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シンヤは冒険者ギルドで2人組のチンピラに絡まれている。
「悪いがどいてくれるか? 俺たちは受付に用事があるんだ」
「へへへっ。だからよぉ。そっちの嬢ちゃんたちを置いていけって言ってんだよ」
「そうすりゃ、受付でも何でも、好きなところに行かせてやるさ」
2人の男はニヤついた笑みを浮かべながらシンヤたちを脅す。
その言葉を聞き、周囲の者たちが嘲笑を浮かべていた。
オルドレンの街では、冒険者が冒険者に絡むことは珍しいことではない。
お互いにマウントを取り合い、仕事を奪い合うのが日常茶飯事だからだ。
この2人組以外にも、オルドレンにはチンピラ紛いの冒険者が山ほど存在している。
これぐらいのイチャモンを跳ね除けられないのであれば、どの道ここではやっていけない。
(ふぅむ。どうしたものか……)
門で絡まれた際には、適当に返り討ちにした。
街の外だったし、多少の揉め事は大丈夫だと考えたからだ。
だが、ここは冒険者ギルドの中である。
同業の冒険者が多数居合わせているし、騒ぎを起こせばギルド職員がやって来るだろう。
敢えて騒いで職員を呼び、正当性を訴えるという手段もある。
だがそれは、自力では問題を解決できないと言っているようなものだ。
精強さが求められる冒険者という職業において、そのような考えは唾棄すべきものである。
しかしだからと言って、過剰にボコボコにするのもマズいだろう。
騒ぎを起こす問題児として、今後依頼を受けることができなくなってしまうかもしれない。
(面倒だな……。もっとこう、ストイックに迷宮に挑戦している奴らかと思ったが……。この様子じゃ、魔法の使い手も大した奴がいなさそうだ)
シンヤは思わずそんなことを思ってしまう。
そして、棒立ちになっている彼を見て、チンピラたちが調子に乗り始めた。
「ほれ、さっさと決めろや!」
「痛めつけられたくなかったら、素直に置いていきな!」
「なぁに、俺らは優しいからよぉ。明日には帰してやるさ」
「「「ギャハハハハ!!!」」」
「…………」
シンヤは黙ったまま動かない。
あまりの品性下劣さに呆れたためだ。
「ちっ! ビビッてんのか?」
「おいっ、早くしろよ」
「おいおい。あんまり苛めてやんなって」
「そうだぜ。こいつはあれだ。恥ずかしくて何も言えないタイプだ」
「違いねぇ」
周囲で見ていた冒険者が口を挟む。
それに同調するかのように他の者たちも笑い声を上げる。
「くくくっ」
「あはははっ」
「ぎゃはははっ!」
冒険者ギルドが嘲笑に包まれた。
「…………」
シンヤは嘲笑の的にされつつも、動じない。
地球にいた頃の彼は、魔法をひたすらに探究していた。
こちらの世界よりも魔素が少ない地球において、魔法という存在はほぼファンタジーだ。
それを追い求める彼の姿は、しばしば周囲から奇異の目で見られることがあった。
そのため、このような事態に慣れていたのである。
(とはいえ、ここまで馬鹿にされるとムカつくな……。ミレアやレオナードにも申し訳ないし)
ミレアやレオナードがシンヤに付き従っている理由は、シンヤに男性としての魅力を感じているからという理由が大きい。
そして、その中でも大きな比率を占めるのは、シンヤが単純に強いという点である。
ここまで舐められて何も言い返さなければ、彼女らは失望してしまうだろう。
シンヤは仕方なく、口を開くことにした。
「なぁ、あんたら――」
「そこまでよっ! あなたたち、何をしているのっ!?」
シンヤの言葉を遮るように、女性の声が響き渡る。
その声の主へと、全員が視線を向けた。
そこには、腰に手を当てた少女の姿があった。
「なんだ、テメェは?」
「このクソアマ、何様のつもりだよ?」
「ひひひっ。お前が代わりに相手してくれるってか?」
「俺はそれでもいいぜぇ?」
チンピラたちが、少女を睨み付ける。
この様子では、少なくともオルドレンを拠点に活動している冒険者などではないようだ。
「私は誇り高きCランク魔導師、アーシアよ。無法な行いは見逃せないわ」
少女が名乗る。
「は? お前ごときがCランクだとぉ? そんなわけあるかよ」
「嘘をつくならもっとマシなもんを付けやがれ」
「そうそう。そんなナリで俺たちとやり合えると思ってんのか」
「そうだそうだ」
冒険者たちが囃し立てる。
どうやらこのオルドレンの冒険者は、実力が全てらしい。
弱そうな少女がCランクを名乗ったところで、信じようとしないのだ。
「ふんっ、これだから魔導師って連中は……」
「けっ、大方、どこかの貴族のボンボンだろ」
「親の七光りでギルドに登録できたんだろうさ」
「その歳でCランクとか、絶対に不正したんだぜ」
「間違いねぇ。俺らの目は誤魔化せねぇぞ」
冒険者たちが口々に言う。
アーシアと名乗った少女が、彼らの言葉に眉を吊り上げた。
「私が不正した、ですって……?」
彼女が怒気を含んだ声で呟く。
どうやら、何かしらの地雷を踏んでしまったようだ。
しかし、チンピラたちはまだそのことに気付いていないのだった。