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その様子に気づいたランディリックが、そっとリリアンナの背へ手を添える。


「大丈夫だ、リリー。皆、キミを歓迎している」


耳元で低く囁かれ、リリアンナは小さく息を整え、小声ながらも「……よろしくお願いします」と会釈できた。


そんなリリアンナにニコッと微笑んだその女性は、「こちらこそ、よろしくお願いします。申し遅れました。わたくし、侍女頭のブリジットと申します」と名乗る。


「コートなどをお預かりいたしますね」


ブリジットは柔らかく促し、リリアンナの肩から丁寧にコートを外した。続けて、手袋をそっと外し、帽子は髪を乱さぬように慎重に取り上げる。その所作には、冷えた身体を急に裸にしない配慮があり、防寒着をとった肌に温もりを残してくれていた。


まるで母親のような包み込む優しさをブリジットに感じたリリアンナの目元が、亡き母を思ってほんの少し潤む。


……けれど、その温もりに心を委ねることが、リリアンナにはまだ少し怖かった。

胸の奥には、かつて冷たく閉ざされた日々の記憶が、まだ薄氷のように残っているのだ。


そんなやりとりを見ていたセドリックが一歩下がり、ブリジットへ視線を向けた。


「ブリジット、お部屋までおふたりのご案内を頼めますか?」


「はい、セドリック様」


ブリジットはうやうやしく一礼し、侍女たちに荷物を運ばせながら、ランディリックとリリアンナに付き従った。


皆に見送られながら進むと、正面の大きな窓から中庭が一望できる。雪に覆われた庭の中央に、三本の林檎の木が等間隔に立っていた。枝はすべて冬枯れて葉を落としていたが、代わりに真白な雪を抱き、凍りついた空気の中で静かにたたずんでいる。


「……あれが、ランディの言ってたミチュポムの木?」


リリアンナが立ち止まって尋ねると、ランディリックがうなずいた。


「そうだ。どれも、昔――キミがくれた種から育った木だ」


リリアンナは一瞬足を止めて窓越しに三本の木を見つめた。


それは葉を落とし、白く眠る冬の姿。けれど、凍りついた枝の奥に、春を待つ命の気配が感じられた――。


その隣で、ランディリックの視線は屋敷に隣接した石敷きのテラスへと向かう。夏には庭を眺めながら茶を楽しめる造りだが、今は雪に覆われ、静寂だけが支配している。


ランディリックの脳裏に、緑葉が揺れる季節の記憶がよみがえる。――まだ木がもっと若かった頃、ウィリアムとこのテラスで茶を啜った午後。枝影が石畳に揺れ、柔らかな風が茶葉の香りを運んでいた。


やがて一行は右棟の居住区へと進む。


「この奥が旦那様の主寝室、その隣が将来の奥方様のお部屋でございます。しばらくはリリアンナお嬢様にお使いいただきます」


部屋の扉を開けると、深紅の厚手のカーテンと、暖炉のある広々とした空間が現れた。窓からは中庭の三本の木が望める。


「浴室はすぐ隣にございます。湯を張る準備はいつでも可能です」


ブリジットの説明に、リリアンナは軽く息をのむ。タイル張りの部屋に大きなバスタブが置かれ、湯気の立ちのぼる光景が目に浮かんだ。


すべてを見て回るうちに、リリアンナはふと、かつて叔父一家が乗り込んできたウールウォード邸で味わった寒々しい空気との違いを痛感した。


暖炉の火、温かい食事の匂い、誰もが自分を「お嬢様」と呼んでくれる。――そのすべてが、まだ信じられないほど優しかった。


……けれど、その優しさを素直に受け止めるには、もう少し時間が必要だった。


でも、リリアンナは不意に思い出す。玄関でブリジットにコートを脱がされた時の、あの指先の温もりを――。


胸の奥には、春を待ちながら雪の下で息を潜める種のように、まだ溶けきらない氷が残っている。


その氷が溶ける日は、果たしていつ訪れるのだろう――。

ヤンデレ辺境伯は年の離れた養い子に恋着する

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