陽が西へ傾き、石畳に金の光が滲むころ
世一は小さな紙袋を両手に提げながら、城門前の坂道を登っていた
(やっぱり……人混み、しんどいなぁ)
でもそれでも――よかった、あんな自由、初めてだった
焼き菓子の屋台でおまけしてもらった話。
知らない子どもに話しかけられて、ちょっとだけ手を引かれたこと。
広場の噴水に映った空が、まるで絵みたいだったこと。
(誠志郎様は先に城に帰ったったからなぁ…機会があれば一緒にもう一回行きたいな)
それを、きっと――誰かに話したかった。
(……誠志郎様に、話したいな)
そこにいたのは――誠志郎だった。
そして、その隣には玲王と凛の姿も。
淡い光に照らされた誠志郎は、世一を見て、ふわりと目を細めた。
その一言だけで、心の奥が揺れる。
前世、何度も夢に見たその声。
それが今、この世界で、今の自分に向けられているーー
けれど、世一は首を横に振るようにして言った。
「待たなくてもよかったじゃないですか?」
誠志郎は微かに目を細めたまま、首を傾ける。
「いいでしょ別に(照)俺が世一に一番目におかえりを言いたかったの」
玲王がくす、と笑って誰にも気づかれない小声で呟いた。
「この世界でも、“逃げられない”かもね…」
その言葉の誰にも聞こえなかった
誠志郎の部屋
部屋の窓から夕焼けが差し込むなか、誠志郎は紅茶を淹れながら、扉の方を見ていた。
「遅いな……迷ったのかな」
そして、扉がゆっくりと開く。
「ただいまです。……ちょっと寄り道して遅れちゃいました(汗)」
世一の声に、誠志郎はほっと笑みを浮かべた。
「おかえり。無事でよかった」
その手に持っていた袋には、ほんの小さな菓子と、道端で拾った花が一輪。
「……あの、もしよければなんですけど。」
不器用で照れくさそうに手渡すその仕草に、誠志郎は一瞬、胸が詰まった。
「ありがとう、大切にする」
その言葉を聞き安心したように、ホッと息をつき誠志郎に笑顔をむけた
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