどちらかでしょう。
あの皇帝、皇族が慕われているとは思えないので、恐らく後者でしょう。
戦後処理の為に、残った帝国軍を纏めてもらいます」
使えるものは何でも使う派だからな!
エコだよエコ!SDGsバンザイ!
「ナターリア国王の親書に書かれていたことは事実か?」
「はい。その為に三ヶ国での話し合いの場を設けます」
うん。これは聖奈さんのしたい事…いや、ご褒美の為の話だな。
戦争は大切なものを守る為だから逃げなかったけど、ここからは逃げたい……
「わかった。皇国の皇帝に手紙を書こう。
それと私は一部の兵と共に国に帰り、陛下へと報告をしなくてはならない。
後は任せるが良いか?」
「はい。お任せ下さい。それと先ほどの件をよろしくお伝えください」
「わかっておる」
総司令官のおっさんは話について行けていないので、ボーッと二人を眺めているだけだが…安心しろ!
俺もだっ!
この後、王子から手紙を預かり俺達は皇都を目指した。
もちろん車でだ!歩いてなんて無理無理。
野営の合間に水都に報告に行ったりもしていたし、夜は通常業務もしていた。
リゴルドー、王都、水都の知り合いには情報を提供して、敗残兵が野盗となって出る可能性などの注意喚起も行った。
まぁリゴルドーは立地上、帝国兵が来ることはないと思うけど。
この世界に来てから海と言うものを見ていないが、皇都は海から近いらしい。
全てが終わったら見に行ってもいいかも。
近いと言っても皇都からは見えないけどな。
「じゃあ、もう戦争は終わったのか?」
ここはリゴルドーのミランの実家だ。
夜にミランを連れて報告に訪れていた。
「はい。王国には損害はなく、国軍も比較的無事です。ここは戦地からも遠いので敗残兵などの心配もありません」
「まぁ戦争のことなんて俺達にはわからんが、みんなが無事ならそれでいい」
バーンさんからの言葉に少し安堵した。
大切なお嬢さんを預かっているのに、戦争に参加したんだもんな。
俺がバーンさんの立場なら1発2発は殴ってるな……
流石異世界価値観…いや、俺が過保護なだけか?
だんだん地球の価値観が怪しくなってるから、自信がないな。
「流石セイさんね!」「まぁ…エリーが無事なら」
こちらは王都のエリーのご両親だ。
こちらもどうかと思ったが、娘の年齢も年齢だけに、あまり言ってこなかった。
いや、逆向きにはめちゃくちゃ言われた。
「娘が王国の英雄なんて…お城にお呼ばれした時のドレスを用意しとかないとね!」
「王様にお酒なんか注がれたらどうすれば良いんだ?」
その心配はいらないかな……
二人にはあまり吹聴しないように厳命して、その場を後にした。
「明日の夕方までには着くみたいだよ。長旅も終わりだね」
あんた何も…いや、ご飯作ったり洗濯したりしてたな……
俺はもちろんずっとノロノロ運転だ。
俺たちだけなら車を飛ばしてすぐだが、大軍と一緒だからゆっくりだな……
車の中では俺以外のメンバーでババ抜きをしているが、相変わらず運が大きく左右する物に聖奈さんは弱かった。
そして遂に長旅も終わりを迎えた。
「やっぱり、皇都は大きいね」
小学生くらいの感想は聖奈さんだ。
しかしこれは仕方ない。
皇都の外観はやはりエンガードの王都と同じく、高い壁に囲まれていてわかるのは壁の大きさくらいだからだ。
水都が特殊なんだよ。
水都はこの世界の文明レベルからは考えられないくらい国民の芸術性が高く、街行く人たちもお洒落だ。
「流石に入国審査はないよな?」
「ないよ。他国の来賓である私達にそんなことをしたら、それこそ戦争だよ!」
いつから来賓になったんだ?
まぁ王族の手紙を預かってるから無碍にはされないだろうが。
もちろん軍の全てが街に入れるわけではない。
なので、ある程度軍での階級が上の者しか入らない。
「何だか凄いな…」
皇国軍が左右にわかれて、皇都までの道が開いた。
「通れってことだと思うよ」
皇国軍人はこちらに向かい手を振って何やら言葉を発しているが、みんなが好き勝手喋るから何を言っているのかはわからん。
まぁ笑顔だからいい言葉なんだろう。
聖奈さん達女子組はサンルーフから身体を出して、手を振り返しながらの皇都入場となった。
ライルは後部座席で昼飯の残りを食べている。
食い過ぎだ。