テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
#ロマンスファンタジー
百はな🍑
851
鷹槻れん

54,112
#ギャップ
ひより
2,301
世羅 鈴🎨🎤
117,671
コメント
1件
うわあ……第2話もめっちゃ良かった……!🥺💕 ルナリアが「叩かないで」「残り物じゃなくていいの?」って怯えてるのがもう胸痛すぎて。それに対してアレンが「誰も叩かない」「全部お前のために作らせた」って言うところ、本当に優しくて泣けたよ……作者さん、こういう“丁寧にほどかれていく心”の描写が本当に上手いね。 しかもルナリアの力が実は“唯一アレンを救える本物の聖女の力”だったって伏線回収、痺れた!あとカイルたちが魔獣に襲われてるシーンでは「ざまあみろ」って思っちゃった(小声) この先、アレンの過保護がどこまで加速するのか、すごく気になる〜!次の話も楽しみにしてるね🌙✨
(カチ、カチ、と静かな時計の音だけが響いている)
「……んっ……」
重い瞼(まぶた)を押し上げると、視界に飛び込んできたのは、見たこともないほど高価な絹の天蓋だった。
冷たい雨の音はもう聞こえない。部屋全体がパチパチと爆ぜる暖炉の熱で心地よく温められており、肌を包む毛布は、まるで雲のように柔らかかった。
「ここは……天国……?」
ルナリアは上体を起こし、自分の身体を見下ろして息を呑んだ。
泥にまみれていたはずの身体は綺麗に洗われ、酷い傷だらけだった指先には丁寧に薬が塗られている。身にまとっているのは、触れるだけでため息が出そうなほど滑らかな、純白のシルクのネグリジェだった。
王宮の地下にある、冷たく湿った物置小屋とはあまりにも違いすぎる。
(私、追放されて……あの雨の森で倒れて……)
記憶を辿ろうとしたその時、部屋の大きな扉が静かに開いた。
「――気がついたか」
入ってきたのは、漆黒の髪を揺らした美しい男性だった。
切れ長の瞳に、鍛え上げられた高い体躯。昨夜、薄れゆく意識の中で自分を抱きしめてくれた『あたたかい夜』のひと――この帝国の皇帝、アレンだった。
「ひっ……!」
ルナリアは無意識のうちに、身体を小さく丸めて布団に潜り込んだ。王宮での癖が染みついている。
カイル様の前で少しでも動きが遅ければ、激しい怒声とともに食事を抜かれていた。この美しい男性も、きっと自分に「無能のくせに贅沢なベッドで寝るな」と怒るに違いない。そう身構えたのだ。
しかし、アレンの行動はルナリアの予想とは全く異なるものだった。
アレンは驚くほど静かな足取りでベッドサイドへ近づくと、ルナリアと同じ目線になるように腰を落とした。その表情は、夜の湖のように穏やかで、優しい。
「怖がらせて悪かったな。身体の具合はどうだ? まだどこか痛むか?」
「あ、あの……ごめんなさい! 私、すぐに働きます! お部屋の掃除でも、何でもしますから、どうか叩かないで……!」
小さな身体をガタガタと震わせながら必死に謝るルナリアを見て、アレンの瞳の奥に、一瞬だけ鋭い怒りの炎が灯った。もちろん、それはルナリアに向けられたものではない。彼女をここまで怯えさせた『誰か』への激しい怒りだ。
アレンはそっと手を伸ばし、ルナリアの細い手を包み込んだ。
「誰もあなたを叩かないし、無理に働かせたりもしない。ここはガルディニア帝国の皇城だ。あなたは俺の命の恩人であり、大切な客人なのだから」
「命の、恩人……?」
ルナリアが首を傾げたタイミングで、部屋の扉が再び開き、豪奢な銀のトレイを持った侍女たちが次々と入ってきた。
トレイの上には、じっくり煮込まれた黄金色のスープ、焼き立ての白いパン、そして宝石のようにきらめく新鮮な果物が、信じられないほどの量で並べられている。
「まずは食べるといい。昨夜から何も口にしていないだろう」
目の前に並んだ温かい料理から、香ばしい匂いが立ち上る。ルナリアのお腹が、くう、と小さく鳴った。
「これ……私が、食べてもいいのですか……? カイル様たちの残り物ではなくて……?」
「残り物なわけがあるか。すべてあなたのために、最高の料理人に作らせたものだ。好きなだけ食べなさい」
アレンに促され、ルナリアは震える手でスープのスプーンを口に運んだ。
じゅわ、と濃厚な旨味と温かさが、衰弱していた身体に染み渡っていく。
「おいしい……っ、すごく、あたたかいです……」
ぽろぽろと、大粒の涙がルナリアの頬を伝ってスープの器に落ちた。
前の国では、冷え切って固くなったパンの耳を一切れ与えられれば良い方だった。こんなに温かくて美味しい料理を、叱られることもなく、お腹いっぱい食べていいなんて。
アレンは、泣きながら懸命に食事を口にするルナリアを、ただ静かに、愛おしそうな眼差しで見守り続けていた――。
ルナリアがスープとパンを綺麗に平らげると、アレンはそっとハンカチで彼女の口元を拭った。その手つきは、まるでもろい硝子細工を扱うかのように優しい。
「落ち着いたか。……ルナリア、一つ聞かせてほしい」
「はい、アレン様……」
「あなたの、その美しい銀色の魔力についてだ」
アレンがそう言うと、ルナリアはビクリと肩を揺らした。
「ごめんなさい、やっぱり気味が悪いですよね……。前の国でも『目に見えない地味な力しか使えない無能』だって、カイル様にいつも言われていました。何の役にも立たない偽物の聖女だって……」
俯くルナリアを見て、アレンは呆気にとられたように目を見開いた。そして、フッと低く笑った。
「無能? 偽物? ……あなたを追放した奴らは、揃いも揃って節穴(ふしあな)の目しか持っていないようだな」
「え……?」
「ルナリア。俺の身体を常に蝕んでいた『黒い霧』……あれは、大陸中の高位魔術師が束になっても解けなかった『神の呪い』だ。触れる者すべてを塵にする、最悪の暴走魔力だ」
アレンは自分の大きな手のひらを見つめ、それから愛おしそうにルナリアの小さな手を再び包み込んだ。
「それが、あなたの『月光の力』に触れた瞬間、綺麗に消え去った。今もこうしてそなたの手を握っているだけで、俺の心は驚くほど穏やかだ。……あなたは無能などではない。この世界で唯一、俺を救うことができる本物の聖女だ」
「私が……アレン様を、救った……?」
ルナリアは自分の白く細い手のひらを見つめた。
ただ夜空の月に向かって、みんなが平和に暮らせるようにと祈り続けてきただけの力。それが、目の前の優しい男性の痛みを消し去っていたなんて。
「ルナリア、俺はガルディニア帝国の皇帝として、そして一人の男として、あなたを絶対に手放さない。私の国で、私のために、これからは何不自由なく笑って生きてくれ」
「あ、アレン様……」
生まれて初めて、自分の存在を丸ごと肯定された。必要とされた。
ルナリアの金色の瞳に、じわりと温かい光が灯る。アレンの「夜」のような深い黒髪が、今のルナリアには世界で一番安心できる場所に思えた。
アレンはすぐに部屋の外の側近たちに命じた。
「ルナリアに相応しい、最高級のドレスと宝石をありったけ用意しろ。それから、彼女の好きなものは何でも買い与えるように」
皇帝直々の『超・過保護モード』の始まりに、城の侍女たちは嬉しそうに頷いたのだった。
◇
一方その頃――ルナリアを追い出した祖国・エルフレア王国。
「な、なんだこれはぁぁぁーーーっ!?」
王宮のテラスから夜空を見上げた王太子カイルは、腰を抜かして絶叫していた。
ルナリアが去った瞬間から、国中を覆っていた『月光の結界』は完全に消失した。 夜の闇の中から、これまで見たこともないほど巨大で凶悪な魔獣たちが、雄叫びを上げて王都へと押し寄せてきているのだ。
「リーザ! おい、新しき聖女リーザ! 早くお前の魔力で結界を張り直せ! 魔獣を追い払うんだ!」
「い、嫌よ! 無理よカイル様! あんな化け物、私のお祈りでどうにかなるわけないじゃないのぉぉーっ!」
きらびやかだった夜会会場は、一瞬にして阿鼻叫喚の地獄絵図へと変わっていく。
自分たちがどれほど愚かな裏切りをして、どれほど偉大な『月光の聖女』を失ってしまったのか。 カイルたちがその本当の絶望に気づくのは、まだ少し先の話である。