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異様な佇まいの男が茂みから現れた。どう見ても無関係ではなさそうだ。男は水色の坊主頭で、体は普通の人間の二回りほど分厚い。
こいつ、一体何なんだ。外見もそうだが、異様なオーラを纏っている。コイツに違いない、コイツがリンをやったんだ! 俺は徐々に頭に血が上っていく。茂みから歩いてくる坊主頭の男を睨みつける。
「お前がリンをやったのか?」
「ああ? 何だお前、この女の旦那か? このライフルも、ちょっとばかし俺の腕が良いせいでヘッドショットになっちまった。本当は腹部を狙うつもりだったのにな。楽しみにしてたのによ。上物と久々に会ったと思ったからな。犯しながら悲鳴に喘ぐ姿を想像するだけでもビンビンになってくるぜ……」
俺は、坊主頭の吐く言葉一つ一つが癪に障ったが、深呼吸して落ち着かせる。奴が自分語りのように喋っている間に、リンの近くにいたソウに近寄り、
「母さんのそばにいてやってくれ。危なかったら村長の所まで逃げるんだ、いいな」
と伝える。ソウがこくんとうなずいたのを見て頭を撫で、坊主頭の方へと歩く。
「お前だけは絶対に許さない。宿れ――」
俺は、巨大な橙色牙の王とフライバエを背中と腕に、一瞬で形態変化させる。
「あ? 何だお前、ヘンテコ――」
有無を言わせぬ速さで、坊主頭の懐に一瞬で近づく。リンの敵。そしてリンを獲物にしたような罵詈雑言。全てが気に食わない。腕刀と化した右腕の大剣を横薙ぎにして腹部へ叩き込んだ。
坊主頭はその巨躯を地から浮かせ、大きく吹き飛ぶ。大木を一本、二本、三本と倒しながら飛んでいく。ソウから離れた場所へと、わざと吹き飛ばした。これで心置きなくやれる。
「痛ってぇな!! クソ野郎がよ!!!」
坊主頭の額に血管が浮き出て、般若のような顔になる。立ち上がる。あまりダメージは効いていないようだ。そして――
――ババババババッッッ
奴が持っていた細長い何かが形を変えた。ライフルからマシンガンと化した銃器は、薬莢と共に無数の弾丸を撃ち出す。
「!?」
一発、肩に受けたが、大剣でガードする。防ぐことは出来るようだが、だいぶ威力がある。撃たれる度に振動が体を揺さぶる。これほどの飛び道具は見たことがない。奴は何者なんだ。王国の追手なのだろうが、異質すぎる。
大剣といえど、形態変化した腕がシューと音を立てて焦げ、無数の跡が残る。くそが……
そして、どこからか抑揚のない女性のような声が聞こえた。
『コードネーム:ガニメデ――同期』
『全デバイス同期完了。制限解除――戦闘モードへ移行』
――次の瞬間、辺りが真っ白に冷えるような感覚。初めての体験。悪寒が走る。それも物理的な悪寒だ。ちらりと見た周囲は凍てついていた。この熱帯で初めて見る景色に戸惑いを隠せず、俺は何が起きたのかと構えを解こうとした。
「ガラ空きだぞ?」
なっ――
坊主頭の気配を察知できず、声が間近で囁かれる。ガードを解いた瞬間、死角からアッパーを入れられた。気づいた時には、真っ白に凍えた拳を顎に叩きつけられ、俺は宙に舞う。視界が明滅する。
凍えた拳の威力は凄まじく、顎は砕かれ、全身に霜がまとわりついた。そして、宙から地へと落ちる。
視界が真っ暗で何も見えない。朧げな景色。走馬灯が見えていた。
リン、ごめん……敵を取るはずなのに……死ぬのか……リンとの夢を果たせずに……
「やれやれ、雑魚が調子に乗るから、そうなるんだよ。あーあ、妻も守れず、おまけに自分も死ぬ。そしてお前たちの子供も俺に殺される。終いにゃこの村の連中もだ。まあ、お前はまだマシな方だ。さっきいた家族は、男の前で女を犯してやったからな。傑作だったぜ。リアルだと最高に気持ちがいい。そしてな、最後に銃を突き付けて果てた瞬間――『バンッ』あれは最高だった。」
ガニメデは語りながら愉悦の表情を浮かべていた。
「にしても、村人を殲滅するなんてな。あのトカゲ共と一緒にされるのはうざってえが仕方ねえ。王族との約束だからな。あいつら気に食わないが、コアのことについて取引してくれるようだから手を貸してやってんのに、まったく。あー、ここに来てから独り言が増えたようだ。」
ガニメデが独り言を続ける中、ゲンは深層意識を彷徨っていた。
◇
ここはどこだ。暗闇の中を探るように歩く。目の前に何かが現れる。リンのようなシルエットに変化した。
リンじゃないか。迎えに来てくれたんだ。
リンに似たシルエットに手を引かれる。とうとう俺も、こっちの世界に来たのか。導かれる。リンは引いた手を離し、何か呟いているように見えた。
「ゲン、ソウを守って……」
そう聞こえた気がした。
そしてリンは光の粒子となって消えていく。
待て、待つんだ……置いていくな……一人にしないでくれ……リン、頼むから……
……寂しい……ソウ……ごめんな……父さん、死んでしまったみたいだ……ごめんな……リン……
俺は涙を溢しながら、闇の中で膝を抱えてうずくまる。啜り泣きをしていると、闇の中、水面に映るように球体の物質が現れる。
――ドス黒い球体は少女の輪郭へと変形していく。
以前見た少女に似ているが様子がおかしい。真っ黒なシルエットだ。
『ねえ、ボクの力、貸してほしい? ねぇ、悲しい? 怒り? 何も出来ない自分への劣等感? 憎いでしょ。私も憎い…』
『この世界の全てに。あなたは私を助けてくれるんでしょ?』
少女が問いかけてくる。力を貸して戻れるのなら、欲しい。
「ああ、君を助ける」
『本当? やっぱり、あなた、あの人とどこか似てる気がする。いいよ。但し、儀式をして』
「あの人? まあいい。力をくれて、あの坊主頭を殺せるのなら何だってやる……」
『聞き分けがいいね。じゃあ、あの儀式の間に立って。そこに現れる人物を、この刃物で刺し殺しなさい。』
少女は黒い粒子となって消えた。そして灯火が目の前に現れ、円形の陣が出現する。陣の中には、血脈のような幾何学模様が浮かび上がっていた。
殺す?
禍々しいオーラを放つ刃物を少女から渡される。刃物は漆黒だった。
これで誰を殺すんだ。まあ、誰が来ても、俺は奴を殺せるのなら何だってしてやる。
俺は儀式の間の中央へと歩く。
――そこに現れたのはリンだった。
え? う、嘘だろ。そんなバカなことがあるかよ。それに、リンは死んだんじゃないのか?