コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「エトワール様、走って下さい」
「そ、そんなこと言っても。きゃあ!」
緊張と焦りからか、私は、盛大にこけてしまい、足を擦り剥いてしまった。じくんと、膝から血が流れ出るのが分かり、衣服も破れているのが分かる。
ブライトは立ち止まると、私に手を差し伸べた。
「立てますか?」
「な、何とか。ごめん……なさい」
「謝らないで下さい。傷、大丈夫ですか?」
と、ブライトは私の足をみる。そうして、手をかざそうとしたが私はそれを制止した。ブライトは何故?と言う顔をしていたが、私は首を横に振る。
「後ろに大蛇が迫っているの、私でも分かる。だから、ここから脱出したらにして。走れるから」
「ですが……」
「それに、闇の中じゃ、光魔法は弱くなるんでしょ? 治癒魔法にどれ暗い時間がかかるか分かったものじゃないから」
そう私が言えば、納得したように、ブライトは小さく頷いた。
私は、ブライトの手を取って立ち上がる。ブライトがランプを、私が薬草を持って走っている。
先ほど歩いてきた魔法石の地点を越え、また真っ暗な洞くつ内に戻る。魔法石のエリアが光輝いていて眩しかったためか、ランプの光だけになると途端に心細くなる。右も左も分からない闇の中に放り込まれて、そして後ろからは大蛇がと恐怖心が膨れあがっていく。
はあ、はあ……と自分の息づかいさえ鮮明に聞えて、心臓の音もうるさい。心拍数が上がって、足がまたもつれる。だが、ここで倒れるわけにもいかないと痛む足にむち打って走った。けれど、今度は体力に限界が訪れる。慣れない岩場に足を取られて、何度もこけそうになってしまった。とても走るための道ではない。
けれど、止ればあの大蛇に丸呑みにされてしまうんじゃ無いかと思った。
(闇いろとどうかしていたのにはっきりと分かった。ブライトのいったとおり、洞くつと同じぐらい高い……それに大きい)
普通なら、数十㎝から、アナコンダだと数メートルになるのかも知れないが、さすがに何十メートルとはいかないであろう蛇が、そこに存在している。ファンタジー世界だからあり得るという次元ではなく、確かにゲームで出てきても大きいなー程度にしか思わないが、現実で出くわすと、命の危機を感じるほどのものだった。
心臓に悪い。
そう思いつつ、走るが、追いつかれないであろう何ていう余裕は全くなかった。
「エトワール様っ」
「何、ブライト」
「もう少しで、出口のはずです」
「本当に!?」
ブライトの言葉に、一縷の希望が見え、私はさらに身体に鞭を打って走る。洞くつの外まではさすがにでてこないだろうと思ったのだ。
何故洞くつの中に居るのか、きっとあの大蛇のテリトリーは洞くつ内だけなのだ。外に行けば、闇魔法や負の感情が集まって異常におっきくなったとすれば、外の光を浴びたとき、弱体化してしまうのでは無いかと思った。だから、大蛇は外に出ないと。
外に出てしまえばこっちのものだと、走るが、大蛇はその速度を上げて私達に近付いてくる。ブライトが、危機察知してくれて、早く走り出せたが、もうその距離を縮められてしまった。あの大きな図体をどのようにして高速に移動させているのか。全く不思議な話だった。
(何でもありなのね!)
そう、文句を言いつつ、私は必死に走った。
曲がり道を曲がれば、大蛇はドオオオンン! と大きな音を立てて壁にぶつかっているようだった。だからといって、速度が落ちるわけでもなく、こちらに向かってきている。そのたび、パラパラ、ガラガラ……と、洞くつ内の岩が崩れる。
(今、風魔法が使えればいいんだろうけど……)
ブライトの分を付与できるか分からないし、ランプの光なしじゃこの闇の中を走るのは辛い。そもそも、光魔法がどの程度まで威力が落ちているか分からないというのに、試しようがなかった。試したとして、失敗して大蛇に丸呑みにされたら? それこそ、取り返しがつかないのだ。
だから走るしかなった。
「ブライト!」
「何ですか、エトワール様」
「洞くつの外に出れば、大丈夫かな?」
「というのは?」
「大蛇が、それ以上追いかけてこないかっていうこと」
「追いかけてくるかも知れませんね」
「どうして?」
私は聞き返した。
洞くつの外には出ないと思っていたために、ブライトの言葉に驚かざる終えなかった。
(洞くつの外に出てもゴールじゃない?)
その絶望感は想像以上だった。
だが、外に出れさえすれば、魔力が戻ってくるだろうし、本来の威力が出せるだろう。それまで、逃げ切れば勝ちなのだが、何処までおってくるか分からない尾言う恐怖は簡単には消えない。今も尚、死の際で戦っている。
そうして、右も左も分からない闇の中を走っているうちに、仄かな明りを見つけた。それは、この洞くつの出口だった。
「で、出口!」
希望が見え、私達は最後の力を振り絞って走った。これで出られる……そう思った時だった。大蛇が後方で、私達を追いかけるでもなく、強く壁に体当たりをしたのだ。気配で分かった。
「うわっ!」
グラグラと揺れる地面、走ることは、まして立っていることもままならなくなり、私達はその場で膝をつく。先ほど怪我をした場所が下になり、私は痛みで顔をしかめる。
(あとちょっとなのに!)
私はそう思って、顔を上げれば、見えていた出口が崩れ落ちていくのが見えた。大蛇の体当たりによって洞くつ内が揺れ耐えきれなくなり、崩れてきたのだろうと。
「う、うそ……」
みるみるうちに塞がっていく出口に私は手を伸ばすことしか出来なかった。
退路は塞がれた。逃げ道もない。
そんな絶望的状況に、ずるりずるりとその重い身体で地面を這いながら大蛇が忍び寄ってくる。たった一つのランプが、大蛇の姿を映し出す。その姿はまさに、化け物。
闇よりも黒いその身体に、赤い瞳が怪しく光る。そして、鋭い牙を剥いて私達の目の前で止まった。
「あ……ぅ……あ」
あまりの迫力と恐ろしさに、足がすくみ、母音しか出なかった。蛇は口を開け、まるで笑うかのように舌を出し入れしている。それが、獲物を前にして喜んでいるようにも思えた。
どうするべきか。いや、逃げるしかない。
けれど、身体は動かない。
蛇の頭が大きく口を開ける。
(ダメ――――!)
「エトワール様!」
ガッと身体を捕まれ、間一髪の所で大蛇の攻撃を避けることが出来た。だが、同時にパリーンという音が響き、ブライトが持っていたランプが無惨に砕け散る。
光を失った洞くつの中は、闇に包まれてしまった。
「エトワール様、エトワール様! 大丈夫ですか!?」
「ぶ、ブライト……」
私の身体を抱き締めるようにして守ってくれたブライトの声が耳元から聞こえてくる。彼の腕の中に居ることに気付いて私はホッとした。まだ、生きていると実感できたからだ。
(そうだ、今は大蛇に襲われて……)
ハッと我に返った私は、ブライトの手を掴んで立ち上がる。そして、彼から離れようとしたが、彼は離そうとしなかった。それどころか、更に力強く抱き寄せてくる。
それに、私は動揺を隠せなかった。
だって、こんなに密着したことなんて今までにない。いつもは、少し距離を置いてくれていて……
(――って、そんなこと考えている場合じゃないの!?)
「ぶ、ブライト、その……」
「うっ……」
「え?」
ブライトが苦しそうな声を上げるので、私は思わず聞き返す。すると、彼が震えていることが分かった。もしかして、攻撃を喰らったのだろうか? 私を庇って、傷を負ったのだろうか。そんな中でも分かるくらいに、ブライトの顔色は悪かった。
そして、私の服を掴む手に力が込められたかと思うと、ブライトはそのままズルリ……とその場に倒れてしまう。慌てて彼を覗き込むと、その額には脂汗が浮かんでいて、息遣いも荒くなっていた。
手には、生暖かいものが広がっていき、かまれはしなかったものの、大蛇の突進で強く地面にたたきつけられたのが分かった。それも、きっと出っ張った岩にでもぶつかって。
(ま、また、私のせいで――――)
リュシオルの時のような、あの時のことがフラッシュバックし、しっかりしないといけないのにと思いつつも、私も呼吸が上がっていく。
私はただ呆然と眺めていることしか出来なかった。だけど、ブライトは懐から何かを取り出すと私の手のひらの上に乗せた。それはあの魔法石だった。
「エトワール様……これを使って逃げてください。やはり……一人分の転移しか魔力は、残って……いないようなので……この薬草を持って……皇宮に」
「ブライト……っ」
アメジストの瞳がゆっくりと閉じそうになっており、私は、彼の手を握った。渡された魔法石をみて、私はグッと拳を握る。
覚悟を決めなければ。
「ブライト、ありがとう」
「はい、エトワール様」
「リュシオルによろしくって伝えておいて、後、帰ってきて死んでたら許さないから!」
「えと、エトワール様!?」
私は、魔法石をブライトに握らせ、薬草を押しつけると、転移魔法を唱えた。ブライトの身体は魔方陣に包まれ、そうして一瞬のうちに転移する。
攻略キャラとは言え、死なないわけではないし、彼には色々とかしがある。それに、単純に死んで欲しくないから。
「私は、聖女だもん。こんなピンチ即行で乗り越えちゃうんだから」
私は、立ち上がって、手のひらに魔力を集め、大蛇と対峙した。