テラーノベル
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目が覚めて隣を見ると昨日と変わらずに藤澤さんは俺を抱きしめて隣で眠っていた。
やっぱりこの人といると安心して眠ることが出来る···昨日、俺を好きだと言ってくれた人。
優しい、包みこんでくれるような優しさをもっているひと。
「元貴···おはよう···あ、明けましておめでとうだ」
「あ、ほんとだ。明けましておめでとうございます···今年もよろしくお願いします」
なんだか昨日の告白を聞いておいて今年もよろしくというのは少し照れてしまうけど藤澤さんは全く気にする様子もなく眠そうな顔で起き上がると初詣いこっか、と着替えている。
あまりに普段と変わらない態度に昨日のは夢だったのかと思うほどだった。
「あ、ほんとに良い感じの神社···」
昔、滉斗とも初詣に行ったけど、なんで2人ともこんなちょうどいい感じの神社を知っているんだろう。
「でしょ?さ、お参りもしたし、おみくじ引くよ〜」
「あ、大吉···!」
「えっ、僕も!うわ、今年は2人ともすごく良い年だね···まぁ、元貴と元旦にこうして一緒にいられるってもうすごく幸せだけどね」
そんなことを言ってくれるのに曖昧に笑って何も言えない。
でもそんな俺に藤澤さんは、そのあと帰ってお雑煮をレシピを見ながら2人で騒ぎながら作って食べている時も仕事が始まっても変わらない距離感で接してくれた。
好きだと言われたのは夢だったのかと思うくらい、泊まることもなく、たまに誘えば家に来てくれるくらい···けど遊びに誘ってくれた時は嬉しくてお花見や約束通りに季節が夏に変わった頃にはお祭りも花火も見に行った。
優しい先輩、そんな距離感で接してくれる藤澤さんに安心していたし、少しもどかしい自分もいたのは確かだった。
「元貴、そろそろ海に行かない?」
週末の天気は快晴の予報で俺はすぐに行く、と返事をして仕事終わりに 一緒に水着を買いに行った。
「海だぁ···」
「海だねぇ···久しぶりかも···」
キラキラと夏の太陽に反射する海を見ながら2人して久しぶりの海を少し眺める。
「元貴、ちょっと待ってて!」
そう言うと藤澤さんはどこかへ駆けていく。
···本当に10年ぶりの海。
思わず滉斗と泊まりに行ったコテージや、2人で好きだと叫んだあの海を思い出す、あの時の幸せだった気持ちも。
「お待たせ、パラソルと浮き輪借りてきた!」
パラソルを俺が座る所に立てて見せてくれた浮き輪は2つの浮き輪がくっついたような∞浮き輪···。
「それは···すごい浮き輪···」
「でしょ?これならはぐれないしね、楽しそうだし!」
明らかにカップルで利用しそうな浮き輪だけど藤澤さんはうきうきとしているから···まぁ、いいかな。
「楽しそうです···海、入りますか?」
「入ろう!楽しむぞ〜!」
俺の手をひいて海に入っていく。
久しぶりの波の冷たさも繋いだ手の熱さもどちらも嬉しかった。
はしゃいで海の家でかき氷を食べて着替えた俺たちは砂浜でゆっくり夕日でオレンジ色に染まる海を眺めていた。
「楽しかった···本当に久しぶりだったけど海ってやっぱりいいね、来てよかったね」
「ありがとうございました、たぶん誘って貰わなかったらずっともう、海には来なかったから···大学生の時はどんなに誘われても行けなかったから···」
「そうだったの···じゃあ僕とだったから来れた、なんて自惚れてもいいのかなぁ···」
冗談だよ、と藤澤さんはそういうけど俺はその通りだと思った。
藤澤さんとなら、辛くなることはないって思ったし、もしそうなっても受け入れてくれるという安心感があったから。
「···なんで俺のこと好きなんて言ってくれるんですか?こんなに優しくしてくれるんですか」
この前から気になっていた。
それに好きと言われたのはあの時だけで、本当だったのかもう一度聞きたい気持ちもあった。
応えられないのに、けどその言葉を待っている自分がいる。
「···大学生の頃ねぇ、泣いてる元貴を見て気になっちゃったんだよね。あ、高野が紹介してくれたときに可愛いなぁって思ってその後ね···学園祭だったかな、みんな友達とか恋人とか他の大学の人もいて騒いでて、けどひとり人けのないベンチに座ってる元貴を見て···たぶん、今思えば泣いてなかったのかな?けどあの時は寂しそうで泣いてるのかなって···そのあとも何回かみんなで話とかした時もなんかどこか距離があって、なんでかなって心配で···そこからすごく気になってたんだ」
思い当たることはある。
周りのみんなが幸せそうで、なんで俺はひとりぼっちなんだろうってどうしょうもなく悲しくなったときが、あった。
「あとは若井さんとのこと聞いて元貴が愛情深い人だと知ったし、僕が側にいて笑顔してあげたいと思った。若井さんのことを忘れないで大切にしている元貴も、僕は大好きだよ」
大好き···その言葉が本当に嬉しい。
「ありがとうございます···そう言ってもらえるの、すごく嬉しい」
夕日が沈んでゆく。
太陽に照らされて、日焼けもあって、けどきっと少し照れて赤くなっているこの人を愛おしいと俺は思った。
ますます俺は藤澤さんと過ごす時間が多くなった。
12月がきて、外が寒い事もあって俺の家でよくゲームをするのが週末の過ごし方になっていた。
「また負けた···元貴ゲーム強いねぇ、勝てないよ···」
「よく若井ともしてたんで···その時は勝敗は五分五分だったからたぶん藤澤さんが弱いんです」
「そうなの?あー、もう1回···って、こんな時間だ、帰らなきゃ」
「泊まっていったらいいのに、服も貸しますよ」
何回かそう誘ったけど藤澤さんは少し悩んで結局帰ってしまう。
俺は全然藤澤さんなら泊まっていってくれていいし、楽しいのにと少し不満だった。
「ありがと。けど今日は帰ろうかな」
「えぇ〜、もっとゲームもしたいし映画も······もしかして、俺と寝たりしたらヘンな気持ちになりますか?なんて···」
やっぱり帰るんだ。
少しの意地悪な気持ちでソファから立ち上がった手を掴んで笑ってそう言ったとき藤澤さんと目があった。
その瞬間俺はソファに押し倒されていた。
「え···?」
「僕だって好きな人といたらそういう気持ちになるよ···知らなかった?」
「···っ、ふじさわさん···」
俺の太ももあたりに乗っかって 両手ともソファに強く押し付けられて身動が取れない。
「そういうこと、してもいいの?」
「え、あ···まって···」
そっと藤澤さんの顔が近づく。
待って、そういうことって···いきなりで心臓がうるさいくらいドキドキしてキスされる、と思ってぎゅっと目を瞑る。
けど唇には何も触れず、肩のあたりに頭が押し付けられて柔らかな髪が頬に触れただけだった。
藤澤さんは手を離して俺から降りると
俺をそっと起こして押し付けていた手首を優しく撫でた。
「ごめん···痛かったよね」
俺は無言で首を横に振る。
「怖い、嫌な思いさせたね、本当にごめん。僕は帰るね」
「あ···っ」
荷物と上着を手に取るとさっと部屋から出ていってしまった。
静けさが部屋に広がる。
手首なんて全然痛くない、 むしろ今痛いのは心だ。 嫌な思いをしたのはきっと藤澤さんの方。
だって俺は嫌なんかじゃなかった。
いきなりで驚いたけど、キスされるのを期待していた。
ごめん、滉斗。
ずっとずっと大好きだし、忘れはしない。
けど俺は···。
俺は、藤澤さんのことが好きだ···。
気づかないようにしてた。
でも好きになってしまってる。
その全て許してくれるような優しさも、真っ直ぐな言葉も、いつも楽しそうな笑顔も。
あの人からの好きが嬉しくて、他の人と仲良さそうな姿を見るともやもやする。 家に来てくれたら嬉しいし、帰らないで欲しいと思う。
キスしてほしいと思うし、一緒に眠ってほしいと思う。
「これってもう好きだよ···だって俺はこの気持ち知ってる···滉斗が教えてくれた気持ちだ···」
いつだって無くしそうになって気づく愚かな俺だけど。
「滉斗···俺、伝えていいかな···素直になって、甘えていいのかなぁ···?」
俺の勝手な想像でしかない。
それでもきっと滉斗はこう言ってくれる。
「元貴頑張れ」
コメント
7件
最後の♥️頑張れがぶっ刺さりました🥲✨ お日様のような💛ちゃんの温もりに包まれてますね、♥️くん❣️ だからこそ、頑張れ〜💕
大森さんを大事にしたいからこそ泊まらない。自分が傷ついても嫌な思いをさせたと気遣う。どっちも優しさなんだけど、もどかしいな。でも特に最後!若井さんの「元貴頑張れ」って言葉が素敵〜💕 優しさが満ち溢れてる。正に神作神作!(´人`)オガミチュウ