テラーノベル
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翌朝、ルナリアの部屋には帝国屈指のお抱え仕立て屋や職人たちが、総出で集まっていた。
ルナリアにぴったりのドレスを作るための採寸が、アレンの見守る中で行われる。
「……あの、ルナリア様。失礼ですが、このお背中の傷は……?」
採寸をしていた年配の女性仕立て屋が、思わず絶句して声を漏らした。
仕立て屋の手が止まったことに気づき、部屋の壁際に立っていたアレンが、静かにベッドへと近づく。
ルナリアが恥ずかしそうに身を縮める中、ドレスの隙間から見えた彼女の白い背中には、いくつもの古い鞭の跡や、重い荷物を運ばされてできた打撲の痕が、痛々しく残っていた。
高位貴族の令嬢であり、一国の『聖女』であったはずの少女の身体とは、到底信じられないものだった。
室内の空気が、一瞬にして凍りつく。
アレンの身体から、彼の激しい感情の昂りに呼応するように、濃密な『黒い霧』がボコボコと湧き上がりかけた。あの愚か者どもは、この小さく愛らしい少女の身体に、一体どれほどの苦痛を刻み込んできたのか。 怒りでアレンの奥歯が軋む。
「あ、アレン様……っ、ごめんなさい、醜いものをお見せして……!」
アレンの雰囲気が変わったのを察し、ルナリアが「怒られる」と誤解して涙目で顔を覆った。
その瞬間、アレンは無理やりにでも己の怒りを心の底へ抑え込んだ。
ここで自分が感情を爆発させれば、誰よりもルナリアを怯えさせてしまう。彼女が今必要なのは、怒りの嵐ではなく、絶対的な安心なのだ。
アレンは深い呼吸を一つ吐くと、湧き出しかけた黒い霧を完全に消し去り、ルナリアの前に膝をついた。そして、彼女の細く震える右手を両手で包み込み、その甲にそっと唇を落とした。
「……醜いわけがあるか。あなたの身体にある傷はすべて、あなたがどれほど健気に耐え、誰かのために尽くしてきたかという、気高い証拠だ。……だが、これからは違う」
アレンは顔を上げ、ルナリアの金色の瞳をまっすぐに見つめた。その切れ長の瞳には、狂おしいほどの愛おしさと、強い決意が宿っている。
「もう二度と、あなたの髪一筋さえも傷つけさせない。あなたを脅かすものは、この俺が世界の果てまで追い詰めて全て滅ぼす。だからルナリア……俺の前では、もう何も恐れなくていい」
「アレン、様……」
ルナリアの目から、ぽろぽろと涙がこぼれ落ちる。それは悲しい涙ではなく、あまりの優しさに胸がいっぱいになった温かい涙だった。
「さあ、仕立て屋。帝国の持てる技術のすべてを注ぎ込み、この世界で一番美しい聖女に相応しいドレスを作れ。予算など気にするな。ありったけの最高級品を、彼女のために仕立てるんだ」
「ハッ! 畏まりました、陛下!」
アレンの言葉に、職人たちも俄然やる気を出して目を輝かせたのだった――。
仕立て屋たちが用意した何十着ものドレスのデザインを選び終えたあと、アレンはルナリアの気分転換を兼ねて、皇城に併設された豪奢なサロンへと彼女を連れ出した。そこには、帝国中から集められた超一流の宝石商たちが、きらびやかな装飾品を並べて待っていた。
「ルナリア。ドレスに合わせる宝石も必要だ。何か欲しいものはないか?あなたが気に入ったものは、この部屋にあるものすべて買い上げよう」
アレンの言葉に、ルナリアはパチパチと瞬きをして、申し訳なさそうに身を縮めた。
「そんな……お洋服だけでも勿体ないのに、宝石なんて私には贅沢すぎます。欲しいものなんて、ありません……」
贅沢を禁止され、奪われるばかりの人生だったルナリアには、「自分の欲しいものをねだる」という概念そのものがなかったのだ。
そんな彼女の心の傷を察し、アレンは切なげに目を細めたが、無理強いはせず優しく見守ることにした。
その時だった。
ルナリアの綺麗な金色の瞳が、ガラスケースの片隅で、一瞬だけピタリと止まった。
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それは、大粒のダイヤモンドやルビーのような派手な宝石ではなかった。漆黒の最高級の絹を細工して作られた、一輪の夜に咲く花のような、慎ましくも美しい黒色の髪飾りだった。
ルナリアはその黒い髪飾りをじっと見つめながら、心の中でぽつりと思った。
(……アレン様の髪みたい。深くて、静かで、とっても綺麗な黒……)
ルナリアにとっては、どんなに光り輝く高価な宝石よりも、自分を地獄から救い出してくれたアレンの『夜の黒』が、世界で一番美しく、愛おしい色だったのだ。
ルナリアの小さな目線の動きを、アレンが見逃すはずがなかった。
「……これがいいのか?」
「あ、えっ……!?」
アレンがガラスケースからその黒い髪飾りをそっと取り出すと、ルナリアは慌てて両手を振った。
「ち、違います! その、ねだりたかったわけじゃなくて……ただ、アレン様の髪の系みたいで、すごく綺麗だなって思ってしまって……!」
顔を真っ赤にして弁解するルナリアを見て、アレンは一瞬、息を呑んだ。
自分のために、自分を想ってその色を選んでくれた。その事実が、アレンの胸の奥を激しく揺さぶる。愛おしさが限界を突破し、アレンの表情が甘く蕩けた。
「……あなたは、本当に可愛いな」
アレンは低く囁くと、ルナリアの前に少しだけ腰を落とし、彼女の綺麗なプラチナブロンドの髪に、その黒い髪飾りをそっと差し込んだ。
輝く銀髪の中で、アレンと同じ深い黒の花が、まるで月夜に咲く大輪のように美しく映える。
「これ以上なく似合っている。ずっと付けていてくれ。……俺はこれだな」
そう言ってアレンが隣のトレイから手に取ったのは、神秘的なプラチナの台座に、月光をそのまま閉じ込めたような透き通る銀色の宝石が埋め込まれた、小さなブローチだった。
「ルナリア、このブローチを、俺の胸元に着けてはくれないか?」
「えっ……!? 皇帝陛下であるアレン様の、お洋服にですか!?」
緊張で手が震えるルナリアだったが、アレンの優しい眼差しに促され、おずおずと手を伸ばした。アレンがそっと彼女の手を支え、彼の漆黒の礼服の胸元へ、美しい銀色のブローチがしっかりと留められる。
黒い衣の上で、ルナリアの髪と同じ銀色の月光が、気高く煌めいた。
アレンはそのブローチにそっと触れ、満足そうに微笑む。
「これで、俺たちは互いの色を身に纏ったことになるな。これからは、俺があなたの夜となり、あなたが俺の月となって、共に歩もう」
「アレン、様……っ」
ルナリアの胸はトクトクと甘い音を立てて高鳴る。アレンの大きな手が、そっと彼女の小さな手を包み込んだ。
「迷子にならないように、な」
「は、はい……!」
最高の贈り物を交わした二人は、甘い余韻に包まれながら、静かにお散歩へと出かけるのだった。
◇
その日の夕方、アレンの執務室に、怪訝(けげん)な顔をした側近の騎士が、一通の書簡を持って現れた。
「陛下、エルフレア王国――ルナリア様を追放したあの愚か極まりない国から、公式の書簡が届きました。魔獣の襲撃で崩壊しかけているらしく、『我が国から逃亡した無能な奴隷の女を今すぐ送り返せ』という、無礼極まりない内容です」
書簡を読み上げた側近の背後に、冷や汗が流れる。
アレンは胸元の『銀のブローチ』に優しく触れたあと、一転して、凍りつくような冷酷な笑みを浮かべた。彼の瞳には、エルフレア王国を完全に文字通り「潰す」ための、絶対的な王の威圧が宿っていた。
「……面白い。我が国の至宝を奴隷と呼んだ罪、その血と絶望で購わせてやろう」
コメント
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うわあああ〜〜〜!!!😭💕 第3話、最高すぎません!?!? ルナリアの背中の傷を見て怒りが溢れそうになるのを、彼女を怯えさせまいと必死に抑え込むアレン陛下の心情描写がまず痺れた…!「あなたの身体にある傷はすべて、気高い証拠だ」って台詞、マジでズルいよ神すぎる!!😇💫 そして髪飾りのエピソード…「アレン様の髪みたい」って思っちゃうルナリアのピュアさに胸きゅんが止まらない!!互いの色を身に着け合う二人、尊すぎて息できんかった😭💞💞 最後のエルフレア王国からの無礼な書簡→アレン陛下の冷徹な笑みのギャップも最高すぎ。「至宝を奴隷と呼んだ罪」のくだりでもう次話が待ちきれないよ〜!!ゆゆさん、超素敵なお話ありがとうございます✨🌸